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第三章 護国の為に祝福を。(5)

今回はクーアラント戦線編になります。

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 「ウェストラントの司祭どもは切り捨てよ!!」


 ビザニア帝国北伐軍総司令官・第6選帝侯モルガン大将軍は干からびてミイラの様に成り地面に転がるホルティ大司教ら、ウェストラントの従軍司祭達を苦々し気に見下ろしつつ言った。

 


 攻略軍の仮司令部を置いた小高い丘の上から瓦礫の山に、つまり素材に還った(元)スオミ城塞都市の跡地を見下ろしてビザニア帝国軍の指揮官たちは狼狽と困惑を隠せなかった。


 「まずい事態だ。早急に手を打たねば。直ちに司令官首席副官のシャンパーニュ叔父上をお呼びしてくれ。」


 総参謀長の上級将官モルガン法衣伯爵は伝令を飛ばし、更に幕僚達や各級指揮官を招集して対策を練った。


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 (契約の箱)と古代王国の騎士型魔動機。


 この二つを使用して国境線のキルナ要塞線の上部にある未踏のアルーデル森林地帯を短期突破、別動隊で後方からの奇襲によりキルナ要塞を撃破して補給線を確保する。さらに本隊はスオミ城塞都市の防備の整う前にこれを強襲占領し橋頭保とすると共に周辺の穀倉地帯で収穫され聖都ヘルシニアに輸送を待って居る冬麦等の食料や備蓄軍需物資を鹵獲して補給に使い、副都ヴィーボルニアを一気に攻略して前線拠点とし聖都ヘルシニアを迅速に陥落させてこの戦争に勝利する。



 帝国軍最高司令部と陸軍参謀本部が推敲に推敲を重ね、各選帝侯家や魔導省に皇宮・皇帝の認可を得て国運を賭けた乾坤一擲の大作戦が大きく綻び始めていた。



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 「何と言う事だ、兵糧が後3日分しか手持ちがない。後方からの補給はいつになるか?」


 総司令官モルガン侯爵の問いに、兵站司令官の将軍オテル子爵は蒼白な顔で「スオミの備蓄物資を接収できるとの前提で補給計画を立てよとの命令でした。そもそも補給線自体、まだ繋がってすらおりません。」厳罰を恐れてか、声を震わせて言った。

 「後方からの補給を受けられるようになるのは、最短でも7日後と思われます。本来ならそれでも十分に間に合う筈でした。軍部隊や補給部隊、御用商人隊の移動が円滑に出来る様に国境線の街道を修理・整備しながら此方に向かっている、徴集された予備役兵で編成された占領地警備軍・5万人の第二線級部隊が運んでくる予定でしたので。」

 「何だと!直ぐに魔信で物資の補給を総司令部に要請せよ!本来ならば明日には副都ヴィーボルニアにむけ進軍を開始せねばならんのに!!・・・・・・おのれェ!!ウェストラントの狂信者どもがぁ!!」

 モルガン侯爵は顔を真っ赤にして激怒し叫んだ。


 「・・あ、あの、総司令官閣下。フィーネリア神が戻った(契約の箱)はどの様に扱えばよろしいですか?」


 本来なら矢面に立ってモルガン司令官を宥められるはずの、溺愛する妾腹の(息子)クルト•モルガン総参謀長と猫可愛がっている公然の秘密の(弟)である主席副官シャンパーニュ将軍が共に後始末と今後の準備で走り回って不在の為、上官の逆鱗に触れたいとは欠片も思ってはいないが、立場上お伺いを立てねばならない作戦参謀達が、恐る恐る指示を求めている。


 フィーネリア神はウェストラントの司祭が斬られると同時に、煙の様に(契約の箱)に吸い込まれていた。


 「封印せよ!!あれを使いこなせるのはウェストラントの狂信者だけだ。そして奴らはもうフェルトノーラのもとに去った。あんな物を当にした結果が、この始末よ!!ええい、忌々しい禍つ物めが!!」


