☆21
翌日、町田の拘置所へ一人で面会に訪れた西園は、手錠の代わりにコックリングを着けられた痛々しい姿の昂輝とガラス越しに再会した。ここまで勢い(望月への当て擦りもあった)で来てしまったが、いざ本チンを前にすると何と言葉を掛けたものか西園は考えあぐねたが、先に昂輝の方が亀頭を垂れた。
「わざわざありがとうございます……こんな裏切り者の為に」
彼もY県内での自分の評判について知っているようだ。「そんなこと」と西園は言いかけるが、言葉が続かなかった。
「良いんです。実際、彼らの言う通り、田舎に嫌気が差していたのは事実だし」
「そんな……じゃあ罰金刑を受けて、また町田に住むの?」
「いえ……ここだと僕は猥褻物として扱われるようですから、その」
言いにくそうにしている。Y県に帰るか、誰にも見つからない山奥にでも行くしかない。だが都会に憧れた気質から言って、山奥など耐えられないのではないか。そうなるとY県に出戻りする他ないのだが、今戻れば村八分だ。
「あと、罰金も結構痛くて」
「え? アタシも広告収入とかよく知らないけど、結構再生回数も伸びてたし、罰金くらい普通に払えるんじゃないの?」
「えっと、それが、その。実は母が妊娠して」
「え!? ウソ!」
どう考えても閉経している歳だ。
「父親は誰なの? 確かアナタの所は母子家庭よね。再婚? そっか顔は若返ったから」
それで男が釣れた、と失礼なことを言いかけて西園は慌てて口を噤む。青天の霹靂すぎて配慮も何もすっ飛んでしまっていた。そして昂輝は言わなかった先も察したようで、力なく亀頭を垂れて笑った。
「ははは。良いんです、その通りですから。若返って綺麗になった母を見て我慢が出来なくなってしまったんです」
「ウソ!? え、待って。じゃあ父親って」
「……僕です」
西園は今度こそ椅子から引っくり返りそうになった。だが冷静に考えると、それくらいしか可能性はない。墓地んちんは普通の人とは少し違っている。そんな彼の子供エキスを注げば閉経もこじ開けられるのかも知れない。
「子供の為にお金が要るんです」
それで罰金が厳しいと嘆いた先程の言に繋がるようだ。
「でもまずは自由の身にならないと。お金はシャバに戻ってからまた投稿活動をしたら」
「ダメですよ。もうチャンネルも消されてしまったし、新しく開設しても町田でやっている以上はすぐに逮捕されてしまう」
望月は全て覚悟の上だろうと言ったが、とんでもない。彼は何も考えていなかった。配信者で食べていくなら、屋外射精したところで誰も何とも思わないY県を活動拠点に選ぶべきだった。そこで県外者向けに撮っても外貨を稼ぐなら裏切り者扱いされることもなかった。欲望に負け母親と関係を持ち、あげく避妊すらしなかった無計画ぶりも目に余る。どこから注意すべきか西園が迷っていると、
「時間です」
傍に控えていた職員が静かに言った。
「そんな。三十分くらい時間を貰えるって聞いたのだけど」
「それは人間の場合ですね。ちんちんは六分です」
「横暴じゃない! 陰茎差別でしょ!」
と抗議したが「規則は規則」の一点張りで、どうにもならなかった。結局また来るとだけ言い残し、西園は面会室を後にした。
そして廊下に出た所で、警官二人が彼(彼女)の行く手を塞いだ。
「な、何ですか?」
「西園薫さんですね?」
「ええ。そうですが……」
「アナタに逮捕状が出ています」
「え!?」
「業務上過失傷害罪の容疑です」
西園は眩暈がした。まさか自分が。とても信じられず、人違いだと大声を上げそうになった。だがそれより早く、
「アナタが作っているおじ玉ラーメン……ですか? これを東京都から来た観光客が食べて、帰って来たのち、激しい腹痛を訴え、嘔吐や下痢などの症状を引き起こし、病院に緊急搬送されるという事例が、今月既に五件あります」
警官が罪状を一息に言い放つ。
「そんなの。そんなの東京の人たちの胃が変なだけでしょ。Y県の人たちは何の問題もない」
西園は青ざめた顔で、しかし理不尽すぎる罪状には何とか反論できた。
「何か変な物を入れているんじゃ」
「入れてないよ! 朝採り一番キンタマ出汁の、天然食材100%なんだから」
「何と! あの得体の知れない睾丸を使っていると? これは衛生管理上の重過失でしょう」
警官二人は自白と認め、暴れる彼(彼女)に手錠をかけた。
こうして増田親子に続いて西園まで東京の魔の手に堕ちてしまったのだった。




