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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
ピタゴラスって知ってる?音律を作った人だよ!えっ?ピタゴラスのていりって何?
101/114

101・地獄の苦しみ(物理)

「そういえば灰野先生も女性でしたよね……」

「おう、病院に行きたくなったのか?」

「あ、いや、贈られて嬉しい曲って何かなーって考えてて……」

「なんかムカついたから5回くらい思い切り殴らせろ」

「あー、今度でお願いします。今は忙しいので……」

「次は問答無用で殴る」


 放課後、クラス委員の仕事として灰野先生の所に少し顔を出す。ひとりで済む事だから波多野さんはいない。


「今はコンクールに期末試験に忙しいんですけども、近い内にいつもお世話になってる波多野さんへ演奏をプレゼントしたいんですよね」

「私なら演奏より良い酒が欲しい」

「先生は好きな曲ってなんですか?」

「じゃあカプリスの24って事で」

「それは練習中ですけども、適当に言ってますよね?」

「ボコボコにしごいてやる為に練習見てやろうか」

「えっ、じゃあ今度お願いします!」

「こいつ……マジでこいつ……!!」

「あ、それじゃあお疲れ様です。また明日ー」

「おい、波多野の趣味は知ってんだろ?」

「えっ?」


 用事も済んだし帰ろうとした所で灰野先生から呼び止められる。


「その中でなんか良いのあるだろ」

「んー……あー!! あります!あります!」

「ちょっと歌ってみろよ」

「待ってくださいね……」


 前に波多野さんと行ったゲームフェスで一緒に遊んだゲームのあの曲……あれはすごく感動したし、思い出もある!

 どんな曲かゆっくり思い出して口ずさんでみようとして、目を閉じ軽く両足を開いたリラックスした立ち姿勢を取り――


「隙ありだあああ!!」


 先生に思い切り蹴られて、俺の意識は一瞬飛んだ。



 ――



 のたうち回って悶えてたのを灰野先生に追い出された。それから物伝いに何とか立ち上がって歩けるようになったけども、痛みで変な声が漏れる……油断した……灰野先生に油断した……!


 と、とりあえず早く上井先生のマンションに戻ろう……こんな醜態を誰かに見られたくないのもあるし、なんだかんだ心配だし……


「あれ?マイナスくん? え!?どうかしたの!?」

 あ、あぁー!! タイミングが悪い!! 悪いよぉ!!

 直接押さえる訳にはいかないから誤魔化すけども、まだ痛みがジンジンある……


「その……ちょっとお腹辺りが痛いっていうのか……」

「大丈夫!? すごい顔色悪いし救急車呼んでもいいんだよ!? 何があったの!?」

「大丈夫大丈夫……というか……月野さんは……灰野先生に用事……?」


 ゆっくり時間が取れなくて、しばらく話す機会があまり無かった月野さん。こんな状況じゃなかったら……こんな状況じゃなかったら……!!


「その、私は吹奏楽部辞めようって思って灰野先生に……」

「ええっ!?辞めちゃうの!?」

 驚きとともに、急に動いたから声にならない声が漏れる。ああっ、なんで……


「やっぱり大変そうだよ!? あっ、もしかして灰野先生に何かされた!?」

「平気……!! あっ、でもバス停まで付き添ってもらってもいいかな……!!!」

 この状況で灰野先生の所に行かれたらイヤだ!!イヤ!!


「う、うん。わかった。退部は今じゃなくてもいいしね」

「あ、ありがとう……」

 回避には成功したのか!? でも、ひとりで悶える事ができないのは仕方ない……


 月野さんに付き添ってもらいながら、バス停まで向かう……

「そ、そういえば……夜の勉強会にも……最近、顔出さなくなっちゃったね……」

「あ、うん。ちょっと色々あってね」

「その……別の勉強が大変……?」

「うん、それもある……かな?」

「部活も……?」

「うん、その予定なんだ」

「そっか……」


 色々事情があるんだろうけども、吹奏楽部辞めちゃうのだけはすごく残念……この痛みも相まって上手く言えないけど……


「マイナスくんは吹奏楽部、続けた方が良いと思う?」

「えっ、あーー……寂しいなぁって思うから……」

「……そっか」

「でも、やりたい事……あるなら大事……」

 辞めるのを止めるなんてできないしね……


「……あ、でも、そういえばそうだった」

「え、どうしたの……?」

「ううん、その……なんでもないかな。だけど、もうちょっとだけ続けないとって思ってね」

「え……? そうなの?」

「うん」


 不意に月野さんが俺の方を向く。

 続けないといけないって思った事に、何か俺が関係してるのかな……?

 でも、今は全然わかんない……


「吹奏楽部もね、一応コンクールに出るんだけどさ。マイナスくんが来てくれたら嬉しいなぁ……」

「約束はまだ……できないんだけども……行けたら行きたいな……」

「その時には私、今よりちょっとサックス上手になってたらいいなぁ」

「練習とか……また、よかったら付き合うから……!」

「うん。せっかくマイナスくんが色々してくれたんだしね!」

「いやぁ大した事してないよー」


 会話に全然頭を使えてないけども、でも、月野さんが吹奏楽部まだ続けるなら嬉しい! 痛みがなければもっと喜ぶのに……!