 モルガンは怒りの余り、目の前にある木のテーブルを思い切りけり飛ばす。


 テーブルは派手にバラバラになり、部屋にいる士官達はその凄まじい怒り様にビビって狼狽えるが、モルガンは少し眉を顰め蹴った右脚をさりげなく軽く振っている。どうやら痛かったらしい。


 仮司令部に集まった参謀連や士官達は、敢えて見ないフリして視線を逸らすのだった。



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 「迅速にヘルシニアに侵攻すべきです。副都ヴィーボルニアを攻略している時間も、物資もありません。これ以上敵に時間を与えれば、防衛体制を完成されてしまうだけです。」


 総参謀長の上級将軍「クルト・モルガン法衣伯爵」が参謀達の総意として、総司令官モルガン第6選帝侯に上申してくる。族称を聞いてわかる通り、総参謀長「モルガン法衣伯爵」は総司令官「フィリップ・モルガン第6選帝侯」の妾腹の長男である。


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 王侯貴族の結婚はあくまで「政治」


モルガン侯爵も正妻がいるし嫡流の長男・次男等正妻からの子は4人いる。


 だが、貴族も(人の子)


 政治も身分も関係なく、愛してしまう異性がいて当たり前。


 彼が16才で初めて愛した女性は、陸軍中央士官学校の食堂でウェイトレスとして働くイボンヌという名の14歳の平民の少女だった。はにかんだ笑顔が可愛い大人しい可憐な少女に、フィリップは一目惚れした。だが、身分違いの恋、本来なら叶うはずもない。


 しかし、彼は大貴族の嫡男。


 側室には出来る。彼女も、一緒に居られるならそれだけでいい、と言ってくれた。


      そして、クルトが産まれた。


 フィリップ・モルガン侯爵嗣子(当時)は、クルトに次代の候爵の継承権を与えないと宮内省や両親、親族・寄子の貴族たちに誓約する代わりに、法衣ではあるが妾腹の子としては破格の待遇である伯爵位をこの愛息子の為に手に入れた。


 聞き入れられなければ、家同士で婚約が決まっていた第4選帝侯の息女との婚姻を拒否すると宣言して。


 両親は卒倒しそうになりつつも、側室なら、クルトに侯爵位の継承権を認めないなら、と承認した。


 既に決まった第4選帝侯家との婚約を破棄したら、フィリップを廃嫡せねばならなくなる。


 同腹の6人の正嫡子中で、唯一の男子であるフィリップを失うわけにはいかない。親族が横から継承権を狙っているからだ。第4選帝侯家も、自家の息女の産む男児が第6選帝侯家を間違いなく継ぐのであれば、と渋々ではあるが承認した。

 だが、結婚前に(卑しい)平民の側室を作られた今の正妻は、屈辱を忘れていないようだ。夫婦仲は最初から冷え切っている。

 フィリップも、正妻に愛情はない。侯爵家を存続させるための子を産ませた、ただの道具だと割り切っている。自分をどう思っているか等は知った事でも無い。


      全ては貴族政治。そういうものだ。



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       〜 (モルガン侯爵視点) 〜



 私は皇都ビザンチウム郊外の別宅で待つ愛するイボンヌさえいれば、心は満たされている。側室や愛人塗れの他の貴族達とは違い、イボンヌ以外の側室はおろか愛人すらいない。必要ですらない。

 その為変人扱いされているらしいが、燕雀供の囀りなど気にもならない。


 真に愛する人は、ただ一人で良いのだから。



 「・・・愛情もないのに、打算と嫉妬、実家からの指示でイボンヌやクルトに何度も刺客を送って、私に気づかれないと思っているつまらん正妻から生まれた惰弱・無能な我が侯爵家嫡男のオスカルより、遥かに優秀・有能だ。この子を軍人にしたのは正しかった。能力もなく他人を見下すことだけ優秀なお荷物より、この子に継がせたかった。」


