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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
ピタゴラスって知ってる?音律を作った人だよ!えっ?ピタゴラスのていりって何?
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109・知らない世界に触れてみる

「えっ、お兄ちゃんこれどうしたの」

「それが、福引で当たって……」

「ええ!? お兄ちゃんが!?」


 学校から帰ってきたカナに当然、驚かれる……くじ運が無い俺が、流行りのゲーム機の『チェンジ』を当ててきたっていうんだから……


 ……


『ハァー!? 1等当てた!?』

『うん……ビックリ……』

『うわ、なんか悔し……』

『あ、えと、そのー……』

『いや、お前にやった福引券だから、お前のもんだよ……』

『わ、わかった……』


 たまたま貰ったものでこんなのが当たるとスゴい気まずい……俺たちなんかよりも鷹田の家に渡ってほしかった……


『たしか、マイナスにも妹がいるんだよな』

『あ、うん』

『まぁふたりで遊べよ。ただテストは落とすんじゃねえぞ』

『おう……わかってる』


 うぅ……俺は鷹田たち兄弟で遊んでほしかった……そんな思いもありつつ、俺は『チェンジ』を持って帰ってきた……


 ……


「この間に波多野さんとカナが話してたゲームってこれだよね?」

「ゲームも当てたの!?」

「いや、思ったより安かったから買ったんだ」

「えっ……嬉しい!」


 たまたま店先にたくさん並んでいたのを見かけて値段も安かったゲーム、それは『サモン・バケモンワンダーワールド』と『ファイナルアンシャントモンスターイーターバスターズ2』っていうゲームだ。


「さっそくやってみても良い!?」

「おう、もちろん! 俺は勉強するつもりだから、最初だけ見せてな!」

「やったー!!」


 あぁ、カナが喜んでくれているのはすごく嬉しいなぁ。



 ――



「そういえばこれ、『バケモンワールド』じゃなくて『サモン・バケモンワンダーワールド』なんだね」

「へー」

「私が聞いたのだと、色んなバケモンから相棒を選んで仲間を増やすゲームだった気がするんだけどね」

「うんうん」

「これは……バケモンを動かして遊ぶみたい」


 カナはパッケージを眺めながらゲームが始まるのを今か今かと待っている。俺もちょっと楽しみになってる。ワクワク。――と、色々が済んでオープニングが始まった!


「わぁ……! すっごい綺麗だね!」

「これがバケモンなんだ?」

「アニメしか見てないけど、みんなすっごいカワイイしカッコいいしで、ゲームで動かせるのが本当に嬉しいなー!」

「そっかそっか! どんなだったか後で教えてな!」

「うん! 勉強がんばってね! レッスンも忘れないようにね!」


 カナが喜んでくれて、何よりだなぁ……!

 俺はやることやってがんばるぞー!



 ――



「カナ、ゲームどうだったー?」

「あ、ごめん……途中でやめちゃった……」

「えっ、そうなの?」


 晩御飯の時間、カナから楽しい話を聞けると思ってワクワクしてたけども、思っていた様子と違っていた。


「せっかく買ってきてくれたのに、ごめんね……」

「いや、大丈夫だよ。俺たちってゲーム下手みたいだしね」

「波多野さんだったら上手くできるのかなぁ……」

「ちなみにどんな感じだったの?」

「んー……」


 まずは長い長いオープニング。バケモンは喋らない設定だから良いんだけども、全然知らないキャラクターたちが出てきて勝手に喋っててよくわからなかったらしい。すごく暇だった。


 やっと自由に動かせるようになって、バケモンを仲間にするとムービーが流れてすごく嬉しかったらしい。さらに敵にやられると離脱して、その時にムービーが流れて凄かったんだって。最初は。最初は。

 バケモンがすぐやられちゃうのに、仲間にする度、やられる度にムービーが入るのが面倒くさくなり始めて、加えてどう見てもすごい強い敵が同じ道で出てくるようになって、やめちゃった、と。


「わぁ……やっぱりゲームって難しいんだなぁ……」

「ごめんね……ホントに……」

「俺、明日も試験の勉強するつもりだけど、明後日はもうひとつの方を一緒に遊んでみようよ!」

「うん、一緒に遊んだら楽しいかも」

「わかんなかったら、今度波多野さんに聞いてみよう!」

「うん!」


 少なくとも今夜は数学のテスト前日だから、勉強会では全部勉強に集中する!!