「……はぁ、やっぱりマイナスくんって良い人だなぁ」

「え、なんで……?」

「波多野さんもすごい良い人だし、後は熊谷くんも良い人だよね」

「あぁ、そのふたりは間違いないね……」

「……鷹田くんとかはマイナスくんにとってはどう思う?」

「ん……良い奴だと思うよ……?」

「……本当に?」

「う、うん?」

「……そっか」


 どういう事だろう……うぅ……わかんない……

 そんな所でバスがやってくる。


「バスはひとりで乗れそう?」

「おう……大丈夫……! 少しはおさまったから……!」

「わかった。じゃあ気をつけてね」

「付き添ってくれてありがとう……じゃあね……」



 ――



 何とか上井先生の家に帰ってきて、とりあえず大丈夫だった。もう絶対に灰野先生の前で気を抜かないぞ……


「テルくん、具合が悪そうですが大丈夫ですか?」

 扉越しに上井先生が心配してくれる。挨拶がいつもと違うからきっと心配させちゃったのかも……

「あー……一応大丈夫です」

「体調が優れないなら遠慮せずに言ってくださいね」

 上井先生は本当に良い人だなぁ……レッスンとかはスパルタ気味だけども、頑張ろうって心から思える……!


 先生にお礼を伝えて、もう少しだけ休んだらご飯の時間までバイオリンの自己練習をした。


 ……


「彼女はとても真面目な子ですよ」

「えっと、それは昔の話ですか……?」

「現状を全て把握している訳では無いですが、今もそこまで変わってないように見えますね」


 何か……何かがおかしい……!!

 たぶん上井先生は灰野先生が人の事を容赦なく蹴る人だって知らないんだよー!!


「粗野な喋り方とか、横柄に感じる所とかも元からですか……!?」

「事情もありますが、まるで修行のように熱心に取り組む時もありましたからね。彼女の個性の範疇ですよ」

「そ、そうですか……!!」


 手持ち無沙汰に晩ご飯のスープをグルグル……

 灰野先生の生態を知って何かしら対策を取りたいのに、肝心の上井先生からは優しい言葉しか出てこない……!

 また蹴られるなんて絶対にイヤだ!

 いっそ馬園を盾にどうにか――


「私としては、彼女が今は元気にやっているようで嬉しいですよ」

 いや、それが灰野先生は今、学校に住んでるんですよって伝えようか悩む……もしかして灰野先生は上井先生に幻滅されたくなくて、俺に対して口止めもしてるのかな……?

「そういえばなんですけども、灰野先生が今度のコンクールの入場券を欲しいって言ってましたよ」

「ふふ、相変わらず彼女は熱心ですね。手配しておきましょう」

「もうすぐだから練習もがんばりませんとね……!」


 晩ご飯をサッとかき込む――


「よく噛んで食べましょうね。やる気が感じられるのとても良いですが」

「あ!はーい!」


 モグモグモグモグモグモグ……



 ――



 いつもの夜の勉強会は今日もワイワイとしている。だけど、集中できなくなるからなんだかんだ俺は隔離されがち……

「なんか集中できてない系?」

「あー……そうかも……」

 隔離されてても集中できない時はできないんだけどね……

「俺でよかったら聞くけど、ノンノン系の話?」

「え、えーと……そうだね……」

「まぁそうだよなぁ」

 画面越しの新井は笑っている。

 新井は熊谷の友達で、俺達とは別の高校に通っている。頭も良い方で今日はなんだかんだ俺についてくれている。


「やっぱ告白系の悩み?」

「違うから! 知りたい事があるの!」

「おー、何よ何よ」

「一緒に行ったゲームフェスの時に、遊んだゲームで流れた曲を詳しく知りたくて……」


 思い出しながら口ずさんでみる。今度は昼のような悪いことは起きないと思いながら……


「それアレだな、モンスターイーターの奴だな」

「確かにそんな名前だった! それを波多野さんに弾いたら喜ぶかなぁって思ってさ!」

「ほーん、その流れで告白って奴だな!」

「違うから!!」

 もう、どうしてすぐにそうなるのかわかんないよ……!


「まぁでも普通に今でもお似合いだしなぁー」

「……うーん、そうなのかなぁ?」

「俺から見た感じ、マイナスとノンノン、あと熊谷も相性良い感じだしなぁー」

「それを言うなら、波多野さんと熊谷の方が相性良い気がするけども……」

「マイナス的には熊ノンが良いって?」

「熊ノン……?」

「ペアをそう言うんだよ。マイ鷹とか渋ノンとか」

「へー、じゃあ新熊とか?」

「そんな感じだな。てか、なんかそう言われるとなんか照れるな」


 名前を並べるだけなのに、なんでだか少し照れくさくなるのは俺も思った。


「そろそろ勉強、するかー」

「おう、そうしよっか」


 なんだか微妙な空気のおかげで勉強が捗る……


「あ、そういえばなんだけどよー」

「ん、何?」

「今度、予定空いてたらで良いんだけどさ……」


 俺のスケジュールは大渋滞だ。

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