作戦決行
『ここからは別行動だ。』
手信号でメッセージが出された。味方を見ることすらままならない草むらの中で、aとbに別れた僕らはひっそりと潜伏し機会を伺う。
圧倒的に数で負けているこっち側だが、魔族軍の本隊が他国の戦地に投入されている今こそが敵を叩く絶好のチャンス、そう自分に言い聞かせ、敵陣へ一歩ずつ前進する。
しかし、どうも引っかかる点が 一つある。それは"何故今更決戦を仕掛けてきたのか"ということである。(人間と魔族の力の差は、歴然としか言いようがないほどかけ離れている。
上部層が慢心しているのであればもっと前の段階で本陣へ攻め入ったはず。それに殺し屋が魔族軍へ与えた損害は他国のどの戦争よりもよっぽど大きい。
それが今みたいな民兵を呼んで討伐する程度で収まるはずがない。つまり魔族軍には何か"僕たちに勝てる秘策"があるということ。)
(他の隊員も、何かを察した様子で、慎重に前進している。恐らく皆も解っているのだ。この戦いが"正常"ではないことに、しかしだからと言って今のチャンスを逃す理由にはなり得ない。こちらには圧倒的な自信と恨みがあるのだから。)
敵陣より5メートル上の丘に陣取った宗介達は自身の予想が的中していたことを目の当たりにした。魔族の軍服に、主力部隊の暗号k4211と書かれていたからである。
予想を遥かに超える異常事態に僕らは唖然とする他なかった。本来、主力部隊とは軍の象徴であり、内戦に参加させるなど軍部の恥。という考え方が主流だった魔族の歴史において、内戦に参加した主力部隊などという記録が残されていないからである。
このことを知らされていないa班では、攻勢の準備が進んでいる。人間の兵器は、魔族への殺傷に適した形の武器が不足現状、民兵ならまだしも主力兵への効力はないに等しい。
このことを知らせなければa班の敗走はより濃厚となる。しかし時は無情にも過ぎてしまっている。
一斉攻勢と判断したa班に準ずる形で僕らは今、魔族ヘ攻勢を始めた。
ただ人間も馬鹿ではない。a班の策略が執行されたその時、今まではまだ戦いの序章にすぎなかったことを、魔族そしてb班は思い知ることとなる。