<Tale.4> 動き始めた力
いろいろと忙しく、一年もの間執筆を休止してしまい、本当に申し訳ありませんでした。引き続き、連載を再開致しますので、読んで頂けるとうれしいです。
新学期。
俺は、学園へと続く緩やかな坂道を歩いている。
その坂道から見下ろした町並みは、とても美しく、今日は一段と鮮やかに見える。
まるで、新年度に心躍らせる俺たちを祝福するように......
「......何を言ってるのですか、駿?」
そんな俺の気分をあっさりと引き戻してくるのは、『神無月すみれ』
俺の幼馴染にして、居候。幼い頃、親の仕事の関係で外国へと引っ越したすみれだったが、この春再会し、とある事情から一緒に住むことになったのだ。
容姿に関しては<Tale.3>を参考にしてくれ。
「何だよすみれ。人がせっかく感慨に浸っているというのに」
「......自分が意味のわからない言葉を並べていることに、いい加減気づいて欲しいのです」
....何か酷い言われようだな。
「失礼な。俺のこの崇高な気持ちを理解できないとは......」
「はーい、璃々花はとってもよくわかるよ~」
俺たちより少し先をスキップしていた少女が、こちらに駆けてきながら話に入ってきた。
『春日璃々花』。俺の妹だ。
超が付くほどのお兄ちゃんっ子で(俺が言うのもなんだが)、幼い頃から俺の後をいつもついてきていた。当時は家族以外とは話そうともしなかったため、唯一の友達はすみれだけだった。今では成長して、友達もたくさんいるから、俺も安心だ。すみれとは対照的に背は低く、若干胸が寂しい気がする(本人はコンプレックスを感じてるらしい)。金色の長い髪を水色の細いリボンでツインテールに結い、ウサギのようにぴょこぴょこと飛び跳ねる姿は、外見とマッチしていて、とても愛らしい。正直、すみれと比べても引けをとらないほどだ。
「お兄様もすーちゃんも遅いよ〜。早く早く〜!」
「わかったわかった。だから少し落ち着け。学校着く前に怪我するぞ」
「大丈夫だよ〜。だから早く〜!!」
璃々花は言うが早いか、俺とすみれの手をとって、ぐいぐい引っ張ってきた。
「やれやれ」「...ふふ」
俺たちはしょうがないなあ、と思いながらも璃々花に引っ張られて、坂道を登っていった。
「それじゃぁお兄様、すーちゃん、また後でね〜」
「あぁ、歓迎の挨拶、しっかりな」
「頑張ってね」
璃々花はにっこりと笑って、入学式の会場へと向かっていった。
「すごく張り切ってたですね」
すみれが璃々花の去っていった方を見ながらつぶやいた。
「あぁ、よっぽど楽しみなんだな。この学園での生活が」
「そうですね」
「それはお前も、だろ?」
すみれもこの春、転校生としてこの学園に入学したんだ。表には出さないものの、楽しみにしているのは間違いないだろう。
「もちろんですよ。駿や璃々花と一緒に学校に通うのは、これが初めてなんですから」
「......そうだな。お前が引っ越したのは、小学校あがる前だったもんな」
「そうですよ。だから、こうして駿たちと学校に通えるのはとても嬉しいのです」
........こういうストレートな感情表現は、やっぱり気恥ずかしいな。「.....とりあえず、クラス見に行こうぜ」
俺は気恥ずかしい気持ちを振り払うようにして、口早にそう言った。
「同じクラスになれるといいですね」
そうして俺たちは、玄関前に向かった。
..................
「.....まさか、違うクラスになるなんてなぁ」
(こういうシチュでは、「やった、同じクラスになったね」といった流れの方が自然なのだが、いやぁ、現実はそううまくはいかないもんだなぁ。)
「まぁ、アイツはしっかりしてるし、大丈夫だろ」
俺は仕方なく自分の席へと座った。朝のHRまで、まだ三十分ある。璃々花が急かすから、予定よりも早く着きすぎたのだ。さて、どうしたものか........
........少し、ぶらつこう。
そう決めた俺は、校内を適当に歩くことにした。
「よぉ、駿。久しぶりだな」
「ん?あぁ、武人か」
声をした方を振り返ると、背の高い男子生徒が立っていた。
『須賀武人』。俺の親友?、に属すると思われる人物だ。
武人というだけあって、喧嘩は強い。俺と違って交友関係も広く、それでいて特定の奴と仲がいいというわけでもない。体格はわりとがっちりしているが、根は優しく、いい奴だ。
「そうだ、さっきすげえ可愛い子とすれ違ったぜ!転校生かな?駿、見に行こうぜ!」
武人は息継ぎなしにまくしたてる。
(...転校生? ってことは...)
