【第一話】 始まりのはじまり。
ある日、駆け出し冒険者さん達の集う集落の近くにある森の中からこの物語ははじまります。そんな森の中で一番高い大木にもたれ本を読んでいるのは一匹のしろうさぎさん。彼女は人間でもなければモンスターでもないただの動物さんで、この物語の主人公です。
手の中で風に吹かれペラペラと捲れる紙。
夢うつつ。彼女は今にも夢の世界に落ちそうになりながらうとうととしていると、近くの草むらが急に揺れてビクッと体を震わせその目を大きく見開きます。
「あっ、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんです」
草むらから出て来たのは一匹のスライムさん。急な出来事に一瞬驚いたしろうさぎさんでしたが、すぐに気を取り直すと言いました。
「あ、いえ、スライムさん、私は全然大丈夫です」
「それなら良かったです」
彼女の言葉に一時笑顔を見せたスライムさんでしたが、すぐにその表情を曇らせると一つ大きな溜息を吐きました。
「……はぁ」
そんなスライムさんの姿を見てしろうさぎさんは尋ねます。
「あ、あのぉ、スライムさん? なんかとっても顔色がすぐれないようですけど……何か悩みごとですか?」
「悩み、ごと? う、うーん。『悩みごと』っていうのがどういうものなのかボクよくわからないけど……実はね、ちょっと……って、え!? 聞いてくれますか?」
「え、あ、はい。私なんかでよろしければ」
「や、やったぁ、ありがとう!! しろうさぎさん、それでね──」
そして、スライムさんの話を親身になって聞くしろうさぎさん。
そう、彼女のこの何気ない一つの行為がきっかけで。
この世界に『悩みごと』は再び生まれる事になったのでした。