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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
合宿旅行は五泊六日温泉仕事暴力教師付き!なんで先生まで来てるの!?だけど、それよりも怖い事が起きててさ……
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117・パーフェクトプラン=パーフェクトコミュニケーションではない

 早朝、 3日ぶりに鷹田と森夜先輩と黒間先輩と会って、それから大荷物を抱えながら電車に乗った。

 知らない遠い場所で、五泊六日を一緒に働いたりして過ごすのは割と楽しみで仕方ない所がある。

 でも、それはそれとして何とも微妙な気持ちがあるのも間違いない。


「……教科書読んでるの?」

「おう。なんか悪いか?」

「いや、別に……スマホ触らないんだなぁって」

「通信費かかるじゃん。教科書はコスパ良い暇潰しだろ」


 前の席に座ってる黒間先輩は相変わらず読書だけど、鷹田も教科書読んで暇潰しは意外。前の席に座っている森夜先輩は何をしてるんだろ……


「そういえば、この間のゲーム持ってきたんだけど……」

「なんだよそれ。泊まりだからってはしゃぎまくりか?」

「移動中とか、暇かなぁって思って」

「俺はパス」


 そう言ってから、鷹田は自分の荷物を引っ張りだして、本を寄越してくる。開くと最近の曲のバンドスコア(楽譜)だった。


「ちょうどよさそうなの見つけといてくれよ」

「わかった」

「あとついでにこれ」

 鷹田がチョコをついでにくれる。いつものチョコ。


「ん、ありがとう」

「じゃ、よろしくー」


 ……嬉しいはずなのに、なんでだか素直に喜べない。ゲームについては正論だし、バンドスコア眺めてる方が俺としては絶対に楽しいし、チョコもすごく嬉しい。なのになんでだろう。


 まぁいいや。バンドで演奏するのにちょうどよさそうな曲がないか探してみる。並ぶ音符を頭の中で音にして、どんな世界が広がるか、それを探求するのはすごく楽しいんだ。


 ……


「おい」

「ん、何?」

「外、見てみ」


 急に鷹田に促され、窓を見る。

 突き抜けるように青い空に、大きくて真っ白な入道雲がそびえ立っている。いつもは視界を防ぐ建物が無い開けた先には、海と対岸の陸地がハッキリと見える。夏っていう言葉をそのまま抜き出したかのような、綺麗な光景だった。


「おわー……すごい」

「やっぱマイナス、こんなんで喜ぶんだなー」

「だって綺麗だし」

「ま、なんか映えるっていうしな」


 鷹田はパシャパシャとスマホでその風景を撮る。


「一緒にセルフィー撮るか?」

「んー、撮る!」


 思い出を残せるのは大歓迎!

