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狐の嫁入り  作者: くろのす
2/7

#2

2話です

土曜の出来事が、理亜の全身を締め付けるように残っていた。

いきなり夕暮れになり、謎の美少女と出逢い、気付いたら元いた場所に戻る、なんて魔法に等しい出来事だった。

ただ、理亜は恐怖していた。

それがどこから来る恐怖なのか、そこまでは分からなかった。だが、真っ暗な中に引きづり込まれそうな、根本的な恐怖が理亜を締め付けていた。

日曜日の朝から頭痛も激しくなり、攣った痛みがあった足の痛みも強くなっていった。

「はぁ…」

授業は何とか気合いで受けたが、正直早退したいレベルで痛みが増している。

「…笹上さん、どうかした?」

「…音八君…いやちょっと体調悪くてね…」

「へぇ…土日どっか行った?」

…どこか…何処だろう…。アレは…神社なのかな…。

「この街をちょっと回ってたかな…」

あの神社のような場所がどこか分からなかったので、理亜は当たり障りのない回答をした。

「症状は?どこが痛いとかある?」

「…頭と足…」

理亜がそう発言すると、邦幡はすん、と黙ってしばらく考えていた。

「うーん…今日ウチに来る?」

「えっ、なんで、怖い」

理亜は同級生の男子に家に誘われる事は今までなかったので、恐怖というより動揺に近いものだった。

「あぁいやえっと、ウチ神社だから、お祓いとかするか、って話なんだけど」

「あっ…ごめん…ありがとう…」

理亜は照れからの動揺を隠す為、やや焦り気味に謝った。

「じゃあ学校終わったらウチに案内するから。放課後、昇降口で待ってて」

「う、うん…ありがとう…」

理亜がそういうと、邦幡は教室の外に出た。

「…『器』だろうか…そろそろ来てもらわないと、こっちも困るんだよな」


その日の夕方、理亜は邦幡の家に招待された。

家は和風の一軒家で、その後ろの山の中に神社がある、という構造だった。

「ここがウチの神社だよ、お祓いしてもらうから待ってて」

理亜は頷き、邦幡の戻りを待った。

「…君が笹上さんか?」

「え…はい、そうです」

後ろから名前を呼ばれ、理亜は後ろを振り向いた。

そこには、30〜40代前半の、後ろで髪を纏めている着物の男性が立っていた。

「お話は聞いているよ、お祓いだろう?」

「はい…えっと…」

目を上に向け、あぁ、そうだった、と目の前の男性が呟いた。

「あ、父さんここにいたのか」

邦幡が戻ってきて、目の前の男性を父さんと呼称する。

「これは失礼したね。私はこの玖戸神社の現神主、邦幡柒八(くにはたななや)だ。じゃあ向こうの神社まで音八が案内するから、ついて行って。私も後に行く。正装とかの準備があるからね」

すると音八は、理亜の先を歩き「こっちだ」という風に誘導する。

本堂への道に入り、理亜は音八を見ながらそこを進む。

…どうして音八君は、私に優しくしてくれるのだろう。

この疑問がずっと私から離れなかった。

「…」

理亜と音八の二人はずっと黙って本堂へ行く。石畳の階段を登り、しばらく行くと、鳥居を隔てて神社の本堂が見えた。

「ここがウチの神社」

荘厳な雰囲気がその神社から出ており、その技巧の凝らされた建物に、理亜は圧倒された。

「すご…」

「まぁ神社だしな」

理亜がその神秘的な何かに圧倒されていると、横から柒八が理亜に話しかけた。

「ごめんね、待たせちゃったかな?」

理亜が柒八の方を見ると、陰陽師のような格好をした彼が立っていた。

「よ…よろしくお願いします…」

「それじゃ、ここから上がって、このまま真っ直ぐに行けば外陣に着くから、そこに座ってね」

柒八がニコッと笑い、理亜を案内する。

(…すごい素敵…この街やばいな…)

