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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
合宿旅行は五泊六日温泉仕事暴力教師付き!なんで先生まで来てるの!?だけど、それよりも怖い事が起きててさ……
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124・大人、子どもってなんだろうね

 戻ろうと思ったけども、あんなに怒っちゃった手前、どんな顔をして戻ればいいのかわからなくて変にウロウロしている……開口一番に許す! なんて言うのもおかしいし、かと言ってムスッとした顔をしたいわけでもないし……というか、仮面模様のせいでどんな表情でもネガティブな印象を与えがちだろうし……


「おや、こんな所にどうしたんだい」

「あ、おじさん。いえ、そのー……」

「皆が探していたみたいだけど、何かあったのかな?」

「そうなんですか。その……喧嘩っていうわけじゃないんですけど、なんか俺、怒っちゃって……」

「なるほど。今は落ちついたみたいかな?」

「はい。でも、どんな顔して戻ったらいいか……」

「それは確かに、とても悩むね」

「どうしたら良いでしょうかね……?」

「そうだね、私からは何とも言えないかな」

「うぅ……そうですか……」

「ただ、話を聞くくらいならできるよ」

「良いんですか?」

「調理しながらになってしまうけどね。良いかな?」

「えっと、お邪魔でなければ……」

「じゃあ、おいで」

「ありがとうございます」



 ――



 トントントン、ゴォー、キュッキュッ、ジャー、バシャン、ザザー。

 厨房の音、それをただただボーッと聴く。料理について俺は全然詳しくないのだけども、この音の先にすっごい美味しいご飯が出来るから、なんだかオーケストラみたいな気がしちゃう。


「どうしたら良いと思いますか……?」

 ぽつりぽつりとさっきの話の全容をおじさんに伝える。そのうえでもう一度聞く。


「そうだね、私も色々と思うところはあるけども……」

 きっと、良い答えを返してくれる、勝手だけどそう期待しちゃう。


「そのうえで、やはり私からは何とも言えないかな」


「どうしてですか……?」

 一生懸命に話したつもりなのに、答えが無くってガッカリしちゃう。いや、でも勝手に期待してただけ……


「答えを教えるだけなら簡単だと、私も思うんだ」

「……? それならなんで……?」

「だから、だよ。代わりに答えてはいけない、そういう事だよ」

「……宿題みたいな?」

「うん、君は賢いね」

「俺、バカってよく言われますよ。でも、なるほどです」


 また、しばらく厨房のオーケストラを聴く。


「どうしようと思ってるんだい?」

「あ、えと……俺が謝るのは違うと思っています。大声出したとかは謝っていいかもしれませんけど……」

「うん、そうだね」

「けど、不機嫌に振る舞うのはイヤですし、だからといって何とも無かったように過ごすのも変だし……」

「なるほど、それは確かに違いない」

「だから……なんていうか、その……ああ、やっぱり俺、どうしたらいいかわからなくて……」

「相棒に謝ってもらいたいとかは無いのかい?」

「うーん……謝ってもらえたら嬉しい、けども期待していないというか……」

「それはどうしてだい?」

「鷹田にとっては当たり前の事だったのかもしれなくて、そう思うと勝手に怒ったのは俺で……」

「なるほど」

 おじさんとの会話が途切れる。


 ……あれ? 俺は鷹田が悪い事をしていないって結論なのかな?

 そうなると謝ってもらいたいってどういう事? むしろ、鷹田にとって当たり前の事だったのに、俺が突然怒り出したって、なに?


