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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
合宿旅行は五泊六日温泉仕事暴力教師付き!なんで先生まで来てるの!?だけど、それよりも怖い事が起きててさ……
121/155

121・何も無さそうでも気を付けよう!

 タオルや服を畳んだり、トイレの掃除をしたり、配膳を手伝ったりしてから晩御飯。

 今日も板前のおじさんのまかないは美味しい。


「頼まれてねえなら静観安定だろ」

「えっ、でも心配じゃないの?」

「勝手に手助けするのって正直、マジでウゼえからな。それ自体がマウントっつーかなんつーか」

「うーん」


 マウント……そういう気持ちは無いつもりだけど、『自分の心配』っていう気持ちを解消するために手を出すのは確かに良くない。それに俺なんかよりよっぽど頼りになる鷹田の言う事だ。俺は頷く。


「んじゃ、そういう訳でご馳走さんでした。今日の仕事終わらせちまおうぜ」

「おう、ご馳走さまでした。今日は洗う方やってみてもいい?」

「別にいいけどよ、できるのか?」

「コツとか教えて!」

「仕方ねえなぁー」


 誰かが何かに挑戦してる、だから自分もちょっとだけ挑戦してみようと思った。俺のは全然大した事じゃないけど。


「とりあえずやってみ。ダメ出ししてくから」

「わかった」


 鷹田がどんな風に洗ってるかを思い出しつつ、まずは真似していこう。えーっと、スポンジに洗剤をかけて、泡を……あ、水も必要か。蛇口をひねって水を出す。うん、泡モコモコ。これでお皿を洗い始めれば良いかな。お皿に手を伸ばす――


「いきなり直接洗うんじゃなくて、軽く流すなりしてからが良いぜ。ソースが残ってたりするし」

「へー、そっか」


 そういう訳でお皿を蛇口の下に移す。すると、ダバーっと出していた水が食器(お椀の蓋?)に当たり、ブワーッと周りに水の膜ができて――


「ウワァ!?」

「うわっ!? バカバカ! 水止めろ!」

 何とか水を止めたものの、またふたりでビッショビショになっちゃった……


「ご、ごめん……!」

「いや、まぁ……たまにあるからいいけどよ。終わったら風呂直行だな」

「次は気をつける……!」


 ……


「目、大丈夫か?」

「しみたけど今は平気……」

「最悪、失明するとかもあるんだから違和感残ってたら言うんだぞ」

「おう、わかった……」


 洗ってる最中に泡が目に入ってちょっとしみた。既にずぶ濡れだったから大した事はなかったけど、処置してる間は鷹田代わりに色々やってもらって足を引っ張っただけになっちゃった。


「ま、風呂行くべ。練習は風呂後でいいよな?」

「おう、大丈夫……」

「せっかくだし、先輩たちも誘って練習しようぜ。てか、やる曲決めた?」

「あの曲の中で選べばいい?」

「そうだな、流行りは抑えてあるし」


 話しながら部屋に戻り、パパっとお風呂の支度を始めようとした時――

 鷹田は床にあった充電器のケーブルに足を引っ掛け、体勢を直そうとした先の洗濯バサミを踏み、その拍子にギターのケースに足をぶつけて、壁に頭を打った。


「いってええええ!?!?」

「鷹田ー!? 大丈夫!?!?」

 痛みに悶えてちょっと涙目の鷹田。か、かわいそう……


「ま、まだまだ大凶継続中かよ……」

「大丈夫? えっと、頭ぶつけたら冷やしたらいいんだっけ」

「一応平気……たんこぶも小さいし」

「俺が言うのもなんだけど、気をつけていこう……」

「いってー……」



 ――



「あー、やっぱり石鹸落ちてるわ」

「もうこんなので引っかからないんだからね……!」


 大凶なのを自覚して気をつけてお風呂に入る。洗面台の前が水浸しだと思ったらつるつる滑るオイルだったり、備え付けのドライヤーのコードの一部が剥き出しだったり、気をつけると危ない事ばっかりだった。確認大事。報告もヨシッ!