「こういうの好きなんだね、若い子にしては珍しいよ」

「昔から歴史的建造物を見るのが好きでしたから…」

柒八はそっか、とだけ相槌を打ち、外陣に理亜を入れた。

「それじゃ、ここに座ってね。正座が理想だけど、辛くなったら崩していいし、出来なければ普通に座ってていいよ」

「あっ、はい。ありがとうございます」

「このまま進めるね」

音八が板の間に立ち、お祓いの様子を見ていた。

呪文のような祝詞が本堂を包む。理亜は目を瞑り、それを邪魔しないようにじっと正座していた。

「…」

じっと座り、大体10分程度でお祓いが終わった。

「ありがとう、終わったよ」

柒八がそう言うと、理亜は立ち上がり、

「ありがとうございました」

と言った。

「また体調悪くなったら言ってね。音八、送ってあげて」

理亜はお辞儀をして音八と共に外に出る。

「今日はありがとう、少し足が軽くなった」

「それはよかったな。てか、お祓いなんて胡散臭いのよく信じられるな」

「まぁ…東京にも神社はあるしね、そこで三回くらいやって貰ってたんだよ」

音八はそれを聞いて、どこか納得したような顔をして頷いた。

「そういえば、音八君いつからあそこでずっと待ってたの?」

「板の間のこと?笹上さんがお祓いしてる間ずっと待ってたよ」

「あ…ごめんね。でもどうして?」

「いや、普通に心配で」

「そっ…そっか…」

理亜は、男子に体調や気分を気にされたことがなかったので、少し驚いた。

「音八君は…不思議な人だね」

「…笹上さんも大概でしょ、俺みたいなのに絡むなんて」

音八はどこか、理亜の言うことを否定するように理亜の言葉を返す。

「…それと、笹上でいいよ、言いにくいでしょ」

「あぁ、ありがとう。これからは『笹上』って呼ぶよ」

神社の階段を降りながら、二人はそんな会話を交わした。

階段を降り終え、理亜は音八にお辞儀をして、その神社を後にした。


音八は家に入り、柒八の帰りを待った。

「…音八、ただいま」

「おかえり、どうだった?」

「あの娘、確実に『器』だね。いつ顕れてもおかしくないよ」

音八はため息をつき、そうだよな、とだけ言った。

「今回は音八がやるんだ。出来そう?」

「…失敗しても、責めないでくれよ」

「ハハ、大丈夫だよ。こんなんでも、俺は父親だしね」

およそ親子とは思えぬ会話を、二人は交わす。


理亜が海沿いを歩いて居ると、夕暮れの海にぽつんと一人、黒いセーラー服を着て、長い黒髪を垂らした、顔立ちの整った少女が立っている。

風に髪が靡き、それを押さえるように海を見ていた。ただ、はっきりと見ている、というよりは、何処か虚ろで、寂しい色をしていた。

「あれ…乙女ちゃん?」

海岸に目を向け、あの少女の事を思い出す。

じっと見つめると、やはり彼女は、この間神社に居たあの子だった。

緩い坂道を走って下り、砂浜に入った。

海の近くまで行き、その子のもとに行こうと理亜は息を切らした。

大体あと5メートルくらいの距離になり、理亜は無意識で乙女の名前を呼んだ。

「乙女ちゃん!」

黒髪の美少女は、そのはっきりとした自分の名を呼ぶ声にビクッとし、こちらを振り返る。

理亜は足早に乙女の近くに寄り、手を握る。

「久しぶり!乙女ちゃん!」

「…理亜…ちゃん?」

理亜は思わず、自分の両手で乙女の両手を掴み、ブンブンと上下に振る。

「おわっ、嬉しい!覚えててくれたんだね!」

乙女はニコッとした笑顔を保ったまま、理亜の事を見つめた。

「もちろん、あそこに来る人は少ないもの」

理亜は、あそことはあの神社の事であると察した。

「乙女ちゃん、こんなところで何してたの?」

「海を見てただけよ、それより戻れたのね。よかったわ」

「?うん、ありがとう乙女ちゃん!」

理亜は一瞬、乙女に対して違和感を覚えたが、それを気にすることなく話を進めた。

「乙女ちゃんもセーラー服ってことは、学校帰りだよね?どこに行ってるの?」

「うーん、そうね…」

乙女は少し考えた素振りをして、こう答えた。

「あの橋を渡った中学校よ。住んでるのはこの町だけどね」

本州の学校に通ってるのか、と理亜は珍しいモノを見る目で乙女を見た。

「理亜ちゃんは帰り?」

「うん、乙女ちゃんの神社に入った時、ちょっとだけ体調が悪くなっちゃったから、お祓いしてもらってきたの」

理亜がそういうと、乙女の瞳が一瞬だけ、悍ましいものを見たかのような瞳をした。

その昏く冷たい瞳は、理亜の心に強く響いた。

「…そう、体調は治った?」

しかし乙女は、その瞳をすぐに隠し、その間も笑顔を絶やさなかった。

「うん、ばっちりだよ!頭痛も治ったし!」

握っていた右手を外し、グッドサインをする。

「理亜ちゃん、これからも会いに来てくれる?」

「もちろん!乙女ちゃんには助けられたからね!乙女ちゃんどこに住んでるの?」

「説明が少し難しいわ…この間会った神社の近くよ」

理亜の顔が明るくなり、乙女の手を握る力が少し強くなった。

「なら割とすぐ会えるかな?」

「そうね、理亜ちゃんはどこら辺に住んでるの?」

理亜は海の左側を指し、あっちの高台だよ、と示した。

「意外と近いのね、またすぐ会えるわ」

「ホント?よかった、乙女ちゃんとまた話したいなって思ってたんだ!」

乙女はありがとう、とだけ言い理亜の話を聞いていた。

「あ、そろそろ私帰らなきゃ、ごめんね乙女ちゃん!」

「いいのよ、ありがとうね、覚えててくれて嬉しいわ」

理亜は乙女が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。

「…本当、可愛い娘。また逢いに来てくれるかしら」

乙女は海を見ながら、彼女と出逢った神社の方向に歩いて行った。


***

日曜日の午前4時、まだ暗い中『鈴』の音が聞こえたので、あの神社に行ってみた。

カッパから雨の音が聞こえる。

『入り口』まで来て、やはりそうかと合点がいく。

廃神社の中に入ると、神楽堂の中にあったはずの『封』が開放されていた。

(…やっぱりか)

結界を無条件で壊し、封を破壊し、ここに来て鈴が鳴る。

「…ようやく尻尾を出したな。待ってろ、すぐに殺してやる」

器が現れた。それの意味する事は、『彼』が一番よく知っている。


記録

9月17日 日曜日 午前4時


前日14時頃、『器』が廃神社に侵入。

結界が機能不全若くは破壊されていた。

また、『鈴』の破壊及び『封』を開放した模様。

『器』の捜索を進める。

次は3話です

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