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【受賞】元"悪女"は、地味な優等生令嬢になって王国の破滅を回避します!  作者: es
本編

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04-03. ヤキモチですか?

 


 そして約一週間後。


「やあ、アデル」

「こんにちは、先輩」


 今日は恒例の、屋上庭園でお友だち会の日。

 ジーク・ライヴァルトは相変わらず、人間離れした美貌を維持している。この人の場合、なーんにもしなくても、素でこれなんだろうな……

 素の私より綺麗かもしれない。上には上がいるものだ。


 キラッキラした光を振りまきながら、彼は隣にストンと腰を下ろした。

 私は素っ気なく会釈して、読みかけの本に視線を戻す。これもいつも通り。


 そして、取り留めのない話が始まるかと思いきや……なんだか今日は静かだ。

 チラッと見ると、先輩はきゅっと口を引き結び、何度も足を組みかえては、ため息をついている。少し落ちこんでるように見えるのは、多分気のせいじゃない。


 ……この人ホント面倒くさい。察してちゃんか!

 私は仕方なく、本を閉じて顔を上げた。


「どうしたんですか、先輩」

「……別に何も」

「何もって顔してないですよ。言いたい事があるなら聞きますけど」

「…………」


 先輩はしかめ面で黙りこくった。落ち込んでる理由は言いたくないらしい。

 私がじとーっと見つめて無言の圧力をかけると、彼は渋々口を開いた。


「…………君、友だちが出来たんだってね。家にも招待したって噂で聞いたよ。昨日は、その子と話してるのも見かけた」

「はい、最近仲良くなった子ですね。それが何か?」


 魔法科の派手な問題児ソニアと、教養科の地味なクソデカ眼鏡。どう考えても水と油な私たちが友人関係になった、という事実は、それなりに周囲に衝撃をもたらしたようだ。

 二人でいるとぎょっとされるし、そこそこ噂にもなっている。それが、ぼっちな先輩の耳にも入ったらしい。


「僕は君のうちに招待された事はないし、名前で呼んでもらった事もない。僕が先に君と友だちになったのに……」


 なぜか先輩は、私たちの仲に嫉妬してふてくされていた。──思春期の少年ってほんっとぉーーーに面倒くさい。


 困ったなぁ……と思いながら、私は隣の先輩を見上げた。


「それにはちょっとした事情がありまして……」

「僕も堂々と、君と話がしたい」

「人の話はちゃんと聞いてください」


 いじけた先輩を嗜めながら、最近関わりを持ちはじめた女生徒を思い浮かべた。



 ──ソニアは、話してみると根は素直ないい子だった。水色とピンクの髪、じゃらじゃらアクセサリーにキツめの化粧という派手で目立つ外見も、よくよく聞いてみたら彼女なりに理由があるのだ。

 今は、私の説得で、王子好みの女性になろうと必死で特訓している。そんな私とソニアの接点が増えるのは、自然な成りゆきだ。


 私は自分のポリシー、「極力目立たない」を捨てて、ソニアと一緒にいる事を選んだ。

 ソニアのような子と行動すると、やはり目立ってしまうけれど、私は彼女の引き立て役になるつもりだ。

 それなら少しばかり目立っても大した問題にはならないはず。


 つまり……私とソニアは利害が一致しているから協力しているのであって、それを友情と呼べるかは疑問の余地がある。

 ただ、打算で声をかけたけれど、ソニアとはかなり打ち解けたのも事実だった。



 ……それはさておき。


 まず、目の前で臍を曲げてる少年をどうにかしないと。

 彼を邪険にしすぎて、万一敵対したら後がこわい。

 何かの拍子に"英雄"として覚醒したら、私を断罪するかもしれないのだ。先輩とは、そこそこ友好的な関係を維持しておきたい。


「──わかりました。人目のある所でお話ししたりは出来ませんが、代わりに、今後はあなたを名前でお呼びしますね、ジーク先輩」


 彼が小さく息をのむ。


「…………もう一回、呼んで」

「ジーク先輩」


 ……二度目、私は後悔した。

 先輩を名前で呼んだのは、打算や保身を天秤にかけた結果でしかなかったのに────


 彼は大きく目を見開いた後、緩く目を細くした。そして、心から嬉しそうにふわりと笑みを浮かべた。

 その笑みは、瞼の裏に鮮やかに焼きついて、一生消えないのではないかと思うくらい幸福そうだったから、


 …………私の罪悪感が、また一つ、増えてしまった。



 機嫌が良くなった先輩のキラキラが、いつもの五倍増しになった。

 まぶしい。もはや発光体と呼んでもいいかもしれない。


「先輩、眩しいです。ちょっとキラキラを抑えてください」

「うん、何言ってるのか分からないな」

「うわまぶし」


 ニコニコしながら先輩が首を傾げた。

 また光が飛び散った。自覚ないのか、この発光体はさぁ……



 まあ、嬉しそうなのは何よりである。

 先輩は友だちが一人もいないぼっちだったから、「友人に親しく名前を呼ばれる」という何気ない出来事も、テンション爆上がりの一大イベントになってしまうのだろう。入学前とか、学院生活をすごく楽しみにしてたみたいだし。

 最終学年の四年目にして、やっとそれが達成出来たのだから、浮かれるのも無理はない。


 それにしても、今までどれだけ寂しかったのかしら。"機械人形"の目頭も熱くなるわ……


 ……と思ったけど、よく考えたら私も似たようなぼっちだった。人を哀れんでる場合ではない。



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