 なんだかんだふたりで並んで鷹田が撮ってくれる。そのうち、森夜先輩と黒間先輩も入れて4人の写真も撮れたらいいなぁー。


「あ、あれって船かなぁー」

「そうなんじゃね?」

「あの辺りって海水浴場とかもあるのかな」

「泳ぎたいならプールでよくね?」

「いや、海ならではの楽しみ方ってあるし……貝拾うとか」

「スーパーで買うのが安くて美味いぜ」

「……」


 風景を見てたけど、思わず鷹田の方に振り返る。

 鷹田はスマホを弄っていて、もう風景を見ていなかった。


「加工こんな感じかなー見てみ」

 鷹田のスマホに俺たちの画像が華やかに写ってて、それはすごいんだけども……


「後で送っとくなー」

「うん……ありがとう」


 鷹田らしいのは鷹田らしい。けど、なんでだかイマイチ嬉しくないのはなんでだろう。


「そういえば、お昼ご飯の予定って?」

「ん、向こう着いてから食べる予定だけど」

「まだ結構時間かかるよね……車内販売で何か買おうかな」

「高くつくのによく買うよなー」

「でもなんか楽しいでしょ」


 席を立って自動販売機に向かう。ちょっとしたお菓子と、ついでにみんなの飲み物も買っちゃう。森夜先輩に黒間先輩の分も渡しつつ、自分の席に戻る。


「これ、鷹田の分」

「は? 別に俺、頼んでねえんだけど」

「それはわかってるって。ひとりで頂くのはなんか悪いなって思って」

「気にしすぎだろー、俺は飲み物持ってきてるから平気だし」

「普段は一口分けてって言うし、夏だから水分いくらあっても良くない?」

「あー、わかったよ。貰っとく。ありがとな」


 飲み物を受け取って、それからまた教科書に目を落とす鷹田。


「一応、これも食べていいからね」

 お菓子を鷹田に差し出す。

「はいはい、ありがとな」

 鷹田は適当に摘んで口に運ぶ。その後は一切口にしない。


 窓の外に見える景色は最高で、手元にあるバンドスコアも夏を感じる曲ばかりで、友達と並んでるのになんでこんなにモヤモヤするんだろう……



 ――



 電車とバスを乗り継ぎ、目的地まで少し坂道を歩く。日差しは強いけど、豊かな緑が作る爽やかな空気と木陰のおかげで何とかやり過ごせる。


「鷹田、荷物大丈夫? 重くない?」

「別に平気だけど?」


 ガラガラとスーツケースを引く俺と森夜先輩に対して、鷹田と黒間先輩は全部カバンで背負っている。加えてそれぞれギターやベース、アンプ、借りた電子ドラムを運んでいて、荷物がいっぱいだ。


「着いてからもバイトで大変なんだし、荷物交代しようよ」

「普通に俺の方が丈夫だし、これくらい余裕だっつの。それよりめちゃくちゃ腹が減ったから、さっさと行きたいんだよ」

「うーん、そうかもしれないけど……あっ、ちょっと待ってよ!」


 ペースアップする鷹田。追いつけない事はないけど、後ろを振り返る。


「わ、わりぃ……先、行ってて……いいぞ……」

 森夜先輩がへばっている。

「あー、いえ……その、うーん……」

 正直、俺も少し疲れ気味。鷹田についていくのは無理だ。


「少し休みますか?」

「いや……もう少しだろ? 大丈夫……」

「じゃあ、何か荷物を代わりに持ちましょうか?」

「あー……いや、でも殆ど持ってもらってるし、さ……」


 と、その時に森夜先輩の隣を歩いていた黒間先輩がスーツケースを手に取る。


「あ、いや、黒間、荷物大変だろ……?」

「別に、いい」

「いや、ありがたいけど……」


 返事はなく、そのまま黒間先輩は歩き始める。


「俺もそのギター、持ちますよ」

「い、いや、そしたら俺、全部持ってもらう事に」

「俺、そそっかしいですから、バイトが始まったら色々頼らせてもらいたいですし」

「わ、わかった……ありがとうな」


 そのままもう少しだけ坂道を歩く。


 ……


「おっ、きたきた。残りの3人っす」

「疲れたでしょう。麦茶をどうぞ」


 少し時代を感じるとともに、温かみのある旅館に着いて女将さんと鷹田に迎えられる。

 爽やか空気とはいえ、夏の日差しの下で坂道を歩いて汗をかいた身体には、麦茶がもうそれはそれは美味しすぎてたまらない。

 いただきがてら、俺たちも挨拶をした。


「さ、まずは荷物をお部屋に置いてもらって、それからご飯にしましょうか。お仕事のお話はその後で」

「めちゃくちゃ腹減ってたんでヤバい楽しみっすよー! 女将さんが作ってくれるんすか?」

「いいえ、板前さんよ」

「マジすか。まかないだとしても期待しちゃいますねー! できたら米をたらふく食べられたら嬉しいなー」

「ふふ、食べ盛りだものね。伝えておくわ」

「よっしゃー! ありがとうございまーす!」


 初対面だろうに、ここまで話ができる鷹田は本当に鷹田。それにしても話を聞いてるだけでも、お腹がペコペコだからお昼ご飯がすごく楽しみになってきちゃう!


 麦茶を頂いた後、部屋に案内される。居心地の良いこじんまりとした部屋で、思わず畳の上を転がりたくなるような、すごい高揚する!


「ふたり1部屋で使ってね」

「はい!」


 少しの間、ゆっくりして良いっていう事だから、女将さんが離れてから畳の上に寝転がってみる。そのままゴロゴロ転がる。楽しい!!


「いや、ガキかよ!!」

「だってすごい開放感あるんだもん!!」

「バイトに来てんだから、マニュアルに少しでも目を通せっつうの」

「うーん流石鷹田。さすタカ」

「MMOY、マジでマイナスお前って奴はよー」

「バイトも練習も楽しみだなー!」

「こりゃまた手ぇかかりそうだわー」


 今まで俺たち、ギスギスしていたのが嘘みたいでもうこれからが楽しみ過ぎる!! ホント、合宿じゃなくてバイトでもスッゴい嬉しいよ!!



 ――



「ワァー! スゴい!」

「これ、まかないなんですか……?」

「何、余り物さ。遠慮なく食べな」

「ありがとうございまーす! 超うまそう!」


 調理場の横、控室のような場所でまかないを頂く。たくさんのご飯にお魚、揚げ物に色々だ!