「どうせだったら不可抗力によるアンラッキーが欲しいぜー」

「え、どういう事?」

「ベタっつうかなんつうか。まぁ思い当たらねえならそれでいいけど」

「んー??」

「てか、疲れたー……練習しようって言った手前だけど、風呂上がったらまた爆睡しそう」

「あー、それはわかる。俺も昨日よりはマシとはいえ、眠いかも」

「先輩たちはどうしてるんだか」

「顔は出しておきたいよね」


 ふわぁ、とお互いに大きなあくび。


「ちなみになんだけどよ、バイオリンはいつからやってんの?」

「ん、えっとー……」

 正直に答えるなら、明確には覚えていない……物心がついた時には弾いてたし、今のバイオリンはずっと持っていたし……


「親からやらされてんの?」

「ううん。たぶん、やりたくて……?」

「まぁ、そりゃそうだよな」

「なんていうか、話し相手って気持ちもあってさ……」

「バイオリンがか?」

「うん」

「なるほどなー」


「鷹田は?」

「何がよ」

「うーん……ギターとか、サックスとか」

「サックスは中学の時、会長に誘われてだな」

「ギターは?」

「自分の持ったのは高校から。触るのはもっと前からだけどよー」

「やっぱり近藤さんのお父さんに?」

「そうそう。弾いてるの見て、俺も弾きてーって」

「へー!」


 鷹田から素直な話を聞けるのが嬉しいうえに、きっかけも知れて嬉しい!


「俺もベースは実は――うわっ!? いきなり水鉄砲やめて!」

「そろそろのぼせるから、上がるぞ」

「それは確かに……」


 話の続きはまた今度。



 ――



「いや、ふたりとも寝たほうがよくないか……?」

「大丈夫れすよー……ちょっとだけですからー……」

「おれとか全然余裕っすから。ぜんぜん余裕っすから。よゆうっす」


 お風呂を上がった後に森夜先輩たちの部屋へ。猛烈な眠気に襲われてるけども、ちょっとだけ練習したい。ちょっとだけ。


「時間も一応夜だしさ、音出すのも良くないだろうし、明日の朝早くに起きて一緒にやろうぜ? な?」

「いやぁ俺全然余裕っす。よゆうっす」

「音を出さなくても運指の練習もいいですよぉー。朝もやりましょうー!」

「わかったわかった……じゃあ、それやろうな」

「わーい」

「俺全然余裕っすね」

「黒間も一緒に練習やろうぜ? 軽くでいいから」


 メトロノームを用意する。カッチッカッチッカッチッカッチッ……


「自分のペースだけでやると、手癖ができやすくなるので、メトロノームを使うといいです!」

「俺はぜんぜん余裕っすけどね」

「わかったわかった……」


 黒間先輩はメトロノームに合わせてスティックを叩く。それぞれのギターとベースでクロマチックを始める。

 ふわふわとした感覚、そこに一定のリズムで音が並べられていく。別に変わったことは何もしていないんだけども、なんだか楽しくて楽しくて仕方ない。鷹田はどんどんリズムが崩れていく。ぜんぜんよゆうってなんだったんだー!

 いつのまにかただのきそれんのはずだったのが、音色になっていく。ちいさなへやだったはずが、ステージになっていて、みんなでライブする! おれたちと、おきゃくさんで世界ができている。うおおおお、おれたちのゆめのろっくをみんなでかなでろおお!!


「黒間、こいつら部屋まで運ぶの手伝ってくれるか? てか、これは流石にお前でも笑っちまうよなぁ」


 ムニャムニャムニャ……



 ――



 朝起きて、いつの間にか自分たちの部屋に居て、昨夜に先輩たちの部屋に押しかけて寝ていた事に気がついて。

 なんだかんだしていたら森夜先輩たちが来て、朝練しに行こうって声をかけてくれた。昨日はすみませんって謝ったら、疲れてたから仕方ないって笑ってくれて、今日も良い1日になりそうって思った。


「俺が選んでいいなら、これかな?」

「おっ、良いっすねー。アガる感じがツカミに良いって思ってたんでー」

「良いと思う」

「じゃあこれにしましょっか!」


 夏のイメージって色々あるけども、この曲は燦々(さんさん)と照りつける太陽と青い空の下、心に火がついて盛り上がるような曲だ。


「じゃあ、早速合わせてみましょうか!?」

「いや、待ってな……練習させてな」

「楽譜見ただけでパッとは普通、弾けねえんだからな?」

「ハッ、そうだった……!」

 エーン、合わせるの楽しみだよー!!


