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<Tale.10> 菜々という女の子

「・・・うっ」

突然の眩しい日差しに、俺は目を覚ました。

「ここは・・・俺の、部屋?」

まだ眠い眼を擦って周囲を見渡す。そこは、確かに見慣れた俺の部屋だった。

別におかしいことなんて何もない。

でも、何かが引っ掛かる。

「うーん・・・何かスッキリしないな」

頭を軽く左右に振ったり、昨日や一昨日のことを思い出したりしてみるが、やっぱりよくわからない。

「・・・ようやく目が覚めたんだねー」

女の子・・・それもかなり幼い女の子が、俺の横に立っていた。

誓って言うが、俺は幼女誘拐なんてしてないからな!

だけどホント、どこの子だ?

グレーの下二つ結びの長い髪、俺の胸くらいの身長、そして紺の制服・・・ご丁寧に名札までしてる。

「あの~、起きてそうそう私の体を舐めるように視るのは止めてほしいんだけど・・・」

「あ、ご、ごめん」

誤りつつ俺は、布団から出てあぐらをかいて座った。それでちょうど彼女と同じ目線だ。

「それで、なんでここにいるの、菜々ちゃん」

「な、な・・・?」

名札のとおりに名前を呼んだだけなんだけど、何故か彼女は首をかしげる。

「え、君の名前だよね・・・一ノ瀬菜々(いちのせなな)ちゃん」

俺は彼女の名札を指さしながら尋ねる。

すると彼女は、俺が名札を指してることに気づいたようだ。

そして、次に彼女はとんでもないことを口にした。

「いちのせ、なな・・・うん、気に入った。今日から私は、一ノ瀬菜々!」

「ええっ!?」

「・・・どうしたの?」

いやいやいや、どうしたのって、それはこっちのセリフだし!

「ということは、菜々って本当の名前じゃないの?」

「え、菜々は菜々。一ノ瀬菜々だよ?」

「いや、だってさっき、気に入ったって・・・」

「・・・あ、なるほど」

菜々ちゃん(自称)は、何かに合点がいったように手を叩いた。

「ここは、あなたの夢の中だもん。その登場人物の一人でしかない私に、名前なんてないんだよ。だから、あなたが最初に呼んでくれた菜々が、私の名前」

オッケー?といった表情で俺を見る少女菜々。

「えーっと・・・」

状況を整理してみよう。

「ここは夢で、現実の俺はまだ寝ている」

「うん」

「んで、君は俺が夢で創造した架空の存在で、現実にはいない。故に名前もないから、俺が呼んだ菜々で決定した、と」

「うんうん」

「・・・俺はロリコンなのか?」

ズザザザァ!

「・・・何故部屋の隅へ逃げる?」

「・・・貞操の危機?」

夢の中の存在のはずなのに、主である俺と会話できるなんて・・・どんだけ高性能なんだよ、俺の夢。

つーか、俺はロリコンじゃない!!

「冗談です」

本当に冗談だったのか、菜々が再び俺の前に戻ってくる。

「それで、どうするの主様?」

「そうだなあ・・・って、夢なんだから、覚めるのを待てばいいんじゃないか?」

「ツッコミなし・・・さすがだね」

何がさすがなのかサッパリわからん。

「でも、いつ覚めるかなんてわかんないんだし、退屈でしょ?」

「まあ、確かに・・・」

「だったら、遊んでよ」




「・・・どうして俺は、公園なんぞにいるんだろうか・・・」

「主様~、こっちこっち~」

滑り台の上でブンブン手を振ってくる菜々。

幸いなことに、ここは俺の夢の中。周りには人っ子一人いない。菜々が言うには・・・

「たいていのことなら、主様の思うとおりになるはずだよ」

ということらしいので、試しに舞台切替をイメージしてみたら、ホントに公園になっていた。

ご丁寧に靴まで履いている。

しかし、こうして見ると、菜々はごく普通の小学生に見える。

ってまあ実際、その通りなんだが・・・

夢の中で俺が意識を持て、菜々もまた俺と会話できる。

これってもしかして、俺は今すごい出来事を体験してるんじゃないだろうか!

「主様~、ブランコ押して~」

「・・・はいはい」

まあ、どうでもいいか。




「もう夕方だね~」

「・・・疲れた」

結局丸一日、あっちこっち連れまわされるハメになった。

といっても、イメージすれば場所がかわるわけだし、徒労ってわけじゃないんだがな。

どうしてこうガキってのは元気なんだろう・・・

「っ!」

それは、唐突に訪れた。

「何だ・・・急に意識が・・・」

俺は立っていられなくなり、地面にひざをつく。

同時に強烈な眠気が襲ってきた。

「もう、行っちゃうんだね」

隣では、菜々がもの寂しそうな顔をしていた。

「そう、か。俺、目覚めるのか」

ようやく俺は、自分が目覚めるんだと自覚した。

「もっと、遊びたかったな」

菜々は俺の傍に座り込むと、急に抱きついてきる。

その肩は少し震えていた。

「・・・大丈夫。俺が眠ったら、また一緒に遊んでやるよ」

「・・・ホントに?」

「ああ、約束だ」

俺は小指を差し出す。

「・・・約束、ね」

菜々が小指を絡める。

「最後にひとつ、お願いしてもいいかな」




『助けて』





「・・・行っちゃった」

彼がこの世界から彼の世界へと帰っていった。

直にこの世界も消失するだろう。

「約束、か。・・・無理、だよね」

私は自分を嘲笑う。

何であんなこと言ったんだろう。そんなこと、できるわけないのに・・・

「だけど、もしかしたら・・・」

あの人なら、()を助けてくれるかもしれない。

そんなかすかな希望が、私の胸に生まれていた。






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