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狐の嫁入り  作者: くろのす
3/7

#3

3話です

ちょっと迷走気味かもしれません

理亜が玖戸市に来て一ヶ月が経とうとしていた。

憧れていた離島での生活にも慣れ始めていたので、理亜は音八以外のクラスメイトにも話しかけられるようになっていた。

「理亜ちゃんおはよう、昨日の宿題できた?」

「できたよ、英語のやつだよね?」

「うん、それ!後半の長文ってなんの話だったかわかる?」

理亜は思い出すように目を上げ、顎に手を当てる。

「アレは確か『海と生き物の関係』じゃない?ほら、ここ」

そう言って理亜は最後の行の三番目の文と、四番目の文を指差した。

「ここの文からここまでが海の話で、五番目がそれのまとめで…」

シャーペンで文を追いながら、クラスメイトに宿題の英文を解説した。

「すご!理亜ちゃん頭いいね!」

「そ、そんなことないよ…」

普段の授業を聞いていればわかるし、このレベルの話だったら、東京の学校の方で既に勉強していたので、難なく読めるようになっていた。

ただ、理亜自身は気付いてないが、この学校の中で上位五位以内に理亜は英語ができる。

(頭いいってみんな言うけど、私そんなことないんだよな…)

内容を聞かれるのは別に良かったのだが、成績がまともなのは文系科目と理科だけ。数学がどうにも出来なかった。

そんな中、隣の音八はふわふわとどこかを彷徨うように微睡んでいた。

「…音八君は終わった?」

パチッとスイッチを切り替えるように起きて、こちらを振り向いた。

「英語の宿題?やってないけど」

「え、なぜ」

まるで当たり前かのように理亜の質問に答える。

「俺宿題見られないとやらないんだよね、その場で解けるし」

理亜は頭を抱えた。これが俗に言う「頭のいい人」である。

「そういうの、あんま他人に言わない方がいいと思うよ」

「…あぁ、よく言われるよ。善処はする」

音八はガタッと席を離れ、そのまま教室外へ出た。

(今日も異常はないか。そろそろ尻尾を出してもいいと思うけど…)


音八が帰ってきた数分後にHRが始まり、城島の長い話と共にそれが終わった。

(そういえば、昨日乙女ちゃんと会ってないや…)

ほぼ一ヶ月の間会いに行っていたのに昨日初めて忘れてしまった。

一時間目が始まる直前にその事を思い出し、罪悪感と闘いながらそのまま授業が始まった。

「えーっと、この文法は結構使われるので注意してください。ここでの『make』は『〜を作る』ではなく『人を〜にする』の意味ですので把握しておくように。続きまして———」

理亜はずっと、乙女の事を考えていた。

(私、乙女ちゃんの事全然知らないな…)

どこから来たのか、何故市外の中学校にわざわざ通っていたのか。…何故、あの廃神社のようなところにいたのか。

机の上のノートに向かい、考える。

私は、あの女の子について何も知らない。

乙女の方から情報を開示してくれるわけではないため、やはり自分で聞いた方が早いのかもしれない。勿論、乙女がそれで答えてくれるかは別だが、それくらいしか方法がなかった。

(もしかして…)

ペンを右手に持ちながら、こんな事を考えた。

(乙女ちゃんって、幽霊だったりするのかな)

あまりに非現実的な答えに、理亜は自分で何を考えているんだ、と頭を抱えた。

「笹上さん?」

突然苗字を呼ばれ、咄嗟に前を向く。

「起きてましたか、ごめんなさいね。では、授業を再開します」

(あぁ…なんだ。起きてるかどうかの確認か…)

はぁ、と少し深いため息を吐く。

どう考えても非現実的な可能性ではあった。

あったのだが、どこか拭いきれない、漠然とした気持ちがあった。


学校が終わり、足早に理亜は乙女と出会った神社に向かった。学校から意外と距離があり、正直走ってる途中で疲れを感じたが、なんとかその付近まで着いた。

神社の手前まで来たところで、前回感じた肉体の違和感を思い出した。

(あー…そういえば前、足攣ったっけ…)

しかし、乙女と会えるならいいか、と割り切り、その中に入った。だが、前回とは違った違和感を、理亜は感じた。

「あれ…?」

前の痛みはおろか、引き込まれるようにスッと、神社の中に入れた。

「なんでだろう…」

周りを見てみても、空は青いままだし、雨も降らない。

前回とは違った感覚に警戒しながら、理亜は神社の鳥居に向かう。

「…あれ、乙女ちゃんいない…?」

鳥居の目の前まで来たのに、乙女が見当たらなかった。理亜はうーん、と首を傾げた。

いつもならこの神社か、前に会った海かの二択だった。なら海に居るのだろうと、そっちへ向かおうとしたその時である。

「…理亜ちゃん?」

「ぴゃっ!」

理亜は聴き慣れた声で自分の名前を呼ばれた事に驚いた。後ろを振り向くと、巫女服を着た乙女が立っていた。

「乙女ちゃん!久しぶり!」

理亜は乙女の姿を見ると、そちらに駆け寄った。

「…えぇ、久しぶり。今日はどうしたの?」

「あぁ…昨日会えてなかったから…その…会いに来ただけです…」

我ながら計画性が無いと、若干後悔している。

だが、乙女は「ふふっ」と笑い、理亜を抱きしめた。

「ありがとう、理亜ちゃん。わざわざ会いに来てくれて嬉しいわ」

ふわっとした、爽やかな香りが乙女から漂ってきた。

「それで、どうして昨日は来れなかったの?」

乙女の声のトーンが、少し低くなった。

「忙しくて…あと忘れちゃってて…ごめんね」

「…そう、ほとんど毎日会いに来てくれていたから、少し心配だったわ」

乙女の握る強さが、少し強くなった。

乙女は抱きしめた腕を緩め、肩をぐっと掴み、理亜と目を合わせた。

「理亜」

突然名前を呼ばれ、理亜は身震いする。乙女の瞳が、不思議な螺旋状になっていたのだ。

グッと、強い何かに身体を縛られた感覚が走り、動けなかった。

(あれ…?なんでだろう…)