 ――



「もうダメや……うちの頭じゃ数学無理や……」

「だ、大丈夫だよ……がんばろ……?」

「いやー……俺も不安だー……」

「熊谷もいけるって。基本を抑えて公式覚えるだけ系だしさ」


 明日の数学に備えた夜の勉強会。ほぼ全員集合して必死に勉強している。


「ここまたケアレスミスってんなぁ」

「あ、ホントだ。またついうっかり」

「会長は金扱ってんだからさー」

「普通の四則計算ならこんな事しないんだからね?」


 教える側は波多野さん、新井、鷹田の3人。教わる側は渋谷さん、熊谷、近藤さん、そして俺の4人。出された問題をひたすら解いて覚えたことが身に付いたかを確かめている。


「アカン……ウチ、数学の無い世界に生まれたかったわ……」

「数学の無い世界かー、算数も無くなるのかー?」

「基本的に文明全部無くなる系だろうな」

「えー! 農業とかはできるやろ!」


 数学の無い世界……前の話を思い出すとピタゴラスが実は数学者だから、音階が生まれない事になるんだろうなぁ。


「税金とかどうする訳よ」

「んー、なら足し引きかけ割はありでどや!」

「プログラミングは数学で……できてるなぁ……」

「えっ、そうなん!?」

「う、うん……条件付けって数学の領域で……」

「この世界って数学まみれなんやなぁ……」


 渋谷さんも俺と同じ結論に至っちゃった……


「ま、暇つぶしにもちょうどいいしなぁ。数学」

「数学で暇つぶしやて!?」

「鷹田はエアコン目当てでよく図書館通ってたもんね」

「そそ、ついでに紙とペンだけで良いし」

「あー、フィボナッチ数列とか系?」

「私も……素数並べるの面白かったなぁ……」

「二乗した数字の差が3,5,7,9なの見て他はどうなのかとかなー」


 勉強できる組のインテリな会話が始まる。まるで宇宙人の会話のようだ。


「やっぱ脳みそが違うんやろな……頭の良し悪しは……」

「まぁまぁ。得意分野が違うだけだって。持ちつ持たれつやってこ」


 本当に皆にお世話になっていますありがとう……!



 ――



『やあ、マイナくん』

『こんばんは! 夢の原田先生! 何をしているんですか?』

『うん、リーマン予想について考えていてね』

『へー、サラリーマンって事ですか?』

『ふふ、そうだね。君の方は数学の迷路から、そろそろ抜け出せそうだね』

『はい、おかげさまで……きっともっと数学って深いんでしょうけど、俺には難しくて』

『うんうん。仕方ないね』


『数学はね、言葉の通じない人とも通じ合えて僕は好きなんだ』

『音楽と一緒ですね!』

『うん。音楽で誰しもが同じ心がある事を知れるように、数学は誰しもが好奇心や探究欲がある事を知れる』

『なんか、良いですね』

『君がそう思い直してくれたなら、僕はとても嬉しいよ』


 ジリリリリ……


『さて、テストはよくがんばっておくれ。応援しているから』

『はい! がんばってきます!』


 …………

 ……


 ん、朝だった。目覚まし時計を止めて、今日は数学のテストの日って気合いを入れる。緊張するけども、コンクールの時よりは落ち着いてる。

 がんばれる!!



 ――



「松本さんは数学、大丈夫なの……?」

「ん……あぁ、はい?」

「苦手って言ってたから……」

「うん、そうだね」


 松本さんとは朝のバスで会ったり会わなかったりする。完全に離れてる時もあれば、すぐ近くになる時もあって、声をかけた方がいいのか悩ましい事が何度もある。


「でも、何とかなるかも」

「そうなの……?」

「黄金比って数学でしょ」

「えっと……う、うん」

「幾何学、工学、あとなんだっけ?」

「それは俺にはわかんないよ……」

「絵を描くのにも数学って良いんだなぁって原田先生に教わって」

「うん」

「そうしたら、楽しくなっちゃった」


 数学って色んな事に関係があるんだなぁって改めて思うと同時に、原田先生の知識もすごいって思う。


「原田先生、今学期限りなのが寂しいなぁ」

「えっ!? そうなの!?」

「えっ、そうだよ」


 数学が好きな原田先生に、数学が嫌いで仕方なかった俺は申し訳なさがいっぱいで避けてばっかりだったのを思い出す。波多野さんに頼っていたのもあるけど、本当はもっと話したい気持ちもいっぱいあって……


