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【9/2発売】元"悪女"は、地味な優等生令嬢になって王国の破滅を回避します!  作者: es
第八章

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6. マリアという存在

 


 ◇◇◇



 ふと気がつくと、私は真っ白な部屋にいた。

 染み一つない、ひたすらに白い壁。それに四方を囲まれている。

 ここはどこだろう……と戸惑っていると、背後で小さな衣擦れの音がした。


「お嬢様……いえ、アデルハイデ・ローエングリム様。ようこそ、女神の領域へ」

「…………マリア?」


 振り返った先に立っていたのは──私に長年仕えてきた侍女、マリアだった。



 年齢不詳の端正な顔。人形のような無表情。

 見慣れた、私の侍女だ。しかし彼女の纏う衣装は初めて見るものだった。


 ゆったりしたシルエットは、何となく教会の司祭服を思わせる。

 しかし司祭服が紺を基調としているのに対して、マリアの衣装は純粋な白で統一されていた。

 内側から光り輝くような生地に、つい目を奪われてしまう。


 不思議な白い衣装を纏ったマリアは、戸惑う私をじっと見た後、恭しく頭を下げた。


「……つい先程、世界の命運は、定まりました。それを受けて、貴女にお伝えすべき事がございます。そのためにここにお招きいたしました」

「世界の命運……ってなんのこと?」


 抑揚のない声で言われ、はた、と記憶を辿る。


 いつだったか、似たような台詞をマリアに言われた気がする。「あなたに世界の命運がかかっている」……とか何とか。

 あの時は、「何言ってるんだろう」くらいにしか思わなかったけど……


「ねえマリア。これは、夢とかじゃ……?」

「否(いえ)、夢ではありません。貴女の魂は現在、時空の狭間──女神の領域に存在しております」


 なるほど分からない。

 混乱する私に構わず、マリアは淡々と語り始めた。


「……さて、本題に参りましょう。

 アデルハイデ・ローエングリム様、時間逆行する以前の貴女は、多くの民を虐げ、王国を荒廃させた悪逆非道な王妃であった。これを認めますね?」

「う、……はい」

「そのため、ノース王国は、反乱軍の"英雄ジーク・ライヴァルト"に滅ぼされた。その時、貴女は処刑されたのですが…………実は、その後が問題でした」


 私はゴクリと喉を鳴らした。

 そこから先は、私の知らない歴史だ。


「……"英雄ジーク・ライヴァルト"は、この国の新王に即位した直後、信頼していた部下たちに裏切られ、瀕死の重症を負いました。

 家族を失い、部下の裏切りに遭い、世界に絶望した彼は──"魔王"の力に目覚めてしまったのです」


 まおう。魔王とは一体。

 え、比喩……とかではなくて??


「"魔王"って、教会が教えてる、あの……?」

「さようです。彼の正体は、"聖王"に倒された"魔王"の子孫だったのです」

「……え、えええぇぇっ!!!!??」


 ……と、いったん驚きはしたけれど、


 「いや、よく考えたら全然意外じゃないわ!!!」と思考が高速でドリフトした。


 先輩のカリスマと強さはどう考えても人外レベルだ。"魔王"の子孫と言われても納得しかない。

 おそらく母親側の血筋がそうなのだろう。先輩のお母様って、石像ブン回したり、猪を素手で倒した女傑らしいし……そっかー"魔王"かぁー……



 先輩が"魔王"の血筋だというなら、他にも色々辻褄が合う。

 教会やマリアが苦手だったのとか。

 そしてハッとした。


「ねえマリア。私、半壊の王宮と、銀の鬣の化物の夢を見た事があるの。あれは、逆行前に実際あった事だったのかしら……」

「そうですね、おそらく逆行前の出来事でしょう。アデルハイデ様なら、あの"魔王"を夢で見たとしても不思議ではありません」


 マリアが頷く。

 あれ、先輩だったのね……とドン引く私に、マリアがひと呼吸おいて、説明を続ける。


「"魔王"の出現によって、世界は一気に不安定になりました。"淀み"に傾き過ぎれば、いずれ世界は均衡を失い、崩壊を迎えます。創成の女神は、世界の破滅を阻止するために、時間を巻き戻したのです」


