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動き始める改革と望み

渠梁は兄の口からどんな話が飛び出してくるのかと気が気では無い。交換条件では無くなった事で、改革の神聖さに傷が残る事は避けられたものの、あの兄が一時的にでも交換を要求する程の内容であるのは確かだからである。


そんな渠梁の思案には、全くといって良い程、興味が無いのか、嬴虔は相も変わらずほくそ笑みながら、おもむろに語り出した。


「実はな、私も先日思い出したばかりなのだが、父上が一時期躍起に為って取り組んでいた事が在ったであろう?そうだ!そうなのだ!これは父上の願いでも在るのだよ…」


嬴虔は『父の願い』という点に特に力を込めている。自分の望みだけでは少々弱いと感じたのかも知れなかった。


『父上の願いだと?そんな話は覚えが無い…いや待てよ?兄も思い出したのには何か切っ掛けが在った筈だ!これはひとまず最後まで聞くほかは在るまい…』


渠梁はそう思い直すと、ますます神経を(とが)らせて、話の内容に聞き入る姿勢をみせた。


嬴虔はそんな弟の表情を横目で眺めながら、フフンと笑みを浮かべている。そしてその真剣な眼差しに満足している様子だった。彼はそれを確認すると引き続き話を継いだ。


「それはな…車家の再興だ…私もそんな話は父上から聞いていたが、つい先日、子巌が私に話を持って来るまでは全く忘れてしまっていた。そう言えば相国だった子規が車家を庇って身体を張った事や子巌が車家の娘と結婚して、車家を未だに養っておる事は聞いていた。どうだろう…もし車家を継ぐ者が存命であるならば、この際、車家を再興してやり、秦の国の為に尽くさせてやる事こそが(まつりごと)正道(せいどう)では無かろうか?渠梁よ!良く考えて欲しい。今の社稷の場はほとんどが貴族たちの狩り場と化している。御正道を貫くための味方は多い方が良いのでは無いかな?車家の者もお前が手を差し伸べてやれば、必ずや恩に報いるで在ろう。是非とも実現の方向で履行してくれる事を願っておるぞ!私の言い分はそれだけだ。」


嬴虔はそう言うと、直ぐには返答を望まなかった。彼自身も、かなり履行に当たっては、障害が在るだろう事は感じていたのである。


無論、それは渠梁の様に『正道』を貫こうとする者にとっては…という意味である。嬴虔の様に、自分の意思を他人に強制させる者にとっては容易(たやす)い事であり、彼ならば無条件で既に事を為している事だろう。


そういった意味では、嬴虔がいみじくも述べた様に、彼ならば再興は成し遂げていた筈である。但し、それは恐らく正道を無視したやり方に乗っ取った物で在ろうから、貴族の反発は覚悟する必要が在った。


嬴虔は、いざとなれば武力で押し潰すくらいの覚悟は在るので、(いささ)かも(ひる)まないが、まともな君主にはかなり重い課題である事も確かだった。


渠梁も父上の想いを思い出していた。確かにそんな動きが在った事は記憶の隅に残っている。そして、それが未だに履行されていない事も確かだった。


普通に考えれば、父上が頼みとしていた子規が履行する筈の案件で在るのに、あれ程の人物が退官前に履行しないで辞める事があるだろうか?そこら辺りが渠梁の疑問の残る点であった。


こればかりは内容を精査しなければ、何とも答えようが無い。渠梁はひとまず兄の言葉を預かり、然るべき調査を経た後に、履行すべきか決める事にした。


「兄上!お話は判りました。必ずや精査した上で、早いうちに是非を決める事に致します!」


「頼む!子巌は私の小飼の男だ。私は奴を買っておる!そして父上が頼みとした子規の跡取りだ。圧力をかける訳では無いが、そこの所を忘れないで貰いたい!では今日はこのぐらいで良かろう!ではな!」


嬴虔はそう言うと、渠梁の居る事も、最早忘れた様に、立ち上がるとテクテクと庭園の散策に出掛けてしまった。


渠梁も兄のそういう所は昔から良く判っているので、自らも立ち上がると、門の方角に向けて、ゆっくりと歩き始めた。


今日は色々な出来事が在って、渠梁も身体全体から疲労を感じていた。改めてひとりになると、息子・()の事が案じて成らなかった。

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