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想い掛けぬ馳走

「若君♪お久し振りです…お帰りなさい。無事にまたお逢いできて、この魯粛感無量です…」


魯粛はとても嬉しそうに秦初を見つめている。


いつになっても小さい時から仕えている若と一緒に居られる時間は、魯粛にとっては他に代え難い喜びであった。


「さあさあ…お寒いでしょう。中にお入り下され!今朝は生憎の雪でして…若君も本当に不思議なお方だ…わざわざこんな日に戻って見えられるとは♪でもこの雪が若君を運んで来てくれたのかも知れませぬ…今朝ほどの大漁も此れを祝う吉兆だったのですな♪久し振りにたんと美味しい物を食べさせて差し上げられそうで、私も久し振りに腕に依りを掛けて取り組めそうです!」


そう言うと、背中に回って嬉しそうに雪を(はら)ってくれる。


秦初にとっても感慨深い…。


魯粛は幼き頃からの善き友であり、信頼する配下のひとりであった。


「お主も変わらず元気そうで安心した。少し野暮用で斉の国から跳ばして来たのだ。腹が減ってな…(´▽`)♪直ぐにお前を思い出した…悪いが厄介になるぞ!何か美味しい物を食わせてくれると有難い…」


そう言って笑みを浮かべた。


「任しておくんなさい!今朝は新鮮な魚がたくさん採れましてね…今、(さば)いていたところです。直ぐに刺し身にして差し上げますよ♪あとつみれのお団子さん汁を作りますから、身体も温まりましょう…焼き魚も作っちゃおうかな♪何でも遠慮なく言って下さい!ひとまず料理の手を急ぎますから、また後程…あ!そうだ!菅仲は(うまや)に入れて置きましょう…飼い葉は…」


そこまで魯粛が言うや、秦初は(さえぎ)る様に言葉を掛けた。


「いや…それには及ばぬ。あれは私の馬だからな…私が(うまや)に入れて飼い葉をやるから、気にしなくとも良い!お前はひとまずその間、料理に掛かってくれると有難い…」


そう言って魯粛を(ねぎら)った。


「若君は相変わらずお優しい御方ですな…私にも馬にも、昔と変わりませぬ…何か嬉しいですな!判りました…私は料理に精進しますゆえ、宜しく(たの)みます♪」


魯粛はそういうと嬉し涙を(ぬぐ)いながら、(くりや)に戻って行った。


秦初は魯粛がくべてあった囲炉裏の火に当たりながら、身体と手足を暖めると、壁に掛けて在った簑と笠を無造作に着込み、外に出た。


道には既にかなりの雪が積もっていて、風も強く為って来ており、先程よりも体温をとられそうで在った。


繋いであった菅仲の(たてがみ)や背中にも雪が容赦無く積もっており、菅仲は自ら「ブルルル」と(いなな)きながら、身体を左右に揺すって、降り掛かる雪を振り払って居た。


「賢い奴だな…」


秦初はそう語り掛けながら、優しく彼の鬣や背中に残っている雪を祓ってやり、温かい言葉を掛けた。


「菅仲…待たせたな、寒かったで在ろう…」


そう言いながら、手綱を引いて、厩に入れてやる。


そして鬣から背中まで、柔らかい糸瓜(へちま)(ぬぐ)う様に磨いていき、凍える身体を温めてやる。


四つ足のひとつひとつも順番に研きを掛け終わるや、飼い葉をつけてやり、大好きな人参(ニンジン)を手掴みにして、餌付(えず)けしてやった。


そしてゆっくり休める様に、寝藁(ねわら)(こしら)えてやると、「まあゆっくり休め♪」そう言って厩を後にした。


母家に戻って来ると、魯粛が囲炉裏に薪を足している。


そして、秦初が戻って来ると、


「おやおや…私の簑もピッタリ合いましたかな…それは何より♪」


そう声を掛けながら、魯粛は嬉しそうに秦初を観やると、


「若君!お食事の用意が出来ましたので、簑を脱いだら、こちらにお掛け下さい。なぁにそこら辺に放り出して置いて下されば、私が後で片付けますゆえ、さぁさ…こちらにどうぞっ♪」


