デモともう1人の暗殺者
「俺たちの息子はどうなったんだ……!」
静寂を突き破る怒号が響いた。恐らく本部の襲撃に加担した兵の親族だろう。あの戦いでは多くの若い将校が指揮をとっていたと聞いたことがある。初陣で子を無くす気持ちは、さぞ苦しかっただろう。
ただそれがこのデモをする理由にはならない。正式に死を発表されたなら、家で亡くなった息子を悲しむのが普通だ。つまり(魔族どもの政府があの戦いを隠そうとしている。)ということだ。
何かしらあっちの不利益があるのだろう。(これも調査しておいた方がいいかもな。)と瀧川に伝言し、作戦の実行に移る。
裏門からおよそ50mほどの地点に排水菅ヘと繋がるマンホールと、さっきまではなかった手のひらサイズの正方形の窪みが出来ていた。
「おい、こっちに何かあるぞ。」
と瀧川が言う。(今度はなんだ。)と内心思いつつ近づいて行くとそこには落ち葉に身を隠した鉄扉が空いた状態で放置されていた。
僕らは段々と閉まっていく扉をこじ開け、中へと入って行った。
地下道の典型的な薄暗い通路が続き空気供給管らしきダクトに繋がったこの通路は、まるで人為的に作られたとしか思えない。
少しの不安を抱きつつ、ダクトに入る。人一人入るのが精一杯の狭いダクトには、迷路ほどの複雑さと金網で覆われた空気を送りこむ通気口があちこちに点在し、見えるだけで分岐が10個ほどある。
「二手に別れよう。」
そう提案したが、なかなか返信が返ってこない、大凡誰かが入った痕跡がダクトに何者かがいることを物語っていたからだろう。
『中と外に敵がいる状況で1人にはなりたくないが仕方ない。』
と言ってそうな顔をしながら瀧川は首肯した。全体図を把握する意味もこめて、僕たちは3時間後にここへ集合する事を誓う。
僕は1〜2階瀧川は2〜5階の探索を担当し、各自の場所へと向かった。
〜〜1階受付案内所〜〜
人の民間ホテルを再利用したような内装に、正直驚いた。もっと国会のようなイメージをしていたのだが、戦時中ということもあったか新しい建造物を建てれないのであろう。
通気口越しに見る景色は、少々慣れない部分もある。鉄格子の合間を縫って見ようと近づいたその時、
"バンッッ!"
とアルミに体をぶつけたような音が真横で鳴り響き、その横にある通気口を覗く魔族の姿があった。