「ちょっと、ごめんね」

乙女は理亜の頬を掴み、グッと抑え込みながら、唇を重ねた。理亜は初めて同性とキスをした動揺と、美少女の方からキスをしている照れから、離れようとした。

だが、乙女は理亜の顔を離さなかった。

顔から手を離すと、右手で理亜の手をギュッと握り、左手を後頭部に添えて、ぬるっ、と自分の長い舌を入れた。

「んっ!んっんっ!!」

理亜は長い接吻に、恥ずかしさから耐えられず喘いだ。

乙女は後頭部に置いていた左手を、理亜の腰に当てがい、自分の方へ理亜の身体を寄せた。乙女の柔らかい感触が、理亜の肌に伝わった。

理亜の脳に、自分の舌と乙女の舌が絡み合う生々しい音と、その感覚が強く焼きつく。

(ごめんね、理亜ちゃん。もうすぐだから)

乙女は器用に、自分の舌に傷を付けた。そして、唾液と血を混ぜ、理亜の喉に通す。

理亜が乙女の血と唾液を飲んだ音が聞こえると、乙女は自分の口を理亜から離す。

「はぁっ…っ…」

口を離すと、蜜のような唾液が理亜の歯や舌から糸を引く。

理亜の熱い吐息が、乙女の口の中に入った。

「あっ…うぅ…なにこれぇ…」

「ごめんね、理亜ちゃん」

理亜は顔を真っ赤にして、へたりと地面に座り込んでしまった。

(私の血を入れても肉体に異常がない…やっぱり、理亜ちゃんは『器』なんだ…)

「理亜ちゃん、次から私の事忘れちゃダメだよ?」

螺旋状の瞳が、理亜をじっと見つめる。

「うっ、ごめん乙女ちゃん…」

「いいのよ。私もごめんね、少し無理をさせちゃって」

乙女はしゃがんでしまった理亜と視線を合わせ、彼女の顎を少し上げる。

理亜の舌には、乙女の血と唾液の味が、しっかり残っていた。

「いや…いいんだけど…」

理亜は乙女のキスの激しさに驚いた。

「理亜ちゃん、これからは忘れずにきてね?」

「あ、うん…。こんなことされたら行くよ…」

口をモゴモゴさせながら理亜は乙女の質問に答える。

乙女は理亜を優しく抱きしめた。

理亜は産まれたての子鹿のような震え具合で、帰路に着いた。


翌日、理亜はあの衝撃的な出来事を忘れられず、学校に着いた。

「理亜ちゃんおはよ〜、昨日の国語のワークの宿題わかる?」

「あぁ…ごめん今日やってないんだった…」

聞いてきたクラスメイトは、ふーんと反応した後、「え?」と驚いたような反応をした。

「理亜ちゃんが宿題をやってない!?!?珍しいね!?!?」

そういえば、理亜は今まで宿題を忘れた事がほとんどなかった事に気付いた。

自分でも珍しい事が起きてるのはわかるのだが、昨日のことを踏まえたら、できるわけがないだろうと心の中で納得する。

「ま、まぁそういう日もあるよね…」

聞いてきたクラスメイトはかなり動揺しながら理亜の前を去っていった。

その一部始終を、音八はぼんやり聴いていた。

「…俺の見る?」

「えっ…」

「俺、珍しくやってきたんだよ。笹上は逆にやってないんだろ?」

あの音八がやっている、という珍しいことが起こってる。理亜はその事実に目を丸くした。

「あの音八君が宿題を…」

「さっきの女と同じこと言ってるぞ、笹上」

とはいえ、見せてもらうのはどこか罪悪感があったので、理亜は断った。

「…」

音八は理亜の首筋を一瞥した。その直後、彼女の首筋に見慣れぬタトゥーのような刻印があったのを、彼は見逃さなかった。まさか、と思いながら、理亜に話しかける。

「笹上、ちょっと首のあたり見せてくれ」

理亜はよくわからない、という顔をしながら、ボブカットの髪の毛をたくし上げ、うなじあたりを見せる。

(まだ一尾…呪いは浅いか…)

見間違いではなかった。確かにそこには、狐の尻尾が刻印されている。

「すまん、ありがとう」

音八はそれを確認した後、教室を出ると、トイレとは真逆の方向に足を運んでいた。

理亜は何故あんな事を聞かれたのかわからぬまま、国語のワークを開いた。


(…ようやく来たか。この時が)

邦幡音八は、鏡の前で拳を握った。

器は揃い、相手のやる事は分かっている。顕れたのなら即座に殺す。

目の前の鏡の自分は、嗤っていた。

タイミングを考えれば当然であった。だが、偶然というにはあまりに必然で、必然というにはピースが足りない。

笹上理亜に発現した、一本の尾。

呪いが彼女に絡み始めた証左であり、彼女が器である前提のモノ。

あの尾があと■本出れば、「それ」は目の前だ。

「…女狐が…いつまでも女を喰えると思うなよ」


己のやるべき事が、今一度はっきりとした。

伏線回収………。

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