1-1-4-1 躑躅
精霊の王エイゴン様がいる禁忌の森の入り口は、大きな谷間になっていた。
普段は入ろうとしても、気がつくと外に出されてしまう、禁忌の森。そもそも近づくことさえ許されていない。
でも、ゲルンさんが特別に許可を貰ってくれたから、中に入れるはずだ。
森に向かいながらスピカが珍しく心細そうに言った。
「この森、怖いわ。ここまできたの、はじめてよ。
それに、やっぱり村を出るのも、すごい勇気がいるのね。
私、本当は、通過儀礼のことも怖くて怖くてしかたがないんだ。でも、不安を口にしたら、潰れてしまいそうで」
俺は、少し震えるスピカの手を、ぎゅっと繋いで歩いた。本当は、俺もすごく怖い。でも、先に怖いと言われたら、勇気づけるしかない。
「大丈夫。俺が守るから。しっかり俺についてこいよ」
俺たちは、花が咲き誇る谷を下っていく。
すり鉢のような谷には、黄色い花がちらほらと咲いている。
道の左右には、つつじにも彼岸花に似た真っ赤な花が、見渡しても、振り返っても、真っ盛りに咲ていた。
空は、よく晴れて1つの雲もない。空は、こんなにも濃い青だっただろうか。気持ちの良い風が、草木や花々を揺らしている。
サラサラという草木のこすれる音が、ヒソヒソと内緒話をしているように聞こえた。行く道もすべて一面赤い花、来た道も真紅で鮮やかだ。
まるで赤い花を敷き詰めて、合わせ鏡にした世界に閉じ込められてしまったような錯覚を受けるほどに。
ふと見上げると、谷の斜面が全て真っ赤に染まっている。
俺は、あまりの美しさに息を呑み、無言で歩く。青い空と花の赤に囲まれて、原色ばかりの光景に、目がチカチカする。
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