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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
ピタゴラスって知ってる?音律を作った人だよ!えっ?ピタゴラスのていりって何?
102/114

102・並んで良い。並べて良い。不協和音も和音。

 〜〜


『並べる事に意味がある』

『和音が生まれるように』

『そこに何かが見出される』


「って感じの夢を今日は見た……」

「そ、そうなんだ……」

 朝、駅までの道を自転車を引きながらマイナくんと歩く。


 マイナくんの数学に対するノイローゼは酷いことになってるなぁって思うけども、それでも今回の夢は色々おかしいよ……!

 そもそも、名前を並べるのはカプを――カップルを表してて前半と後半で意味が――いや、それはいいとして、でも、それを普通の人は知らないよねそうだよね。

 逆にそんな軽い気持ちで名前を並べられると変な何かが溢れてくるからそれもよくない。いや、良いんだけども人前ではよくない。


「そ、そういえば……和音ってどんなふうに決まってるのかな……」

 私の変な妄想が漏れる前に話を逸らす……音楽の話をしているマイナくんは活き活きとし始めるのもあるから。


「えっと……」

 マイナくんは考えている。難しい質問をしちゃったかな……そう思ったけども、パァッと閃いたように明るい顔になる。


「そうだ、時計だ!」

「……?」

「えっとね、音階って12個あるでしょ?」

「う、うん……」

「それでね、3と4と5の組み合わせにすると綺麗な和音になるんだ」

「……??」

「待ってね」

 マイナくんがスマホでアナログ時計を表示させる。


「12時がド、7時がソ、4時がミ。ドミソが綺麗な和音になるのは前に説明したから、それは大丈夫かな?」

「えっと……うん」

「それでハ短調……えっと、悲しい感じにする時はミがミ♭になるんだけども……」


 そう言いながらマイナくんは3時を指す。


「……あ。4+3か、3+4かの違いって事?」

「そう! ドとソの距離は7だから、3・4の順番を入れ替えても綺麗に響くんだよ!」


 やっぱりマイナくん、音楽に関してすっごいなぁって思う。


「この3と4と5の組み合わせを時計に見立てて並べるとすっごいわかりやすいんだよ」

 3+4、3+5、4+3、4+5、5+3、5+4と示していく……


「へぇ……じゃあ、これ以外は和音……じゃないんだね」

「ううん! それも和音だよ!」

「え、でも『不協和音』って言ったりしない……?」

「うん! だけども和音って付いてるから和音だよ」

「そ、そうなんだ……でも、使わないものになるのかな……?」

「ううん、不協和音も大事な音楽の要素だよ」

「そうなの……?」

「えっと、例えば……」


 マイナくんはスマホを操作する。そして、音楽が流れ始める。

 ダダダダと連打されたピアノの音はなんだか不穏な雰囲気で、聞いたことがある。


「『魔王』だっけ。シューベルト……?」

「そうそう! 怖い曲だけどもすごい良い曲だよね」

「うん、そうだね。始まりから……圧倒的っていうのか……」


 お父さんお父さんって所とか、途中で優しい所が逆に不気味とか思ったなぁ。


「緊張感とか不安な感じを出すのに不協和音ってすごい便利なんだよね。例えばサイレンとかもそうで」

「へぇ……」


 たしかにそう言われるとそうかもしれない。魔王はまるでサイレンを聴き続けているような感覚にも近いのかな。


「絵の具みたいに、色んな音色を組み合わせて曲が出来上がるから不協和音だからダメって事じゃないんだ!」


 なるほど……そう考えると何でも使いようって事なんだなぁ。

 楽しそうに話を続けるマイナくんの横に並んでいる私も、マイナくんの世界の中では何かしらの音色で、在ってもいいのかなってなんとなく思った。


「……あっ! マイナスくん!」

「ん、どうしたの?」

「時間! バス! その……!」

「あっ!?」


 いつしか上の空になっていた私は時間の事を忘れていた。駅に向かいながらだったのにゆっくり歩きすぎていて……


「走れば間に合うかな!? とりあえず行ってくる!!」

「あ、えと、がんばって!!」


 思いきり駆け出していくマイナくん。

 たぶん間に合わないって思ったのに止められなくて、それなら私の自転車でっていうのも伝えられなくて……


『遅刻しそうなら、私の自転車に乗る?』

『えっ、でも2人乗りは良くないし、俺は自転車乗れなくて』

『遅刻するよりは絶対にいいよ。さ、後ろに乗って』

『わかった、ありがとう羽多野さん』

『しっかり掴まっててね』


 いや、こんな事あるわけなーい!!