「……あの」

「うん?」

「なんていうか、ちょっとだけわかった気がします。その……えっと……」


「どうしてわからないのか、っていう事が……ちょっとだけ」



 ――



「あー、なんつーか、悪かったなー」

「鷹田、お前本当にそれは謝ってるのか……?」


 森夜先輩に言われて、鷹田は謝る。鷹田が言葉だけでも悪かったって言うのが驚く。でも、それ以上に森夜先輩が、静かにだけど本気で怒っているのが意外だった。


「いや、ううん。俺が急に怒り出した方が悪かったよ。ごめん」


 ――なんで怒ったのかわからない。鷹田の考えは鷹田の考え。その線引きの中でだと、俺がなんで怒ったのか、本当にわからなかったんだ。


「へ……? いや、待てよマイナス。あんなにキレてただろ……?」

「落ち着いたらわかんなくなっちゃって」

「そ、そうか……? 本当に平気か?」

「振り返ったら、鷹田は鷹田らしい事言ってただけだしなぁって思って……」


 あはは、と愛想笑い。この様子に鷹田はいつものヤレヤレをしながら軽口を叩くのか、余裕ぶってへへーんってするのか、まぁ、そんな所だろうって思ってた。


「――どういう意味だよ。それはよ?」


 えっ?

 鷹田の反応が予想外。


「悪いのは俺だったって事だけど……」

「俺らしいって何? つか、あんだけキレといてお前が悪いって? お前が俺を許すじゃなくて、お前が俺に許してくれっつうの?」

「え、いや、待って。鷹田、怒ってるの?」

「はあ!? 別にキレてねえよ!!」

「いや、怒ってるじゃん!」

「ガキじゃねえんだからキレるわけねえだろ!! てかガキ扱いみたいでクッソムカつくわ!! こっちが大人の対応しようとしてんのに、何だよそれ。言う事言ったらどうなんだよ!?」

「だから、さっき言った通りで俺が悪かったって――」

「はいはい、そうだな!! お前が悪かったよ!! 許してやるよ!!」

「な、なんなのさ!! その態度!!」

「知らねえよ!! クソ!!」

「あっ、おい、待て! 鷹田!?」


 そのまま、鷹田の方が出ていっちゃう。森夜先輩は鷹田と俺を交互に見て、結局は立ち去る鷹田を見送る。


「あ、えと……鷹田が怒った……ッスよね……なんで……?」

「そ、そうだな……わかんねえけど、ガキはどっちだよって思っちまった……」


 鷹田が怒る所を初めて見た衝撃、そしてなんで怒ったのかが全然わからない事、それで、気がつくと、また泣いてた。



 ――



 鷹田の事を聞くなら近藤さん。そう思うけども、今はどうしているかなぁ。

 旅館を回ってみたら、お座敷で相談しているのを見つけた。盗み聞きとかのつもりじゃないんだけど、襖越しに様子を伺ってみる……


「だからさ、何も問題が起きてないんだから良いでしょ。それにコンクール終わったら3年は引退だし、今こんな話する必要無くない? それから近藤さんの好きにすればいいじゃん」


 ア、アァー……! 思ったよりもクラリネットの部長さん、バチバチに対立してるー!!


