☆2
痛ましい事故に、当然Y県側は憤慨した。市議の中には同じく野糞中の事故で妻子を失った、望月という男もおり、その彼は街頭に立ち、涙ながらに「誰でも安心で安全な野糞が出来る社会」の実現に県が一丸となるべきだと訴えかけた。実際、野糞中に背後から突然では防ぎようがなく、つまり誰にでも起こり得る他人事ではない事故、という県民の心の声を大便した内容で、多くの支持を得た。
こういった声に後押しされ、行政も毅然とした態度で件の建設会社へ抗議文を送ったが、返って来たのはまさかの請求書だった。設備費、人件費等を含めた名古屋工賃、その全てをY県が支払うべきという考えのようだった。激怒したY県知事は即日、その内容をネット上に公開。県民も彼へ同調し、こうなれば戦争だという機運が高まった。
意趣返しとばかりに、軍は仮性包茎の男性だけで構成された。志願兵は3000を超え、士気も非常に高かった。だがそれでもY県が愛知に勝つのは至難の業と言えた。県GDPも人口も、彼我の差は大きい。
そこで前出の望月が腹案を出してきた。骨子はこうだ。いきなり直接対決をするのではなく、まずは愛知と同盟を結ぶ岐阜に攻め入る。そこで岐阜の資源を収奪し、現地兵も調達。その際、巨根男性のみを徴発し、下半身丸出しで愛知に乗り込ませる。その上でY県軍は粗チン兵のみで構成されているという情報を流す。そうすると岐阜の兵の巨根を見て一般人だと思い込んだ愛知側は、何の疑いもなく彼らを市内に入れてしまうハズだ。そこで善良な市民の仮面を取り払い、市中至る所で脱糞する。便衣兵で便意兵という寸法だ。名古屋の街が混乱を極める中、Y県の粗チン軍が突入。名古屋城を占拠したのち、Y県知事が天守閣で射精する。それで完膚なきまでの勝利となる。
非の打ち所のない作戦だった。Y県民はこれが公式に発表されたとき、勝利を確信した。気の早い連中など、プレ祝勝会と称しパジャマパーティーまで開く始末だった。
だがそこから事態は急変する。岐阜へ宣戦布告の文書を送る手筈を整えていた段で、知事、立案の望月、そして粗チン兵全員が、テロ等準備罪なる謂れなき咎で逮捕されてしまったのだ。更には独自ルートで入手した種子島500丁も同時に押収されてしまった。聖戦は卑劣なる奸計により頓死した。
首長以下、作戦に関わった全ての逮捕者は東京の八王子に連行されることとなった。日本全土を揺るがす内紛に発展する重大な懸念、という名目で、管轄を超えて直接警視庁に逮捕状が下りたという内情らしい。とんでもない話だった。野糞愛好家は理不尽に命を奪われても黙って大人しくしていろ、ということか。望月は絶望した。この世には神も仏もいないのか。
そんな彼らに救いの手が差し伸べられた。救いの主は、誰あろう、全ての事の発端である、あの巨大粗チンおじさんだった。
おじさんが鼻をほじると幾つもの巨大鼻クソが採れた。その鼻クソを爪に乗せ、デコピンの要領で天高く弾いたのだ。山は鳴動し、木々の幾つかは彼の腕が当たって倒れてしまった。だがそんなことは構わず、おじさんは次々と鼻クソを打ち上げた。それらは遙かな長距離を飛び、八王子の街に降り注いだ。被害は小さくなかった。野猿街道の多くで通行止めとなり、多摩方面の交通は麻痺した。更に鼻クソ弾は拘置所や警察署にも着弾し、阿鼻叫喚のドサクサに、捕らえられていた知事、望月、粗チン兵たちは逃げおおせた。ちょっと何人か死んだが、殆ど全員がY県へ帰還できたのだ。
Y県民は大いに沸いた。帰って来た勇敢な兵たちを称え、そして巨大粗チンおじさんの下へ感謝のお供えをする者が続出した。そこから事態は更に好転する。先の八王子の惨状を見て、件の名古屋工賃を要求していた業者の代表が謝罪表明、一転、野糞死した男性の遺族へ損害賠償を支払う運びとなったのだ。これを受け、Y県知事は勝利宣言、ここに終戦を告げた。