112・お祭りの後編
「スーパーボールとか掬って何になんだよ?」
「わかんなーい」
「欲しいなら直接買えばいいじゃん。高い金払わなくてもよー」
「でも掬ってみたーい」
文句をウダウダ言う鷹田を無視して、屋台に行ってみる。自分のお金で1回挑戦。輪っかに紙が付いた物を3つもらう。
「それは"ポイ"って言って、破れたらおしまいだかんな」
「へー!」
「すぐ破れるから、水に入れる角度にボールを掬う勢いが――」
「あーっ! 破れたー!」
「いやちゃんと聞けよバカ!」
「じゃあ次のは鷹田やってー」
「この野郎……!」
鷹田に"ポイ"を押しつけてやらせてみる。
「手本を見せてやるからよーく見てろよ」
「がんばれー」
鷹田が"ポイ"を持って集中する……流れの中で孤立したスーパーボールに狙いを定め、サッと"ポイ"を潜らせる……!
次の瞬間、"ポイ"は綺麗に破れてスーパーボールは流れに戻っていった。
「はい鷹田失敗ー」
「いやちげーから! ポイが悪かっただけだから!」
「アドバイスするわりには大した事なかったね」
「もう1回やらせろもう1回!」
「俺のお金なんでダメでーす」
「ぐぬぬぬぬ………」
偶にの鷹田と攻守逆転もいいものだなぁって思う。頭空っぽにするのは絶対に俺のほうが得意だしね!
「あっ、掬えたー! やったー!」
「はぁ!? 偶々だろ!」
「鷹田もスーパーボール欲しい? 待ってね」
「要らねえけど!」
「わわっ! 鷹田の分も取れた!!」
「ホントだったら俺がお前の3倍取ってるわ!!」
「あー破けちゃったー」
「ハッ! 下手くそ!!」
「今のところ鷹田よりは上手いよ」
「待ってろよ俺の本気見せてやるから」
「あ、俺はあっちの人形焼って見てくるー」
「いや待てよ! 俺の見ろよ!」
「えっ、見ててほしいの?」
「ム、ムカつくーー!!」
そのまま適当に鷹田を連れ回す。鷹田はプライド鷹田だから、勝負ごとになるとスッゴいムキになってくれる。基本的には何でも俺より上手なんだけどね。
(近藤さん、いないかなー?)
鷹田を煽りながら周りを探してみる。前にふたりは付き合ってたって言うけども、鷹田が鷹田だからふたりで楽しむの大変だったんだろうなぁー。
と、ちょうどベンチに座っている近藤さんを発見する。その近くにはちょうどよく――
「フリースローってフリースローだっけ」
「あれなら絶対にマイナスに負けねえわ絶対に」
「じゃあ勝負しよーっ!」
「負けたら罰ゲームなっ!」
「受けて立つ!」
わざと騒いで近藤さんが気が付かないか試してみる。まぁ、鷹田の順番の時にこっそり呼びに行けたらいいんだけど……
……
「あー……ギリギリ景品ライン超えられなかったー」
「やっぱ下手過ぎだろマイナスってばよ。圧勝してやるからどんな罰ゲームか震えてろよー?」
そういう訳で鷹田の番が始まる。集中してるみたいだから、少し離れても大丈夫そう。加えて近藤さんの方に目をやると、騒いでた甲斐があってこっちを見てた。
来てきてー! と近藤さんに合図。少し悩んだ様子があったけども、こっちに来てくれる。鷹田は一心不乱にボールを投げている。
「おいおい! やっぱ余裕だわー! 可哀想だし、俺がダブルスコア取れなきゃマイナスの勝ちにしてやるよ!」
鷹田、スッゴい楽しそう。近藤さんはその様子を見て声を殺して笑ってる。正直、俺も笑うのを耐えるのに必死だ。
そして制限時間。最後の球がゴールに入ってダブルスコア達成。
「っしゃあ!! 俺の勝ちぃ!!」
そう言って満面のドヤ顔でこっちに振り返る。
「コスパ最高そうだね」
「……マイナスお前このやろー!!」
「コスパよかったねー!」
「う、うぜえー!!」
はしゃいでたのが一転、手で顔を覆って恥ずかしそうにしている鷹田は新鮮だなー!
