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傷病兵1

右手の小指がとても痒い。

その痒みのせいで魘される。


少し頭を振り、ぼんやりとした意識の中目を開けた。

痒みに耐えかねて、自分でかこうと思ったが

どうやら左手が何かに縛られているようだ。


「右手の小指・・だれか・・かいて・・くれ・・とても・・かゆい」


誰か居ないかと視線を彷徨わせる。

どうにか目端に人影を認めることが出来たのでお願いしてみようと思い、


「あの・・・」


と声を掛けた。

そうしたら、少し驚いた顔をした後。

「先生!患者さんの意識が戻りました!」

と叫びながら、どこかへと行ってしまった。


まあ、叫ぶという程大きくはなかったかもしれないが・・。

ふう、とため息を一つついて、

また、ぼんやりとこの痒いのどうにかならないかなと


すでに、痒くもないのを気づかずに考えていた。


「どうだい?気分は」


暫く経ったあと、

白衣を着た人が部屋に入ってきた。


「縛られて動けない事以外は、特に問題ないですよ。」

「君が左手で傷口をスプラッターにするのでね。

 仕方なく拘束したんだ。

 でもま、元気そうでなりよりだ。

 気付いているかもしれんが、此処は病院だよ。

 で、僕が君の担当医ね。」

そう言いながら、白衣の人は左手の拘束を外していく。



「さて、右はどうかな?

 うん。傷は塞がっているね。大丈夫そうだ」

そして、流れるように俺の右腕を取り、観察していく。

その腕の先には、指も手も存在していなかった。



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この世界に、魔法が存在していたとしても

失ったモノを復活させる魔法は存在しない。


命・武具・調度品・食料・そして、身体と心。


傷は癒えても、失った血や四肢は回復しない。

それを動けるようになるまで、サポートするのがこの病院だった。


戦局が気にはなったが、先生からは失った血の量と手の怪我で

当面はおとなしく寝ているよう釘を刺されてしまった。


まあ、俺が病院に搬送されたくらいだ。

恐らくユリウス達は無事勝利を収めたのだろう。

ともなれば、彼女も無事なはずだ。

オルフェが弑されていれば残存勢力の討伐。

そうでなければ、後方支援かな。


とはいえ、前線には戻れない身の上になってしまった以上、

これからの事を考える時間が与えられたのは

ある意味では有難いことだった。


--------------------------------------------------------------


「お兄ちゃん。まってえぇ」

「リリィ。遅いぞー。ガイ!先に行こう。闘技会が始まっちゃう。」

「おい。ユリウス。待てよ。お守り任されてるんだろ?

 ったく。しゃない。ほらリリィ。捕まれ」

「え?ガイにぃちゃ。う・・・うんぎゅーする。」

「よし!走るぞ。ユーリ。待ちやがれぇ!」

「きゃああぁぁぁ」

「にゃあぁぁ!おいつかれえるぅ」

「変な声挙げるな!」

「うははは。わりぃわりぃ。」

「本当に貴族様かよ。」

「王族だ。貴族より偉いんだぞ」

「だったら鳴くな。きしょい」

「うっせー。うははは」

「くー」

「ガイにいちゃ。がばって!」

「っ。あいよ」



遠い・・記憶だ。

もう、二人の姿も思い出せない。

あの頃は、楽しかった。

ユーリ・・・ユリウスは、騎士に、騎士王になるって。

そしたら、俺も騎士にしてやるって・・・。

でも、もう右手はない・・・・。

あの娘を撫でた、右手は・・・もう。


-------------------------------------------------



変な夢を見たな。

ユリウスが『勇者』となった、最大の絶望。

あの娘の・・・。


小さい子たちは、あの事件では何も残らなかった。

きっと、あの娘も。

右手を見る。

手のひらのない、その手を見て・・・・はたとパタを思い出した。

嵌めて縛れば・・・


「ガイ様!」


そんなことを考えていたら、知らないメイドが扉を叩き開けて入ってきた。


「気を確かにお聞きください。

 四天王の いえいえ・・・魔族の一部が休戦協定を申し出ました。

 勇者様が代表団に選ばれ全権大使として、ガイ様が選出・・・・。

 えっと、お体は大丈夫ですか?・・・」


うん。順番がマチマチなのは理解した。

さて・・・状況の整理が必要なんだな。


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