第二章 2度目の転生(10)業火に包まれるクーアラント
ついに戦端が開かれます。
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「また性懲りもなく来たぞ。この要塞線を抜くことができるはずないのに。10年以上同じ様な攻撃を繰り返して、学ばない奴らだな。ビザニアの連中は。まぁ、いいさ。俺は後1か月で除隊して、幼馴染のエミリアと結婚して実家の宿屋を継ぐんだから。」
兵卒のタノンが呆れた様に、惚気話にも聞こえる口調で同僚に言った。
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ここはビザニアとの国境線の平坦部にあるキルナ要塞線。東北部が深いアルーデル森林地帯のビザニア帝国との国境線で、その南方のこの辺りは平野部が20km以上広がり重装歩兵を主力とするビザニア軍が最も侵攻しやすい地形の為、その防御のために30年以上の歳月をかけて延々と構築された堅固な要塞線だった。
今も進行形で改築や増築が続けられており、まさに鉄壁の防御を近隣諸国に謳われているクーアラント自慢の要塞だった。
「敵兵力は2万人程度と思われます。例年通りですね。」
守備隊の司令部で、作戦参謀の1人が中央国境警備軍司令官の法衣伯爵ノイマン将軍に報告した。
「斥候によれば編成も同じく騎兵2千騎に重装歩兵1万、軽装歩兵4千、弓隊2千、司令官護衛隊2千との事です。」
「春の風物詩だな。だが心配無用だ諸君、この要塞線には8千を超える守備隊が存在している。通常、城塞攻撃には守備兵の6~8倍の兵力が必要なのは歴戦の職業軍人たる諸君らは常識として知っておろう。高々2万で何ができる?せいぜい嫌がらせの為遠矢を射かけて要塞前の街道を荒らす位のものよ。ハハハ!」
幕僚達は、将軍に媚びを売る様に、ごもっともです。ハハハ、と笑う。
ノイマン将軍は、従兵が入れた醸造酒を呷りつつ中央要塞の上部にある作戦室の窓から外を眺めて遠目に見えるビザニア帝国軍を小馬鹿にしたように鼻息を吹く。
「フン、低能どもが。いつも通りに守備軍を中央城塞周辺に集合させておけ。各要塞線の中間塔陣地には、偵察のための小隊を残せば十分だ、敵主力がここにいるのだからな。ただ、一応聖都の国軍司令部には魔信を入れておけ。いつものように、いつもの奴等が、いつもの場所に、いつもの馬鹿ヅラ晒してやって来た、とな。ハハハハ!!」
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「敵軍は中央要塞周辺にほとんどの部隊を集結させたようです。」
中央要塞前に布陣しているビザニア帝国軍第Ⅲ軍団の幕僚長ゴルツ名誉準男爵が、馬上で刀疵のある頬を緩ませニヤリとして横にいる寄り親でもある軍団長の法衣子爵ハルトン将軍に言った。
「囮、上手くいきましたな、司令官閣下。相手が無能で何よりです。」
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*東北部、アルーデルの森。ビザニア帝国領側
「全軍、前進!!魔導騎士機隊、道を切り開け!いよいよだぞ!」
ビザニア帝国北伐軍総司令官、大将軍モルガン第6選帝侯爵は馬上で号令した。
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今まで軍の通過を拒んできた北東部の険しい森林地帯を、高さ15mもの鎧を身に着けた100騎を超える人型の魔動機が木や岩をなぎ倒しつつ前進する。
「帝都の地下から発掘した古代王国の騎士型魔動機にアーティファクト(契約の箱)。この戦、貰ったな!」
魔動騎士機の作った進撃路をビザニア帝国軍自慢の重装歩兵や重騎兵が軽装歩兵の先導で列をなして進んでいく。
「敵もまさかアルーデルの森を突破するとは、夢にも思うまい。」
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アルーデル森林地帯を魔動機により僅か2日で突破したビザニア帝国軍は、キルナ要塞線の上端から後方へ回り込み軍を主隊10万と別働隊5万の二手に分け、城塞都市スオミ攻略に向かう主隊と別れた別働隊は一気に南下。夜明け直前の、守備兵が一番気を抜いた時刻に魔導騎士機隊を先陣に5万の別動隊が中央要塞後方、つまりクーアラント側からいきなり現れ脆弱な後方部分に総攻撃を開始した。
通常要塞線とは、敵側に堅固で自国側に脆弱に作られている。
万が一陥落した場合、取り返しやすくする為だ。
~ビザニア軍は、正にそこを突いた。~
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「魔導士隊は攻撃魔法発射!弓隊、弾幕射撃開始!魔導騎士を先頭に立てて、盾にしつつ重装歩兵前進せよ!重騎兵隊は要塞後方陣地にいる敵軽騎兵を狩れ!一騎でも逃せば、奇襲が知られるぞ!!」
別働隊司令官の猛将・伯爵モルト将軍は最前線で剣を振りながら大声で部隊に命令する。
