1話
「シャルローゼ・セラーチェ・エステリア!俺はお前を愛していない。愛しているのはメイだ!皇后として迎えるのはメイだが、婚約破棄にするとお前がかわいそうだからな。お前は皇妃として迎えてやる。」
はい?
私にそう告げたこの国の…カルバーナ帝国の皇太子であり、私の婚約者でもあるアランの隣には緑の髪に緑の目の少女がベッタリくっついていた。
アランの母親である皇妃様の刺繍サロンに呼ばれたのに話の話題はメイについてばかりで、さらになぜかアランもくる。
この状況はおかしい、何かある…と思った矢先の出来事だった。
「少しお待ちを…。私と殿下が婚約するに当たって父が提示した条件をお忘れになっているのですか?と言うか、そもそもでいくら愛がないとはいえそれって浮気なのでは…。」
「うるさい!お前が俺に愛されようと努力していればまだわかるが、お前は自分の知識をただひけらかしているだけではないか!そんなお前はメイの補佐として政務をこなしていればいいんだ!」
私は呆れてものが言えなかった。だって、自分に都合よく考えすぎでしょう?
18歳から学院に通えるということで、私より1年早く今年入学したアラン。
学院で付き合っている女子がいるというのは噂に聞いていたし、私は彼が皇位を継いだあとその方を皇妃として据える予定だった。
なのに、アランは私を皇妃にしたいらしい。
皇妃は皇后と違ってほとんど権力がない。だから、身分が重視される皇后と違い、皇妃は元平民の娘であったり下級貴族の令嬢であったりすることも多かった。
もしかして、私がエステリアの者だと言うことが関係しているのかも。
この国には皇族でさえ機嫌を伺う二大貴族が存在する。
一つは“黒獅子”ことリンドガルト公爵家。
そしてもう一つが“白龍”ことエステリア公爵家。私の家だ。
ただでさえ権力のある家の娘が皇后になることで権力が増す可能性があるのが嫌なのかも。
でも、リンドガルトからは2人、エステリアからは私抜いて1人が今までに皇后になったことがあるのよね。
だからこの説は否定できるかも。
「おい、いつまで黙っている気だ?わかったなら早く返事しろ。」
「はぁ…。とりあえずお父様に報告いたしますわ。話はそれからです。それではごきげんよう。」
私は無理矢理話を切って、サロンを後にした。
◆
「…ってことなの。」
「うわあ、殿下サイッテーですね、姉上!」
「確かにね?あいつがシャルに一目惚れしたから婚約したっていうのにそれは酷い話だね。」
ブラウン寄りの金髪に私と同じ“夕焼けの瞳”を持ち頬を膨らませて怒っているのが弟のリオンで、シルバーの髪に緑色の眼を持ち苦笑いしながら私の愚痴を聞いてくれているのがリンドガルト公子のアーネスト。
公爵邸に帰ってお父様に話そうと思ったらお父様が帰ってきていなかったから、弟と、公爵邸に遊びにきていたアーネストと一緒にお茶を飲んでいた時の話題がこれ。
そうなのよね。アランは私を愛していないって言ったけど、私たちが婚約した理由って9歳の時にアランが私に一目惚れしたからなの。
お父様は私を皇后とすることを条件に婚約を承諾した。
まあ12歳の頃には何故かアランに嫌われていたのだけど。