「まぁなんていうか……まだまだ楽しんでよね。せっかくのお祭りなんだしさ」
「いやー……別に……」
「じゃ、私は戻ろっと」
そう言って近藤さんは嬉しそうにしながら、振り返ろうとする。俺は鷹田を見る。このままでいいのー? って目で。
「あー……会長も勝負しようぜ」
「え、勝負?」
「俺が勝ったら今のは絶対に秘密だかんな」
「はいはい、イメージ崩れるもんね」
「あ、俺はあっちの屋台気になるから行ってくるー」
「ハァ!? まだ罰ゲームやってねえぞ!!」
「後でねー」
鷹田は本当に鷹田だなぁー。まぁそれでいいよ! この後、ふたりが楽しんでくれますように。
――
「あら、先に戻ってきたの?」
「俺は遊ぶ約束してるんで、それなら今はふたりで楽しんでもらえたらなぁって思いまして」
「仲良くしてたの?」
「最初はちょっとケンカになりそうでしたけど、今はたぶん遊んでると思いますよ」
「へえ」
お面屋に戻ると近藤さんのママ、ミスズさんが店番をしていた。ちなみに隣のヨーヨー釣りはパパさん。
「それ、私もちょっと見てみたかったなぁ」
「え?」
ミスズさんは缶ビールに一口付ける。パパさんの方をぼんやり眺めている。
「ほら、コウイチくんって遊ぶの苦手で、デート下手そうでしょ」
「えっ、あー、はい」
「ユミはコウイチくんたちが普段苦労してるから甘やかしたいけど、できないから怒っちゃうんだよね」
近藤さんは鷹田を甘やかしたい……なんとなくわかる。
「その……そういえば鷹田のママって……」
「ん……もう10年前かな。病気でね」
「そうなんですか……」
その頃に鷹田のお母さんが亡くなっちゃったのか……
「キミはコウイチくんの親友?」
「俺はそう思ってますけど、鷹田からはどうなんでしょうね」
「そっかそっか」
「これからも、よかったら仲良くしてあげてね。うちのユミともども」
――
時刻は16時ちょっと過ぎ。波多野さんとの待ち合わせの時間にはまだ早いけど、俺が方向音痴なのを踏まえて早めに着いて、待っている。全然まだまだ空は明るくって、夏だなぁーって感じる。
ここは待ち合わせスポットなんだろうなぁ。小さな公園でスマホを触りながら時間を過ごしている人が多い。遠くのお祭りの囃子、楽しそうな会話、足音を聴いて、お祭りの世界をのんびり味わう。
「あ、あの、マイナスくん……?」
「あっ、波多野さん」
「は、早いね……待たせちゃった……?」
「う、ううん! えっと……今来た所。波多野さんも早いね」
「よ、用事が早く済んで……」
波多野さんを見る。今日もお化粧している。なんだか、またドキドキしてくる。少し息を吸う。
「行こうっか?」
「うん」
お祭りに向かう人達の流れに加わる。とんでもない人混みというわけでもなく、それでも賑わいを見せるこの道、お祭り会場。
「屋台、気になったのがあったら行ってみよう」
「う、うん」
もう少し人混みが多かったら、はぐれないように手を取る理由ができたのかもなぁ。なんて。
〜〜
『エビたたきパーフェクト達成! もう許してエビ〜!』
「す、すごーい! 波多野さんすごい!」
……
「お嬢ちゃん射的上手いねー!」
「当てる事すら出来なかった……」
……
「おお、ビー玉運びクリアされちまった! ほれ、チョコバナナ3本!」
「おめでとう! え、1本いいの? ありがとう!」
……
違う! こんなの違うよー!
緊張しているせいなのか、何故か普段よりも冴えて冴えて仕方ない。マイナくんと一緒にお祭りをのんびり楽しめればって思っていたのに、マイナくんの私に向ける視線が8歳年下のいとこがすごいすごいって喜んでるのと一緒だよー! キラキラしてる……
「あ、あのー……お客さん」
「は、はい……?」
「申し訳ねえんだけど、これ以上スーパーボール取られると商売あがったりで……」
「あっ」
いつの間にか山のように積まれたスーパーボール。マイナくんだけじゃなくてギャラリーまで出来ていた。
「こ、こんなには私も要らないので、その……」
「あはははは……悪いねぇ」
袋に入れてもらって、その場をマイナくんと一緒に後にする。
「波多野さん、やっぱりゲームスッゴい上手だよね」
「きょ、今日は調子が良いみたいで……」
「それならもっと遊ぶ?」
「う、ううん。ちょっと休もうかなって」
「じゃあ座れる場所、探そうっか」
少し人混みから離れた場所で一緒に休憩。たくさんになってしまった景品を見つつ、マイナくんは楽しんでくれているかちょっと不安になる。
「そういえばなんだけどね、3日前に偶然ゲームが手に入ったんだよね」
「そうなの……?」
「うん。試験勉強に集中したいから俺が遊んだのは昨日なんだけど」
「何を遊んだの……?」
「俺が遊んだのはモンスターイーターで、カナはバケモンを遊んだよ」
「どうだった……?」
一緒にあの時遊んだ体験版のモンスターイーターの事や、カナちゃんと話していたバケモンワールドの事に興味を持ってくれたんだなぁって思って、なんだかすごく嬉しい。
マイナくんにモンイーは難しいだろうけど、幅のある遊び方があって適したのがきっとあるはず。ストーリーも薄めだし。カナちゃんは推しと一緒に広大な世界でどんな物語を歩むのか、楽しみだ。
「それが、俺たちには難しすぎたみたいで……」
えっ?
