未完依頼は蜜の味
「この男を、暗殺して欲しいのです。」
あの時と同じ歩幅、同じ人、同じ状況、まるでゲームのシナリオを再び体験しているかのように時が過ぎていく。
確かこの依頼された魔族、一区画を任されたエリート。例の会議には姿を現れなかったが、もしそれ程の魔族が倒されたとなったら少なくとも延期、いや再検討まで引き摺り下ろせるかもしれない。
そうとなったら行動すべきは、今。本部急襲の時、出来ればこいつの護衛が襲撃に使われ、一番手薄になった時。つまりは警報が鳴るまでにこの魔族を倒す事が出来れば未来を変えられる。
だが魔族の情報を本部に転送しなければ討伐は出来ない。それどころか急襲の後、他の地域から援軍が駆けつけてくる可能性がある以上。尚更今しかない。
「だからこそ、話をつけないとな。」
彼が所属している十輝線の特権。その一つには特定上位魔族の即時抹殺許可という物がある。
要するに本部の面倒臭い検査を受けずとも、魔族を討伐しても良いという許可。しかしこれには一つ問題がある。証言者が二人以上必要という点。
(この制約がある今、行動が制限されている。偶然護衛部隊と遭遇したって事にして………)
「何、なんかの悪巧み?」
小屋にただ一つ設置された窓から、聴き懐かしい声が聞こえてくる。
「お前、まさか……滝川!!」
「あぁそうだぜ。」
(計算外だ。前の世界では本部で任務申請をしていた時に出会ったのに……ってしまった!)
普通の同僚と話す気分でいたが、相手は滝川だ。それを一瞬、忘れていた。
「今更気づいた?」
「あぁ、お前思考読めるんだったな……とんだ妄想の痛い厨二野郎だ。とでも思ったか?」
少ない動揺を隠し、正常ぶった姿勢を取ったが今は
通常でも動揺してしまう。
「いや、その真逆だよ。」
「え?それってどういう。」
僕の肩に手を乗せ、皮肉混じり顔で云った。
「あの老人の言いつけを守る従順なジジイだな。」
「え?」
(なんだ、こいつ。それじゃあまるであの爺さんに会ったみたいじゃないか……)
「あぁ、その爺さんに会って来た。」
欠けた壁の隙間から漏れ出る夕日が滝川を照らし、滝川自身も僕の目の前に移動して云った。
「お前と同じ、生き返ったんだよ。」