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☆1

 それは本当に何の前触れもなく現れた。

 

 

 近隣に住み、毎日の朝晩、愛犬の散歩でその場所を通るという女性の話では「昨晩来た時にはあんなの見なかった」ということだった。それが今朝、犬が吠え立てるので何事かとそちらに顔を向けると、巨大な足裏を見つけた。最初は牛久のように、ウチの県でも新たに大仏を建立こんりゅうしたのかと思ったそうだ。だが、それにしては寝そべった時のように、足の裏が見えているのは解せない話だ。

 女性が家に帰り、夫に見てきたものを話すと、彼は居間のテレビを指さした。

 ニュースの映像はまさしく近所の山裾を映していた。ただ山を映しているワケではなかった。主役は山の斜面に横たわる巨大な人型。とてつもなく大きな中年男性にしか見えない何かだった。やはり大仏なのかと女性が思いかけた矢先、その人型が身じろぎした。それだけで木々が揺れ、木立から鳥たちがパッと飛び立つのが見えた。

「……生きている?」

 夫と妻の言葉が重なった。



 十五分ほどライブ映像は変わらず全裸の巨大中年男性を映していたが、そこで速報のテロップが流れた。防衛省のコメントが発表されるようだ。すぐに画面も切り替わり、防衛大臣が記者会見場に姿を見せ、突如Y県に出没した正体不明の生物、巨大な中年男性についての見解が示された。

 巨大中年男性の体長は約360メートル。それに対して陰茎の長さが12メートル程度。発情フェイズに移行したとしても、恐らく、せいぜいが20メートル程度と予想される。以上の事実を以て、防衛省はこの巨大中年男性を「粗チン」と断定した。

「アナタ、これって……」

 妻は不安げに夫の顔を見た。夫もしかめ面で、如何にもマズイことになったと俯く。

 昨今、世界的な潮流として、粗チンは無闇に人前で振りかざすべきではないという意見が大勢を占めている。国民に粗チン税を課す国まであると言う。そんな時代の流れに逆らうように、あんな巨大な粗チンを堂々と晒していては……

「日本が、Y県が、針の筵になるかも知れない」

 という夫の予想通り、一時間後にはアメリカの大統領が、日本を粗チン礼賛国と評し、不快感を表明する事態となった。



 慌てた日本政府は、長さは今すぐどうこう出来ずとも、せめて仮性包茎だけでも是正すべく、早急に専門家会議を開いた。彼らの結論としては「普通の包茎手術とは違って、もっと大掛かりな設備が必要となる」とのことだった。だが、そんなものを悠長に用意している時間などありはしない。今この時にも日本を辱める粗チンが全世界に中継されている状態だ。政府は決断を迫られる。

 拙速は承知で、公共工事として入札業者を募り、それを愛知のゼネコンが落札した。工事は一両日中に着工という強行軍の様相で、とにかく陰茎に被っている皮を工具でも何でも使って剥ぎ取ってしまえという、乱暴極まるものとなった。医師会は麻酔を使ってやるのが人道だと説いたが、そもそもこの巨大粗チン男性を人間として扱って良いものかどうか、誰も答えを持たなかった。ネット上では樹海から這い出てきた、だとか、湖から湧き上がって来た、だとか、勝手な憶測を飛ばし、彼を丸きりUMA扱いする向きもある。

 ともあれ、グレーゾーンの人権を無視したまま進められた工事は、しかし予想外の結末を見る。職人の一人が、誤って巨大粗チンの尿道を開発してしまったのだ。粗チンとは言え、それは体長比から言われているだけで、実際の大きさは普通の人間の何倍もある。それが突然勃起したら、どうなるか。作業に当たっていた職人たちは全員が振り払われた。巨大チン毛に絡みつけていた安全帯が地面への滑落を防いだのは不幸中の幸いだった。

 だが、作業員以外は別だった。尿道に刺さったままの電動工具が勃起後も絶えず振動を与え、それが比類なき快感となり、巨大男性が射精してしまう。その際、精液と一緒に工具も射出され、それが付近で野糞をしていた男性の後頭部に直撃、死亡するという重大事故を引き起こしてしまったのだった。

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