「捕虜は邪魔だ。皆殺しにせよ!!」
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「放てー!!」「おおー!!」
1万を超える弓隊が一斉に矢を放ち猛烈な弾幕を張る。脆弱な後方部とは言え要塞化された石壁に当たりほとんどは跳ね返されるが、数が数である。要塞の開口部や弩弓狭間にも大量に矢が飛び込み、中の守備兵を殺傷する。
同時に魔道士隊からの攻撃魔法も放たれ、守備隊に襲い掛かった。
「ぎゃっ!!」「ぐああっ!」「がッ、腹がぁ!やられた!」
要塞内で悲鳴が上がる。
「何が起きているんだ!?なぜ後方から・・ぐわっ!!」
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「閣下!起きてください、非常事態です!」
ドアを音を立てて開け放ち、一人の士官が叫んだ。
「何事か・・・。まだ夜明け前だぞ。また泥酔した下級兵供の大喧嘩でもあったか?鞭打ちした後、まとめて営倉にでもぶち込んでおけ。」
ノイマン将軍は寝ぼけ眼でノックもせずに寝室に飛び込んできた次席副官に告げる。
「ノック位しろ、この無礼者め。」
その時、ドカン!!と轟音とともに部屋が揺れた。「・・・!! なにごとか!何が起きている!?」
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ビザニア帝国軍は諜報員から入手した情報をもとに位置を特定し、最初の攻撃で魔信のある通信施設とアンテナを破壊して、連絡手段を絶った。
その上で魔導騎士により要塞後方の薄い城壁を4か所も破り、ビザニア帝国の軽装歩兵が要塞内に突入し内側から後方城門を守る守備兵を追い散らして大門を開く。
「隊列を組め!重装歩兵隊、城門より突入せよ!!」
重装歩兵を援護するため、魔導士たちが要塞内に次々と攻撃魔法を放つ。
「ファイアーランス!」「サンダーボルト!」
「ウィンドカッター!」「ウォーターアロー!」「アンチ・ヒール!」
「魔晶石は豊富にあるぞ、撃ちまくれ!!」
「ぎゃああああ!!お、お母さん!」
「ひいい!腕がぁぁっ!嫌だああ、俺は、俺は、生きて帰ってエミリアと!あぁぁァ」
守備兵たちが次々火に包まれ、体を切り刻まれて倒れていく。
石畳に流れた血糊の上を
((((ザッザッザッツ・・・・))))
重装歩兵の軍靴が続々と進む。
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中央要塞に火の手が上がるのを確認した囮役の第Ⅲ軍団も三重の鉄扉をもつ正門とその左右の防御塔群に全力攻撃を開始し、梯子を城壁にかけて突入。浮き足立った守備兵達をさらに追い込んでいく。
結果、僅か半日の戦闘でキルナ中央要塞は業火の下に陥落。奇襲を受け大混乱に陥っていた要塞守備隊はこの事態を魔信や伝令で本国に伝える事も出来ずにノイマン将軍以下、八千の守備隊は全滅した。
一人の捕虜も、生存者も居なかった。
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「・・・・! な、なぜここにビザニア軍が!国境守備軍は何をしているのか!!」
*クーアラント第三の城塞都市スオミ
何の前触れもなく現れたビザニア帝国の大軍に、城塞都市スオミの太守、イルマリネン第二大主教は思わず執務室の椅子から立ち上がり叫んだ。
「駐屯軍司令官のアグラヤルビ子爵殿を呼べ!大至急だ!!」
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「キルナ要塞守備隊と魔信がつながりません。」
通信士官の報告に、アグラヤルビ将軍は歯噛みして
「聖都ヘルシニアに通信、我、包囲されたり。敵兵力10万以上、稼働する古代魔動機を多数保有する模様。籠城し援軍を待つ、以上!!」
そう告げると幕僚を連れ速足で太守の待つ都城の謁見の間に向かう。
「いかなる状況か、アグラヤルビ子爵殿。この後どうなるのか?国境警備軍はいかがした!?」
太守イルマリネン第二大主教は落ち着きなく目を泳がせて額の汗を拭く。
「キルナ要塞とは連絡が取れません。ですが聖都には魔信で連絡済みです。既にすべての城門を閉ざし、駐屯軍は第一戦闘配備についております。幸い冬麦の収穫が終わったばかりで兵糧も十分にあります。聖都に輸送する前でよかった。」
駐屯軍司令官のアグラヤルビ将軍は籠城戦を念頭に太守に説明する。
「七日もすれば聖都と副都ヴィーボルニアより援軍が到着するでしょう。さすれば地の利はこちらに。敵軍を挟み撃ちにできます。援軍が到着し次第守備隊は全軍で打って出て、援軍に対して正面を向けた敵軍の後背を討ち、敵軍を瓦解させ勝利を得ることができるでしょう。」
「それまで持ち堪えねばなりなせん。」
それから僅か3時間後にビザニア軍は大手門に総攻撃を開始した。
次回、城塞都市スオミ攻防戦(2)乞うご期待!