 ……


「なんか聞こえる思ったら朝練してるやん! おはようやで!」

「渋谷じゃん。暇してんならそっちはそっちで朝練してろよー」

「ちょっとで良いから見学させてや! ほんのちょっとで良いから!」

「渋谷お前さー」

「まぁまぁ鷹田、別に良いんじゃないかな……? 黒間も良いか?」

「……まぁ」

「ありがとやで! あっ、ありがとうございますー!」

「…………マイナスも――」

「もちろんですよ!! えへへへへ」


 渋谷さんは真っすぐに黒間先輩の所へ向かう。


「うち、ドラム志望なんですよー! よろしくおねがいします!」

「ん、あ、あぁ……」

「ハッ! 邪魔にならんように離れておきますね!」

「……いや。大丈夫」


 ふたりの様子を見ていて心配だったのは森夜先輩も鷹田も同じだったみたいだけど、黒間先輩の一言で少し安心した。

 それから、そこまで長い時間ではない朝練を終えて、俺たちは旅館に戻る事にする。


「見学させてくれて、ホンマにありがとうございます! やっぱりドラム最高やわー!」

「……」

「あっ、うちはめっちゃ喋る方でやかましいですよね……? すみませんー!」

「……いや、別に」

「別に……?」

「……大丈夫」

「ホンマですか!?」

 黒間先輩は頷く。


「それならよかったー! よかったらまた見学しても良いですか!?」

「大丈夫」

「うわー! ありがとです!!」

「……また」

「はーい! またおねがいしますー!!」


 俺たちは渋谷さんを見送る。


「あー、その……黒間、本当に大丈夫か?」

「大丈夫」

「……そっか。わかった」


 ……何とも言えない空気。黒間先輩は口数が少ないから、どんな事を思っているかは想像するしかない。だけど、以前の黒間先輩からスゴい変わった事はわかる。その変化に、俺たちはしみじみしてるのかな、そんな風に思った。


「おーい、君たち」

「あっ、おっちゃんじゃないすか」

「良いところに来た。少し手伝ってくれないか?」


 俺たちはそのまま、板前のおじさんの手伝いをする事にした。



 ――



「暇になりそうなら、半休って感じでも全然大丈夫っすよ」

 朝のまかないを頂きながら、鷹田と女将さんが相談している。


「それはありがたいけども、本当に良いかしら?」

「色々良くしてもらってるのも勿論ですし、良い所だから遊ぶ時間欲しいなーってめちゃくちゃ思ってたっすからー」

「それなら甘えさせて頂くわね。ありがとう」

「いえいえ、こちらこそお世話になりますー」

 そして女将さんは部屋から去る。


「こういう時、鷹田ってがっつかないんだね」

「仕事は2回3回って続く方が良いからな。それが良い相手なら尚更。

 また働けたら良いと思える場所なら、こっちも良くしてまた働いてもらいたいって思われた方が良いだろ?」

「それは確かに!」


 採れたての野菜をポリポリ食べながら同意! おじさんの畑の採れたてが美味しい!


「本当に色々考えてるよなぁ……これで俺たちのひとつ年下なんだもんなぁ」

「人それぞれって奴っすよー。マイナスはたったひとつの長所以外壊滅ですしー」

「そうだけど、がんばってるつもりだよ!?」

「はは、俺もがんばらなきゃなぁ」

「とりま、仕事終えたら色々やりましょー」

「何やるの!? 何やるの!?」

「楽しみにし過ぎだろ。また泣いても知らねえぞ?」

「ハッ……また騙すつもりだったの?」

「秘密」

「うー……」


 でも、楽しみ!!

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