「それも考えていましたよ。でも、本当にそれで良いんでしょうか?」

「皆で緩く仲良くやるのがウチの部だし、わざわざ問題にして取り上げるなんて性格悪いよ」

「そうですね、私も多少はそう思います」

「しかもさ、雑用を引き受けた末に、やっぱり合わないなら辞めますって。責任とか無いわけ?」

「まだ辞めると決めた訳ではありません。それに、その場合の引き継ぎの準備もしてありますよ」

「この空気でやっぱり辞めないっていう方がおかしいと思わない?」

「そうですね。それでも先輩含め、私は皆で吹奏楽部を一緒に続けたい意思がありますから」

「皆はどうなの? 近藤さんと続けられると思う?」


 誰も喋らず、シーンとしている……隣で声だけ聞いてるから、皆の様子は見れないけど、すごい修羅場には違いない。


「ねえ! 正直に言っていいんだよ? ほら、アンタは私とずっと仲良しだったでしょ? どうなの!?」

「あ、えっと……先輩と良い思い出作りたいですしね。その……はい」

「他の皆も! ひとりずつ言っていってよ!」

「じゃあウチからええですか?」

「渋谷さんは助っ人でしょ? それに近藤さんと仲良いし、吹奏楽部の顔しないでよ」

「仲良しやと喋ったらアカンのか。なら、部長側の意見しか喋れんなこれ」

「他の皆は喋ってくれて別に良いけど?」


 普段はあんなに明るい渋谷さんが、真剣なトーンで話している。これは、やっぱり盗み聞きするのは良くないんじゃ……でも、心配というかなんというかで離れられない……


「んー、一応なんですけども、部長はどうしたいんですかー?」

 あ、この声はチューバさんだ。

「どうって……今まで通り普通に楽しく緩くやりたいって言ってるでしょ!?」

「そうなんですねー」

「吉原さんは私の味方だよね?」

「あー、いえ、敵とか味方じゃないんですけど、うーん」

「なんでいつも空気読んでくれないの!? 味方じゃないなら吉原さんも出ていってよ!」


 ……聞いてるだけで結構ツラい。でも、部長さんにとっては味方以外は敵に見えちゃうんだなぁ……


「あの、もうそれなら部長についていくか、近藤さんについていくか各個人で決めればいいんじゃないですか」

 ……あれ? この声は月野さん? 怒ってるのかな? いつも優しいから、知らないトーンでビックリ。

「吹奏楽部の部長は私よ!? 部長に従えないの!?」

「私達って部長の言いなりなんですか? そんな拘束力あるんですか?」

「月野さん待って。落ちついて。部長も落ちついてください」


 一瞬、金切り声が響きそうになった所で近藤さんが話を止める。


「部長だけでなく、皆にも勘違いしてほしくないんですが、私は敵とか味方とか言いたい訳ではありません。加えて言うと、私は吹奏楽部の皆で良い思い出を作りたいと思っているんです」

「アンタのせいで最悪の思い出になってるでしょ!!」

「はい、一端は私にありますね」

「せめて私達3年が引退してからでいいじゃない!!」

「それが本当によかったんですか?」

「最後の夏だっていうのに、良い思いさせてくれればいいじゃない!!」

「……」

「仲良くやってたのにね!? 楽しくやってたよね!?」


 部長さんの声に、返事をする人はいない。


「誰か!! 答えなさいよ!!」


「――ウチ、助っ人でカウント入らへんみたいやから勝手に言わせてもらうけどな?」

「アンタは黙ってよ!!」

「コンちゃんは、部長と話したくてコレ企画したんやと思うんよね」

「よってたかって苛めるために? 最低!!」

「ちゃうって。面倒やし、普通はお見送りしてからやるのが正解やん。部長も言うてるやろ?」


 ……あっ、そういう事か。

 近藤さんのしたい事、それはつまり――


「私は、部長含めて、皆で良い思い出を作りたいんですよ」


「違うじゃないですか、先輩が居なくなったから何かするって。

 酷い言い方をするなら、おかげでやっと楽しくできるみたいな、そんな風にしてしまうのって不誠実だと思うんです。

 合わない人を追い出す事と、一緒な気がしませんか?」


「部長と私の考えが違っているのは確かです。

 楽しくやりたいっていう言葉は私も一緒です。でも、その中身がどうやら違うみたいなんです。

 だから、話したいですし、吹奏楽部の皆とも相談したかったんですよ。

 その結果、私だけ認識が違うみたいなら、離れるしかないと思っていました」


「皆はどうかな? どうですか?

 私は仲間として仲良くやりたいです。間違いがあれば指摘しあい、疑問があれば話し合える、そんな風に仲良くしたいって考えています。

 できない事を必死にがんばらなくても良い、できる事を少しずつで良いから増やせる、緩いかもしれないけど、皆で一丸となれる部活動をしたいです」


「あー、いいなぁそれ。私の演奏どうか聞いても、良いと思うしか返ってこなくて寂しかったんだよねー」

「ウチ、ヨッシー先輩はめっちゃ頼りにしてるでー」

「あははー、ありがとうー。シーちゃんは初心者なのにすごいがんばってるよね。むしろビックリするくらい真面目で、実は堅いのリズムに出てるよね」

「ホンマですかっ!? それ教えてほしかったですよー!」

「いやー、私が間違ってるのかそうじゃないのか不安でさー……あ、ごめん、話の邪魔しちゃったね」


 コホン、と咳払いが聞こえる。


「ほんの短い期間になってしまうとは思います。それでも、どうか、私は部長と皆と良い思い出を作りたいです。

 少しだけ、私に付き合ってくれませんか?

 おねがいします」


 ……近藤さん、良い人過ぎるよ……

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