「テスト、がんばろうっと……!」



 ――



 数学のテスト直前はクラスの皆も戦々恐々。勉強してないや徹夜したとかそんな話をする人もいて、みんな不安な気持ちでいっぱいになっていた。

 チャイムが鳴り、観念するというか諦めるというかの運命の時間を迎えて、いざテストの開始。


 ――あれ? 思ったより難しくない……?


 全然勉強出来ていなかったままの俺なら絶対に解けなかっただろうけど、小テストで躓いた要素ひとつひとつをしっかり復習できていればできる難しさだった。

 問題文をよく読み目的が何か把握する。複雑そうに見えても要素をよく見て整理する。それぞれの共通点があるか着目する……

 でも、その中でやっぱり難しくてわかんない問題が出てくる。


【★難しい場合、一旦後回しにして解きましょう】


 パニックになりそうでもこの一文を見て、俺は落ち着いて次の問題に取りかかれた……

 何とか最後の問題にまでたどり着き、それからわからなかった中でもわかりそうな問題に戻って着手していって……

 ある程度進んで問題に取り組んでいる最中にチャイムが鳴った。あっという間だった。



 ――



「あ、あのー……原田先生」

「おやマイナくん、どうしたかな?」


 今日のテストが全部終わった後の放課後に、原田先生に会いに行く。


「その……なんて言ったらいいか……」


 夢の中の原田先生は俺が勝手に夢に見ているだけで、実際の原田先生とは関係ない。原田先生から見たら変過ぎる……


「テストの方はどうだったかな?」

「あっ、はい。難しくて解けなかったのもありますけど、思ったよりは出来ました」

「それはよかった」


「その……そういえばあれからまた何度も夢に先生が出てきまして」

「私はあれから、君の案内人をしていたかな?」

「そうですね。昨日の夜はサラリーマンの事を考えていました!」

「サラリーマン……?」

「夢なんで、俺もよくわかってないですけど……」


 原田先生は少し考えた後、なぜか笑う。


「そういえば、マイナくんは軽音部だったね」

「そうですけども……ご存知だったんですか?」

「うん。君が数学に興味を持ってくれそうな話をしたくてね、君が来てくれるのをずっと待っていたんだよ。例えば音階がどうできたか知っているかい?」

「……ピタゴラス音階の事ですか!?」

「おお、その通りだよ。和音の仕組みはどうだろう?」

「えっと、例えば4:5:6ですか?」

「うん。どうやら君は既に知っていたようだね」

「いえ、先生のおかげで俺、偶然知れたんですよ!」

「そうなんだね。それはとても光栄で嬉しいね」


 あぁ、原田先生ともっと話しておけばよかったのにな! 俺!

フィボナッチ数列は0,1から始まり、式の大きい数字と式の和を足し合わせるものですね。

例(0,1,1,2,3,5,8,13,21,34...)


二乗した数字の差が3,5,7,9というのは下記の通りです。

0^2=0

1^2=1 ↑と1差

2^2=4  ↑と3差

3^2=9 ↑と5差

4^2=16 ↑と7差


これが3乗になった時は差が1,7,19,37,61となり、法則性が一見しづらくなります。

ただ、これらの数字を解明していった時に、既に証明されていますがフェルマーの最終定理(自然数3以上の時、X^n+Y^n=Z^nの式は成立しない)が解決していったりしました。


ちなみに、素数は完全な法則は未だ発見されておらず、緩い法則(例・6の倍数の前後でしか現れない)は多くあるだけですね。その法則を見つける一環がリーマン予想には含まれています。


どれも暇つぶしに最高のお供なのですが、敢えてクソゲーをやる苦痛も人生のおつまみとして私は好きです。


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