と、嬉々とした笑顔で手招いている。


『変わらないな…こいつだけはいつ帰って来ても昔のままだ…』


秦初は感慨深げに魯粛を眺めながら、独り御馳た。


そして簑と笠を簡単にパンパンと払うと、軒内(のきうち)に掛けて、囲炉裏の傍に座った。


「若君、お待ちどう様でした。今日は久し振りの再会ですから奮発しましたよ。刺し身に焼物に汁物です。煮魚もありますから、後程持って来ます。あと若君は昔からお米の御飯が好きでしたな。国から持って来れれば一番ですが、なかなか持ち出せませぬゆえ、南蜀で栽培している品種と百越から取り寄せた品種との混合(ブレンド)(まい)です。精米も私がしてますので、白い米ですよ!たくさん炊いてありますので、どんどん食べて下さい。」


魯粛はそう説明を終えると「ど~ぞ!」と活き活きとした表情で、満足そうに笑った。


「刺し身は桃色掛かった身のようだが、河にこんなん住んでたっけ?」


秦初は素朴な疑問を遠慮無くぶつけて来る。


『(;^_^A??』と不思議そうな顔をしているのだ…。


魯粛はそれを聞くと、(´▽`)大袈裟に笑いだした。


「若君それは鰤鱼(ブリ)の刺し身です(*^-^)♪私がわざわざ百越に米探しに行った時に海で取って来た物でして、若も御存じの地下の巨大海水桶で飼っていた最後の一匹ですよ♪因みに川魚は生で食べるとヤバいらしいので、全て火を通していますので、安心して食べて下さい(o≧▽゜)o」


『(^-^;あの巨大海水桶まだあったのね…いまいち理屈が判らんが、こいつしかそんな面倒臭いことしないもんな…どんだけ魚LOVEなんだろう…でもそのお陰で旨い刺し身が食える…有難い事だ♪しかし川魚が生で食えないなんて始めて聴いたな…』


魯粛 (いわ)く、生の川魚はやべぇ~。宿主にたくさんの川の虫どもが住み着いているので、人の身体に入ったら『下手したらあんた死ぬよ(;^_^A…』と言う事らしかった。


秦初はここからノンストップ…止まること無く、箸を動かし、刺し身に御飯、焼き魚に御飯、汁物に御飯、ついでに煮魚で御飯を食い(まく)った。


「いやぁ~御見(おみ)()れしました。相変わらず蟒蛇(うわばみ)の様な食欲(o^ O^)シ彡☆たくさん作った甲斐が御在(ござい)ました。」


魯粛は感心しているのか、(けな)しているのか、判らないような言葉を口にしているが、単に言葉遣いに誤りがあるだけで、完食した若君にそれだけ喜んで貰えた事を、素直に嬉しく思っての発言だったのだろう。


とても満足気な表情をしている。


一方の秦初は、寒い中を苦しさを乗り越えて、駆け抜けて来て、 身体がすっかり冷え切っていたため、お腹が減っており、あっという間に(たい)らげてしまったという訳だった。


この中華で白米などを口に出来るのはここしか無く、そもそも米の存在を知っている者もほぼ無い時代であるのだから、精米などという技術も無論存在しない。


西夏国の者だけが経験して会得した技術である。


秦初はそれでも『蟒蛇(うわばみ)は成かろう…』(^o^;)…と内心想わないでもない。


しかしながら、二年振りの再会と、彼の大盤振る舞いに感謝を示して、


「とても美味しかった。わざわざ私のために、鰤鱼(ブリ)まで(つぶ)して歓待してくれるとは…御馳走の数々、皆美味しく頂いた。お主の真心が込もっていて殊更に嬉しかった。お陰で精がついた気がする…有難う♪」


そう言うと、両手を合わせて、謝意を示した。


(o≧▽゜)o「若君のためなら、お安い御用です♪」


魯粛は満面の笑みを浮かべて、お得意の歌を口ずさみながら、片付けを始めた。


昔から魯粛が御機嫌な時に歌う奴である。


「生於憂患而死於安楽也~♪」


『憂患に生き安楽に死するを知る成り~♪』


人は色々な悩みや苦しみが在っても、それを乗り越えて生き抜こうとする者で在り、安穏(あんのん)に過ごして居ると、却って早く死を招く者で在る。


…という様な意味であるらしい(^-^;


秦に生き、秦の民に交じって生きて来た魯粛だからこそ、感じる事の出来る唱歌なのだろう。


元々は孟子が提唱した言葉らしいが、この秦の民の人間性を如実に言い当てた言葉の様に秦初には聞こえた。

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