表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【受賞】元"悪女"は、地味な優等生令嬢になって王国の破滅を回避します!  作者: es
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/48

03-04. 女神教会

 


 ──遥か、遥か昔。

 ノース王国もなかった頃の話だ。


 "混沌"から世界を創成した女神は、地上の生きとし生けるものを慈しみ、己の似姿──人を作って祝福を与えた。


 しかし楽園のようなこの世界も、"淀み"から逃れる事は出来なかった。

 "淀み"とは、闇が凝ったもの。

 "淀み"はおそるべき魔王を生んだ。

 魔王は人々を蹂躙し、恐怖に陥れた。


 世界の崩壊を憂えた創成の女神は、一人の男に力を分け与える。

 奇跡の力を授かった男は、たった独りで魔王に立ち向かい、三日三晩戦い続けた。

 死力を尽くした戦いは、山を削り、大地を穿ち、大河さえも形を変えたという。かくして激闘の果てに、男はついに魔王を討ち取った。


 女神の偉大な力に屈した魔王は、力の大半を失い、どこへともなく姿を消したという。

 そして魔王を倒した男は、聖王を名乗って古聖王国を建国し、女神を讃える教会を各地に建てたと言われている。


 だが長い時を経て、聖王家の女神の力は、少しずつ失われていった。

 折しも大陸は群雄割拠の時代。

 大小様々な国々が彗星のように現れては消えていく。そんな戦乱のさなか、長らく続いた古聖王国もまた、姿を消した。


 古聖王国はそうして滅びた。

 しかし、聖王が広めた女神信仰は、今なお人々の心の拠り所になっている──



 …………というのはまあ、アレだ。

 都合のいい建前だ。



 ノース王国の初代王イヴァニースは、国を立ち上げる際、自分こそが"聖王の末裔"だと宣言した。

 イヴァニース王は、己が血筋の正統性を主張したかったのだろう。


 初代王が、真に"末裔"だったかはさておき。

 要するに。

 王は"聖王の末裔"を名乗れば、箔がつく。

 教会は布教の大義名分が得られる。

 つまり、両者に利益があったので、王国では女神信仰を広めている……という身も蓋もない事情があったりする。

 個人的には詐欺ではないかとすら思うけれど、人前で大っぴらにツッコんだら、私の首がまた飛ぶので、口は閉じておくべきだろう。

 さわらぬ神に何とやら、だ。



 ちなみに、"聖王の末裔"を名乗る王家は、歴史上たくさんある。

 みんな箔を付けたいのよね。わかる、わかるわ。だから末裔がインフレするのだ。

 権威なんて所詮こんなもんである。


 私はかつて王太子妃、或いは、王妃として王家に在籍していたが、レグルス王子や王家の方々に神秘の力なんてなかったと断言していい。

 本当に奇跡の力があれば、邪悪な"悪女"に騙されて、国を滅ぼしたりしないと思うのよね……

 なので、"末裔"云々は、ほとんど眉唾だと思っている。



 さて、なんでこんな話をしてるのかというと。


(うう、眠いわ……)


 私は今日、王都でいちばん大きな女神教会のイベントに強制参加させられていた。


 ローエングリム家は教会の慈善事業に出資しているので、立場上どうしても断れない教会関係のイベントがあったりする。

 しかし招待されたお母様が体調を崩し、お父様もどうしても外せない仕事があったので、急遽私が代わりに出席する事になったのだ。


 司教様のありがたいお説教も、信仰心のない私には響かない。それより早く帰って課題やりたい……

 なんて事を考えながら、うとうとしていたら、付き添いのマリアに「お嬢様、起きてください」と肩をつつかれた。


 ハッと顔を上げて取り繕う。

 さすがに船を漕ぐのはまずい。

 仕方ないので、眠気覚ましに教会の立派な内装を眺める。


 司教が立つ祭壇の後ろにそびえ立つのは、大人三人分ほどの高さがある、巨大な女神像だ。

 胸の前で両手を合わせ、慈悲深い表情を湛えた女神は、見る者を厳かな気持ちにさせる。

 たしか、ものすごく有名な彫刻家が制作したのよね。


(少しマリアに似てる気がするわね……)


 隣をチラッと見る。

 マリアは真面目な女神教徒で、教会には週一で通っている。

 こんな苦行のような話を毎回聞いているのだろうか。相当な忍耐力が付きそうだ。


 それから私は、女神像の左右に設置された、これまた巨大な壁画に目を移した。


 壁画の中心人物は、女神の力を与えられた男。

 男が魔王を倒し、聖王になるまでの苦難の道のりが描かれている。

 こちらも有名画家が手掛けた作品で、確かに、色彩や奥行きには目を見張るものがあった。


 さらに周囲の美術品を一通り眺めたが、司教の話はまだ終わらない。あまりに暇だったので、今度は、壁画の登場人物に知り合いを当てはめるゲームを始めた。

 青い衣の聖人はイケオジだからお父様ね。もう一人は親戚の叔父様に似ている。禍々しい魔王は……私の鬼門、ジーク先輩だ。

 私からすると、"英雄"というよりも魔王みたいな存在だもの。

 あの天使像は子どもの頃の私、という事にしておこう。



 そんな遊びで暇を潰していたけれど、久しぶりに訪れた教会は、建物から装飾から芸術として素晴らしいものばかりで、たしかに心を打つ。

 敬虔ではない私でも感動するくらいだ、敬虔な信徒たちはこれらを眺めて、信仰を深くするのだろう。

 まあ、私にはあまり関係のない話だけど。



 そういえば何年か前、北方の女神教会を中心に、薬物汚染が広まったという事件があった。それに関連して、疑惑を持たれた王族が一人、僻地に飛ばされている。

 ここ数年、教会が慈善事業に力を入れているのは、汚名を払拭するためらしい。


 権威を維持するのも大変そうよね……

 つらつらと考えていたら、いつの間にか司教様のありがたい話は終わっていた。



 ◇◇◇



 そんなこんなで、次のお友だち会では、先輩と教会の話になった。


「そういえばこの間、中央教会に行ってきましたよ」

「へえ、君は前に、『女神教会も聖王も子ども騙しだ』って、辛辣な事言ってなかった? いつの間に信仰に目覚めたの」

「そんなわけないじゃないですか」


 眉を寄せてそう返したら、先輩は「だろうね」と軽く笑った。


「お母様の名代で、仕方なくだったんですよ。それより勉強したかったな……あ、ところで先輩って、すごく魔王っぽいですよね!」

「えっどういう意味!?」

「そのまんまです」

「……アデルって、時々わけわかんないこと言うよね」


 という会話を先輩とした。

 ちなみに先輩は教会が苦手らしい。

 足を踏み入れると、なんだか足元からゾワッとするんだとか。


「人が集まる所には、霊が集まるって言うからね……」


 と先輩もよくわからない事を言っていた。

 でも私は霊感も幽霊も信じない。

 ふふふ、別に怖いとかじゃないのよ?

 自分で見た事のないものは信じないってだけだから。夜寝れなくなるとか、そんなんじゃないから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