 「兄上、秘密裏に始末をお考えですか?」


 主席副官の準男爵セルピコ・ド・シャンパーニュ将軍が周りに聞こえないように小声で聞いてくる。

公表していない(公然の秘密で、軍部では周知)が、彼は母違いの弟だ。情けないことに父は薄情な恐妻家で、手を付けた女性や非公認の子を無視して捨て去った。


 14歳の時、陸軍中央幼年学校の2年生だった私は休日にたまたまの外出で皇都ビザンチウムを護衛兵達と散策していたおり、父に捨てられて収入もなく、精神を病んでしまった母親を助けたくてボロ服を着て薄汚れ痩せこけたわずか5歳の彼が涙を流しながら我が侯爵家の家紋入りのハンカチを捧げて私の前に土下座してきたのが、知らない弟との出会いだった。

 はじめは物乞いと思い蹴り倒そうとした護衛兵達は、彼の捧げる高額な舶来の白絹製のハンカチに刺繍された(当主家紋)を見て狼狽し、対処に困って私に報告と指示を求めてきた。

 当主家紋は貴族家の当主以外に使用出来ない物で、違反者は極めて厳罰に処せられる為父の物に間違いないからだ。


 ハンカチは父が昔、彼の母との逢引きの時の忘れ物であった。


 真相を知り驚愕した私は、直ちに帝都の郊外に小さな農地付の小屋敷を自分の小遣いで購入(小遣いで軽く屋敷が買えるあたりは流石に選帝侯家嫡男)し、異母弟セルピコと彼の母親を住まわせた。

 精神回復に特化した魔法医師や薬師を手配し、さらに静かな田舎で衣食住や日々の金銭には困らない環境を整えたからか、セルピコの母はほぼ回復し今では新しい伴侶と農作業にいそしんでいる。

 確か没落貴族のファルマ騎士爵家の出身だが、真面目で優しい良い男らしい。娘、つまりセルピコの妹が1人居たはずだ。


 私は、小さな弟の希望を受け入れ、12歳になった時に陸軍中央幼年学校に第6選帝侯家嫡男としての権限で彼を推薦し、更に継子の絶えた寄子のシャンパーニュ準男爵家に秘密を守る誓約をさせた上で彼の出自を話して養子縁組させ、可愛い小さな弟の栄達を手助けしてきた。


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 「今は待て。機が来たら、頼む」

 「はい、兄上。」


 





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 その(愛息子)から、参謀連の総意としての意見具申として現在の手持ちの兵糧と軍需物資で動員可能な最大兵力でのヘルシニア強襲作戦が具申された。


 無傷の魔導騎士機全機と最精鋭の重装騎兵や重装歩兵の選抜部隊で、一気呵成に聖都ヘルシニアに強襲攻撃をかける。残存部隊は現地で徴発、つまり略奪をしつつ後方からの補給を待ち、補給完了次第追従する計画だ。


 現在動員できる最大兵力は、聖都ヘルシニアを2日の攻城戦で落とす前提で重装歩兵3万・重装騎兵4千と魔導騎士機45機・騎乗弓兵3千に魔導師隊250人。


 魔晶石も残りわずかで、兵糧や馬糧に強行軍の為の身体強化魔法も考えるとこれが限界だった。


 首席副官のシャンパーニュ将軍も、第二陣が3日以内に追従して来るなら作戦は成功する可能性が極めて高いと分析した。2日でヘルシニアを落とすのが一番だが、戦は水物ゆえに陥落が遅れて補給無しでもヘルシニア近郊で徴発や掠奪をするなら最長4日は攻勢を継続出来る。更にこう着状態に持って行ければ7日間戦線を抑えられる、そこまではやれると。


 第二陣が間に合えば更に半月は力攻めの大攻勢を保てるから、その間に別動隊のモルト将軍麾下の正規軍部隊が国境線の掃討作戦を終えて順次来援出来る為、加速度的にこちらが優位になり正攻法でも勝てると。


 と言うより、それ以外に代案が無い、と明言した。




 「十分だ。邪道な(契約の箱)など無くても落として見せるわ。」


 モルガン侯爵は幕僚達に最速での部隊の再編成を命ずるのであった。




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いよいよ裕太が戦争に突入します。


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