 両手を合わせていただきますをしてから、ひとつずつ口に運ぶ。すっごく美味しい!


「身体動かしての飯……食事って美味いなぁ……いや、歩いただけだけどさ……」

「森夜先輩は普段、あんま身体動かさない感じすか」

「まぁ、そうかな……あっ、バイトするのも初めてで、色々迷惑かけると思いますけど、がんばります。よろしくお願いします」

「そうかい。誰でも最初は初めてさ。わからない事があれば遠慮なく聞いておくれよ」


 板前さんもすごい優しそうな人だ! お世話になりますと、丁寧に挨拶をしつつお箸を進める。


「ん、鷹田。本読みながらご飯はお行儀悪いよ」

 板前さんが離れた後に、鷹田はまたマニュアルを開いて目を通し始める。

「仕事内容の確認と、誰が何をした方がいいか考えてんだよ」

「熱心なのは良い事だと思うけど、でも、せっかくのご飯なんだしさ」

「あー、わかったわかった」


 本を置いてまかないをパクパク食べ始める。


「よく噛んだ方が良いと思うけど……」

「ノンビリしてたら時間作れなくなるだろ。効率的に色々済ませて、練習も息抜きもするためだよ」

「まぁ、それならわかった……」


 森夜先輩たちの方を見る。俺のワクワクウキウキしている気持ちを、先輩たちはどんな気持ちかを、会話したいなぁ。でも、先輩ふたりも黙々食べていて切り出しにくい……


「一応目を通して軽く纏めた感じっすけど、大別するも接客と裏方が主っすね。やっぱ」

「そうなると俺と黒間は裏方か?」

「んー、俺的には森夜先輩と黒間先輩が接客の方がなんだかんだ良さそうって思うっすね」

「え……そうか?」

「森夜先輩はめっちゃ気が回りますし、黒間先輩は力仕事任せられそうですし」

「まぁ……そうなのかな?」


 なるほどなぁ。接客って言っても荷物運ぶとかあるもんね。


「マイナスはそそっかしいんで、やらかさせない為にも要介護ですしねー」

「一番信頼されてないの!? 俺!?」

「この中で余計な事を一番しそうなのはお前だろー」

「その通りだけどさ!!」


 鷹田が言う事は本当に正しいんだけどなー!! 本当に頼りになるんだけどなー!!



 ――



 ご飯を食べ終える頃、女将さんが来てバイトが始まっていく。

 今日は仕事を覚えるのを優先して、ゆっくりやっていこうって話だった。お昼をとったお客さんの食器を回収しにいく女将さんについていく先輩たち。俺たちは板前さんの側について、料理に使ったものを洗ったりし始める。


「俺が洗うから、マイナスはすすいでくれ」

「おう、わかった!」


 鷹田が洗剤を使ってお皿を洗い、俺はお皿を水に通して泡を落として――


「やっぱりお前、すすぎの意味わかってないな?」

「ん? 泡を落とすんじゃないの?」

「なんつーか、撫でるっていうのか水洗いするっていうのか」


 貸してみ、と鷹田が実践する。泡泡になっているお皿を、手で撫でるようにしながらお湯に通していく。


「この時、例えば米粒とかがまだ落ちてないとかわかるから、そん時は戻してくれ」

「洗剤で落ちない事があるの?」

「マジでそんな事も知らねえんだなぁー。まっ、そういうわけで頼むぞ」

「おう、がんばる!」


 言われた通りにがんばってみる。順調にすすいで、確かに何かが残っているお皿もある。これ? と鷹田に聞くと、触って確かめてその通りと教えてくれる。ちゃんとできた! そう思うと嬉しくなる!


「紹介で来てもらったけども、頼りになるね」

「いやぁ、そう言ってもらえると嬉しいっすね!」

「明日から団体さんが二組来て忙しくなるけど、これなら乗り切れそうだ」

「俺もがんばって仕事覚えますね……!」

「ああ、よろしく頼むよ」


 少なくとも、足を引っ張らないようにがんばるぞー!

夏の曲といえば、どんな曲を思い浮かべますか?


私自身も挙げきれないくらいにたくさん思い浮かぶのですが、

閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声

と、松尾芭蕉が詠んだ俳句のように、生命力溢れる夏の中にもある静の瞬間が好きだったりします。

なので、しんみりする曲が思い浮かぶ事が多いでしょうか。


近年の夏は暑すぎて外に出る事が少なくなってしまいましたが、皆さんはいかがお過ごしでしたか。



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