「あぁ、俺パス」
「そうか、俺が彼女を先に作っても知らねえからな」
そう言って、武人は走り去った。
始業式も滞りなく終わり、退屈な授業もないため、今はもう放課後だ。
「よっしゃ、駿!ゲーセン行かね?新作入ってたぜ」
「え...あぁ.....」
普段の俺なら二つ返事で頷くんだが、先日のすみれの言葉が気になった。
「放課後は出来るだけ調査に協力してくれないかな?」
手伝うと言った手前、やはり、すみれと一緒にいよう。
そう武人に言おうとしたとき、
「駿、いますですか?」
控えめに教室を覗くすみれの姿があった。
「すみれ?何でそんなとこに突っ立ってるんだ?入ってこいよ」
「そうそう、逆に目立ってるぜ」
俺の言葉に、重ねて武人も声をかける。
「あれ?あなたは今朝の...」
「ああ、須賀武人。駿の親友さ。よろしく」
(親友.....か?)
「駿の友達だったのですね。私は神無月すみれといいます」
「すみれ、こいつ今朝何かやらかさなかったか?」
俺は今朝のこいつの言葉を思い出して、すみれに聞いてみる。
「ううん、特には。....ただ私に話し掛ける前に、クラスの女子に追い返されてましたが」
「そりゃそうだろ」
「ちょ、おまえそれは酷くないか!?」
「事実、同学年の大半の女子に嫌われてるじゃねぇか」
「ぐっ」
そう、こいつは一年のときのある事件以降、めっきり嫌われてしまったのだ。詳しくはあえて言わないが....本人の為にも。
「それより、すみれ。俺に用があったんじゃないか?」
「あ、そうそう。駿、今日は放課後大丈夫ですか?」
ビンゴ。
「ああ、大丈夫。手伝うよ。お前一人じゃ危なっかしいし」
「そ、そんなことないですよ!そんなこと言うなら来なくていいです!」
「はは、冗談だって。それで、どこ行くん...」
「ちょっと待て!」
ん?何か声がしたような....気のせいか。
「さ、行くぞすみれ」
「え、えっと.....」
いいのかな?といった表情で後ろを見ているすみれを引っ張って、俺は昇降口へと向かった。
「よかったのですか?」
校門を抜けて、すみれがそう聞いてきた。
「ああ、平気だって。あいつとのああいうやり取りは日常茶飯事だからな」
「それに、お前との約束が先だったしね」
「えへ、ありがとです、駿」
ほんの少し顔を赤らめらがらお礼を言うすみれが、一瞬とても可愛く見えて、俺は不覚にもドキドキしてしまった。
「それで、これからどうするんだ?」
俺が尋ねると、
「もう一度、神社へ行ってみるのです。何かわかるかもしれませんし」
「了解。んじゃ、行きますか」
途中の自販機でジュースを買ったりと、わりとゆっくりしたペースで目的地へと向かう。
なぜか腕は組まれたまま......。
「さて、着いたな」
「(もう少し腕、組んでいたかったなぁ...)」
「ん、何?」
「ううん、何でもないのです」
「??」
さっき呟きが気になるなぁ。まあ素直に答えてはくれないだろうけど、ね。
「この神社の裏に大きなクリスタルがあるのです」
「クリスタル?しかも巨大!?」
「それが、普通の反応だと思います。とにかく原因不明の物体が突如として、この星波町の神社裏に落ちたようなのです。観測した当初は、大して魔力も大きくないので問題ないかと思っていたのですが、事情が変わっちゃったのです」
まあ、副官であるすみれを気絶させるほどの力を持っていたのだからな.....
「ほら、あれです」
すみれは神社裏のある一角を指差した。
そこには、すみれの話どおりの巨大なクリスタルがあった。
「こ、これは...」
俺はあまりの光景に、うまく言葉が出てこなかった。
「.....おかしいです」
そうつぶやいたのは、すみれだった。
「先日、あれほどの強い力を出していたというのに、小さな魔力すら感じられないのは変なのです」
確かに、魔法に関してあまり詳しくない俺でも、不自然だということはわかった。
すみれは下をむいて真剣に考え込んでいる。
邪魔をしちゃ悪いと思った俺は、周辺の様子でも見てこようと思い、踵を返そうとしたその瞬間――――
「バウバウバウッッ!!!」
茂みから狂犬?らしきものが、すみれ目掛けて一直線に襲い掛かってきた。
「すみれー!!」