 マリア曰く、二度の"魔王"出現は、女神にとっても想定外だった。

 最初の"魔王"が現れた時、女神は"聖王"に力を分け与えた。結果、力の大半を失う事になった。

 その失った力を回復するため、女神は深い眠りについた。だが──いまだに回復しきっていなかったのだ。


 新たな"魔王"に対抗したくとも、誰かに力を与える方法では倒せない。

 そこで女神は、いっそ時間を巻き戻してしまえ、という方向で解決を図ったらしい。

 ……というか、女神って実在したのね。全然信じてなかったわ。


 マリアは淡々と、私に降りかかった事象の謎を解き明かしていく。


「そして時間逆行の際に、逆行前の貴女──"悪女アデルハイデ"の記憶を、子供のうちに取り戻させるという条件が付加されました」

「あ、なるほどー!」


 私はポンと手を打った。


「ギロチンの記憶を思い出させたのは、私に再び"悪女"の道を選ばせないようにするためだったのね。それなら、少なくとも王国は安定するもの」


 私は小さく苦笑して、マリアを指差した。


「そして女神はもう一つ、保険をかけた。あなたを遣わして私を監視させたのよ。そうでしょ?」

「さすが私のお(・)嬢(・)様(・)、ご明察でございます」


 マリアが恭しく礼をとる。


「私は、女神の命を受けた御使(みつか)いです。

 貴女が道を誤ったり、不測の事態があった場合は、私が対応する予定でした」


 マリアは無表情を崩し、口許を微かに綻ばせた。慈愛に満ちたその表情は、まさに教会の女神像のようだ。

 なるほど似てるはずだ……


「最終的にファトマ筆頭公爵が捕縛されたため、彼が引き込む予定だった、隣国の侵略の可能性もなくなりました。貴女が処刑される未来はこの先、訪れないでしょう。

 偉大なる女神の名において、約束いたします」

「そうなのね!? やったぁ!!」


 マリアが次から次へと吉報をもたらす。

 私の気分も上向いていく。

 嬉しくて万歳していると、マリアの表情がやや曇った。


「ですが……」

「え、何。もったいぶらないで教えて頂戴」


 いったん言葉を切るマリア。

 何だか嫌な予感がする。


「王国滅亡による、"魔王"出現はなくなったのですが…………ジーク・ライヴァルトは、貴女に執着しています」

「…………あ、うん。そうかも、ね………」


 気絶する前、先輩は私のことが好きだと言ってたっけ。


「例えばの話、貴女が誰かに殺されるとか、無惨な死に方をすれば、それを契機に"魔王"にならないとも限りません」

「え…………何それ」

「ファトマ公爵の暴力も目の当たりにしていたら、かなり不味かったでしょうね。なので是非、貴女には、穏便に長生きしていただきたく……」

「いや、もちろんそのつもりだけどね!!!??」


 何だか最後の最後でとんでもない難題を突きつけられた気がする。私は、ふと頭に浮かんだ疑問をマリアに尋ねた。


「ねえ、"魔王"の血筋が残ってたのに、どうして女神は何も対処しなかったの……?」

「ほとんど無害化されておりましたからね。彼の場合、かなり特異な先祖返りだったのと、巡り合わせが悪かったのです……」


 マリアは意味深に私をチラッと見た。

 うぐ、と言葉に詰まってしまう。私がその「悪い巡り合わせ」の筆頭だから、ぐうの音も出ない。

 実際、先輩の性格とか、私なんかよりよっぽど人畜無害だものね……!


「あの、じゃあ、先輩の好意を突っぱねたら、怒って"魔王"化しちゃうとかは……?」


 びくびくしながら尋ねると、「それは大丈夫です」とマリアが太鼓判を押した。


「その場合は、影から貴女の幸せを見守るだけになるでしょう。ストーカー行為は多少あるかもしれませんが……貴女は、誰と恋愛しても問題ありません、多分」

「それ、全然安心できないよね!!??」


 怖い。

 "魔王"の血を引くストーカーとか怖すぎる。

 しかも小声で「多分」って言った。


「いずれにしても、世界は崩壊を免れました。後は貴女のお好きなように、人生を謳歌なさってくださいませ。

 女神は力を使い果たし、ふたたび深い眠りについておられますゆえ、こちらの世界に干渉なさる事はもうないでしょう」

「いや、"魔王"化するかもしれないストーカーとか怖すぎるから!! 女神様の力で何とかしてよ、ねえ待ってマリアぁあーー!!!」


 「今までありがとうございました」と無責任に去ろうとするマリアを、半泣きで引き留めようとしたけれど、強い力に引っ張られるように私の意識は地上に引き戻されていく。


 そしてハッと目が覚めた。




「……ああ、起きた」


 目を開くと、すぐ近くで、安堵する先輩の声がした。



答え合わせ回でした!


時間逆行前の部下の裏切りですが、裏でけしかけてたのもファトマ筆頭公爵だったりします。陰謀大好き。

先輩は、通常→英雄→魔王 と二段階変化するラスボスでした。


そして明日、二話更新して完結します。

(全45話→全47話に増えました)

最後までよろしくお願いいたします。

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