 そもそもギリギリに登校してるわけじゃないからバスが一本遅くなっても問題ないだろうしね。


 ……それなら、いつものバスの時間、気にしなければよかったのに。

 もっとマイナくんの話、聞きたかったなぁ。



 〜〜



(夢中になって俺ばっかり話してたよなぁ……)

 羽多野さんと分かれた後、いつものバスを逃して次のバスを待ち始めてから、ぐるぐるそんな考えが回ってる。


 思い出してみると、俺って羽多野さんとスマホ越しではよく話す。けども、直接会って話すのって実は少ない。いや、勉強会とかで見てもらうとかはあったけど、何でもないことを話すのってホントに少ない。


(羽多野さんの色んな事を聞きたい)

 限られた時間の中でだと他愛のない話をするって事の貴重さみたいなのがあるよね。


 そういえば今日は七夕だったなぁ。


「降りないの?」

「えっ、あっ」


 気がつけば高校最寄りのバス停で、松本さんに声をかけられた。

 そのままバスを降りる。


「ありがとう、考え事し過ぎてて……」

「数学じゃなさそう」

「会話の仕方っていうのかな……?」

「へぇ」


 松本さんの反応が薄くて、会話が成り立っているのかわからない……

 もっとこっちから声をかけた方が良いの? それとも話しかけられるのはイヤだったりする?

 どっちにしろ、ふたりでいるのにこの微妙な沈黙と間はすごい苦手で苦手で、どうにかならないかとなってくる。


「あ、えーっと……俺ばっかり喋ってないかな……って……」

「そう?」

「松本さんも話していいんだよ……?」

「え、うーん」


 ……違う! この話の振り方は違う!

 でも、俺ばっかり話すのも違うと思うし、じゃあそれならどうしたらいいんだこれ!?


「私、お姉ちゃんがいるんだけどね」

「あ、う、うん」

「今日、にらめっこで負けた」

「……??」


 なんだ、この脈絡の無さ……?

 まずはそう思ったけど、目の前の松本さんは表情があまり読めない方だし、テンションの抑揚があまり感じられない方だし、その松本さんが笑う……??

 いや、それにお姉ちゃんとにらめっこって、少なくとも高校生以上のふたりで……?


「すごい大爆笑だった」

「ま、松本さんも笑うの……?」

「今、思い出したらまた笑える」


 ハハハハハ、と松本さんは口に出し始める。

 どう聞いても笑ってるように聞こえない抑揚の無さで、笑うってこうだっけ? ってわからなくなりそう。


「私の話はそんな所でした」

「は、はい……」


 会話って、難しいね……



 ――



「ほれ、マイナスも短冊書けよー」

「ありがとう……ってなんで教室に竹!?!?」


 教室に着いて、皆がワイワイと竹に飾りや短冊を飾っている様子にツッコミしかない!


「短冊って願いごと書くじゃんー」

「それで馬園がさー」


 目をやれば、馬園が机に向かって短冊に一生懸命書いているのが見える。


「また灰野先生にくだらない事しようとしてるの?」

「またってなんだよー!? くだらなくないし!!」

「いやだって……というか短冊にどれだけ書こうとしてるの!?」


 目に入った馬園の短冊にはビッシリと文字が書かれている。


「はぁ!? さりげなく気持ちを伝えるための最低限なんだけどー!?」

「さりげなさってなんだっけ……」

「馬園普通にキモいぞー!!」

「純愛だからキモくありませんー!!」


 そろそろ警察にちゃんと相談すべきでは? そんな考えもよぎる。


「ほら!みんなも書けって! 俺1枚だと目立っちゃうだろ!」

「いや、普通に目立つと思うけど……」


 馬園の思惑はともかく、短冊を楽しそうにクラスの皆が書いてるのはなんとなくいいなぁって思う。


 受け取った短冊に何を書こうかな。

 周りの皆は何を書くのかな。


 教室を見回すと、羽多野さんが目に入る。

 短冊に何を書こうか悩んでる?

 羽多野さんは何を書くのかなぁ。


 ――短冊って願い事を書くわけだけど、落ちついて考えば俺の叶えたい事って多いって思う。


 現実的な内容なら『期末試験で赤点を取らない事』。何をするにしてもこれをクリアしないと色々全部ダメになっちゃう。

 でも、あくまでこれは前提条件みたいなもので、その先の――『軽音部のバンドでもっとたくさんライブをやりたい』が何よりも1番な所がある。


 だけど、小さい願い事だってたくさんある。

 もっと頭が良ければ、もっと会話が上手ければ、もっと時間があれば。自分が足りないせいで届かないものが多いから、それを願いたい気持ちもある。


 いや、そんな事を願っても仕方ない。がんばってどうにかしていく部分だから、それなら人に見られる事を前提に書いた方がいいのかもしれない。

 ああ、でも絶対に見てもらえるわけではないし、それを考えると期待するような事を書くと自分がモヤモヤする事になるかも……


 助けを求める子どものように頭の中はぐるぐるし始めて、それをなだめるように低く落ち着いたトーンで声をかける。そして良い考えだと思う優しく甘い声は実は魔王で……


 目を背けたくなるような、一人勝手に心の中で響く不協和音を前に、俺が短冊に書いたのは――

■取り上げた楽曲の動画

魔王ピアノ

https://www.youtube.com/watch?v=icDGuppXoi0


学校の音楽の授業で取り上げられる定番かと思いますが、いかがでしょうか?

「魔王っていう割には大した事してないよなぁー」なんて話した覚えがありますが、出だしが大好きでたまりませんでした。

また、曲の〆の音、全てが終わってしまったという感覚を如実に感じられてハマります。


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