「バケモンの方は仲間にしても敵にやられちゃって、敵もスゴい強くなっちゃって」
えっ?
「モンイーの方は最初のボスも倒せなくて、でも楽器で叩いたら変になっちゃって……」
えっ?
「それって……その……『サモン・バケモンワンダーワールド』と『ファイナルアンシャントモンスターイーターバスターズ2』かな?」
「うん」
なんでそのゲームなのーー!!
心の中で私は叫ぶ。かたや去年の、かたや今年の、一番ダメだったゲームの大賞と大賞候補だよ……通称『詐悶』は去年のクリスマスに、『胃痛』は去年度の決算前に恐らくはやっつけで出されたゲームで、それぞれ期待と実際の差があまりにも酷くてワゴンの二大領主って言われてて……
ちなみに『胃痛』じゃなくて『1』の方は前情報から大失敗って話題で、酷いゲーム愛好家たちが突撃、そしたら想定外に面白くて、理由を調べたら1人のヘンタイプログラマーが自由に好き放題した結果神ゲーになったっていう逸話があるんだよ……
「波多野さんだったらきっと軽々クリアしちゃうんだろうなぁー」
「う、うん……」
『詐悶』はバケモンをなるべく仲間にせず敵も倒さず、『胃痛』は武楽器の近接攻撃だけでそれぞれクリアできるけど、そんなのゲームじゃないんだよねぇ……
「まぁ、俺たちがゲーム向いてないのがわかったからいいのかも。時間も足りないし」
マイナくんは本業の音楽と学校の勉強が忙しいから、『詐悶』と『胃痛』だったのはある意味よかったのかもしれない。でも、ゲーム好きとしてごめんね……本当にごめんね。
「あっ、今、俺ばっかり話してるかも。ごめんね」
「ううん……そんな事無いよ」
「えへへ、それならよかった。波多野さんは話したい事ある?」
あっ、あっ、話したい事……? それぞれのゲームの事について話す……? いや、どう考えても良い話ができないよ……何を話すと良い? 聞いてみたい事はいっぱいある気がするけども、波に流されるかのようにわからなくなる。
「あ……そのカバン……」
「バイオリンケース?」
「よく、持ち歩いているよね……弾くの?」
「うん!」
「聞いてみたいって……いいのかな?」
「もちろん!」
マイナくんはバイオリンを取り出して準備する。マイナくんの演奏を初めて聞いたのは画面越しのピアノで次はバイオリン。それからカラオケでのギター、体育祭のトランペット、バンドでベースと歌、そして先日のコンクールのピアノ。
マイナくんはどこか遠くの存在だと思ってるのに、でも、隣で、私だけが聴いていいのが、なんだか夢みたい。非現実。お祭りの空気もあるから?
「それじゃあ……」
準備ができたマイナくん。私はウンと頷く。何を弾くんだろう?
――あ、この曲は。
まるで闇を裂くような眩しい光のバイオリンの音色。扉を開き、その先に何が見えるかっていう大きな期待と少しの不安。陽の光に目がやっと慣れて、見えたのはどこまでも広がる雄大な世界。『モンスターイーター』の曲。
……
「ど、どうだったかな?」
「スゴい……!」
「一緒に遊んだ時に聞いて、俺もスゴい好きになっちゃって……」
「うん……私もすごい好き」
「聴いてくれて、ありがとうね」
「うん……! ありがとう……!」
たぶん、願いが叶うなら、この時間を絶対に忘れませんようにって願うかもしれない。
――
その後も、マイナくんと夏祭りを楽しく過ごしてからお別れして帰る。今日あった事を何度も何度も反芻して、幸せな気分に浸る。
(……あれ、そういえば)
マイナくんの話を思いだす中で、ひとつ気になってネットで調べる。検索で《胃痛》《神曲》と入れるとサジェストに《途切れる》が出てきた。
ホントにホントに、1は神ゲーだったのになぁ……私が『胃痛』を憎む理由が、またひとつ増えた。
本編とは打って変わってしまうんですが、BGMが良いゲームって大好きなんですよね。
ここは後書きなので好きに書いてしまうんですが、最近だとスクエニの『ハーヴェステラ』がすごいよかったな~って思っています。
重大なネタバレの範疇に最高の好きが詰まっているので詳しくは書きませんが、美しくも儚い世界が目をつぶっていても想像できるあの曲、期待と不安の入り混じる気持ちの中一歩踏み出したら一気に世界が広がるようなあの曲、自身の大切なモノの中から選ばなくてはならないという葛藤がそのまま零れてくるようなあの曲などなど、めちゃくちゃ大好きです。
ゲーム内の世界も本当にキレイで美しくて浸れる良いゲームなんですよね。
ただ、ゲーム部分が手放しで褒められるものではないので絶対買わなきゃ損するオススメゲームと言えないのだけが惜しいです。
そして、見てみたら現在switch版は50%オフの3840円で、2025/5/21/23:59までの間購入できるようです。
※なお、この後書きにプロモーションは含まれていません。
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