急展開
2028年 4月10日
「確認いたします。」
事務員の暗く低い声が、本部内に行き渡った。これから、30分くらいの時間待たされ資料を受け取った後、暗殺許可証を貰う。いつの時代も娯楽のない役所で待たされる時間が一番暇である。
唯一の娯楽と言えば本部の天井の点を数えるくらいなもので、それ以外はなんら特質した娯楽などない。
そんな状況だからこそ、僕は事務員の話に聞き入っていた。
「東北支部の101番地が魔族の襲撃にあったらしい。」
「それに近畿の42番地が壊滅ときた。こりゃ〜俺たちの身も危ないんじゃないか?」
名も知らぬ事務員から聴こえる襲撃、壊滅…その言葉だけで殺し屋の被害がどれだけかを彷彿とさせる。襲撃はまだしも壊滅というのは実に2年ぶりの異例中の異例、埼………いや日本全体が動いている証拠である。
僕のいる中部03番地にも襲撃が来る日がそう遠くない未来にあるのかもしれない。
`ちなみにこの〜番地というのは殺し屋が拠点とする場のことであり、古い程1に近くなるよう設定されている。’
そんなこんなで会話を聞くのも飽き、眠りについていた頃、審査結果が届いた。
なんと暗殺を依頼されたオークは地方を統治する役人らしく、撃破出来れば少なくとも旧愛知全土が人間の領土になる可能性があるらしく、僕の他にも、本土の者と合同で討伐するらしい。
何やら大事のようで心が躍っている。なんせ役人レベルの魔物は1ヶ月に1回程度でも暗殺リストにならないほどに潜伏スキルに長けているからだ。
日は明日の早朝、民衆に紛れながらの暗殺らしい。
(今日は早く寝た方が良さそうだ。)
そう思い夜道に出ようとしたその時、本部で警報が鳴った。
西1km地点の盆地に総勢約12000の魔族がこちらに向かっているらしく。その規模はカルルーサ事変の半分に相当する。本部よりも盆地に近い11番地でも少数の魔物が攻め入っているらしい。
「なんだか大変そうだな。」
別の任務担当で本部に来ていた瀧川がいつもより真剣な表情でそう言った。「あぁ」と相槌を打ったあと、放送で各暗殺者の集合が命じられ、指定の場へ赴いた。
「皆に今回の作戦を言い渡す。」
暗い表情が目立つ中、総司令官が声を上げた。今回の作戦に携わる人数は総勢多くても100人程度、作戦による勝ちよりも雪辱の敗北が先に思い浮かぶ。本気で勝とうと思っている人なんか誰もいなかった。ただ逃げ出そうとしているものもまた、零人である。
作戦の概要は大きく分けて二つ、草木に紛れゲリラ戦を展開し、敵の体制が崩れた所の間を縫って司令管に準ずる魔物を倒す。
しかしこの作戦には少々無理がある。それは人間と魔物の圧倒的な実力差、そして経験の大小が大きく作用する戦場で、敵の間を縫うなんて到底できることではない。だからこそ、我々は暗殺が主流なのだ。じゃあ僕たちは魔物に損害を与えず壊滅するのか。
そこで登場するのが、この部隊の肝となる、十輝線と呼ばれる本部直属10名からなるの実力派集団である。
彼らは通常の魔物と人間の力の差が2:1であるところを10倍近くの差をつけて魔物を葬る人達の総称であり、僕もまた十輝線の10番まである。
一昨年までは蛍光灯が灯ったこの地での決戦、僕と瀧川は、固唾を飲み出陣した。