3話
「お嬢様、アラン殿下が会いたいとおっしゃっておりまして…。事情を知らない新人の使用人が応接間に通してしまったんです。」
お父様が陛下に婚約破棄諸々を“お願い”してから1週間。
私は妃教育時代と同様、毎日6、7時間勉強する生活を送っていた。
苦ではないわよ?ずっと座ってるのはきついから30分に一回くらいのペースで休憩があるし、これ自慢なんだけど、私ものすごく要領がいいから一回で全て覚えられるの。
妃教育時代の内容も大いに役立っているから結構楽勝だった。
そして、今は夕方で今日の勉強が終わり優雅なティータイム…って感じなんだけど、別の茶葉を取りに行ったフィリーナが困った顔で1番最初の台詞を言ってきたってとこ。
私の影武者でもあるフィリーナは、若干私より濃いピンク色の髪に青い目、身長も同じで、さらに目元が似ている。
「本当に会わなきゃいけないの?」
「居座られてしまっては、私どもではどうすることもできません…。ドレスを着て私が対応したのですが、名乗ってもないのに『本物のシャルローゼを出せ』と言われてしまって。」
「はぁ…わかったわ。」
私は渋々アランの待つ応接室へ向かった。
◆
「おいっ!何の用なんだよ!」
「い、いや…ちょっとお姉さんに用事があって…。」
新人の使用人に応接室へ案内されたアランを見た俺は、アランの前にどかっと座ってそうくいかかっていた。
「…にしても、リオンはいいのか?シャルローゼが公爵位を継ぐと言うことは、お前は今後公爵になりたくてもなれないんだぞ。ほら、その可能性があるんだからシャルローゼを説得して皇妃に…。」
「お前なぁ…!それ、お前の都合でしかものを考えていないだろ!?俺のことを考えて言ってる風して姉上を説得するよう言ってくる所とか、マジで最低だ!」
「いや、公爵のくだりは本当にリオンのことを考えて…。」
「俺は!姉上が大好きだから!姉上がやりたいことを全力でバックアップするのが俺の役目だ!!!」
そう言ってバーンと机を叩く。
そう、実は俺シスコン。
まだ自分で自覚してるだけマシだろ?
俺だってもう15歳だから思春期真っ只中のはずだけど姉上を嫌いになったことなんてないしこの先もずっと姉上が好きでいる自信がある!あまり大声で言うことでもないが。
「いや…それ、逆じゃないか?普通、男のバックアップを取るのが女だろう。」
「今何と?」
「シャルローゼ!来てくれたん…ヒッ…。」
さも当たり前のように姉上を見下したアランの発言は姉上にバッチリ聞かれていたらしい。笑顔を浮かべてはいるけど物凄く怒った様子だった。
「聞こえてたわよ。」
姉上はアランの前に行くと、声を張り上げてこう言った。
「いい?女性が男の陰に隠れて生きる時代は終わりよ!これからは女性だって活躍していくんだから。私みたいにね!」
「シャ、シャルローゼ…。」
普段、アランと接する時は淑女として接していたらしいけど、今の姉上はそんなこと気にしていない。姉上の剣幕に押され、アランはタジタジだった。
姉上は、今度はニコッと笑ってこう言った。
「あ、後私たち婚約破棄してるわよね?今後気安く名前を呼ばないでくださいね、皇太子殿下?」
「わ、わかったよ、シャ…エステリア嬢。」
「姉上は小公爵だぞ!」
「…エステリア小公爵。」
話は終わったと言わんばかりに姉上がドアに向かったから、俺も一緒に出て行ってやったぜ!