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Case3-6




「――で、どうしてあたしは、また着物を着せられているのでしょうか……」


 ここは滝壺の奥にある龍神様の宮殿。

 どうやら昔の村人たちが建立したものらしく、朱塗りの柱や屋根が美しい寝殿造りだ。部屋ごとの仕切りには御簾がかかっており、その内の一室で理沙はがくりと肩を落とす。

 それを見たレイヴンがやや苛立ったように答えた。


「私だって本来はこんな作戦、許可したくありません。ですが他に方法がない以上、確実なものにするしかないでしょう」

「こんな作戦って……良いと思うんですけどね、『囮作戦』」


 ――犯人を捜し出そうという意見は一致したものの、その手段に非常に苦慮した。

 おそらく理沙の言う男が怪しいが、どう言った条件で現れるのか分からない。一番確実なのは四人目の花嫁が選ばれた時だろうとレイヴンが提案したが、さすがにそれを待つ時間はない、と三人はううむと唸る。

 そこで理沙が「自分が囮になればいいのでは?」と提案した。


 最初はレイヴン龍神両方からNOが出た。

 だが狙われているのは若い女性ばかりだということや、その神とやらが村の近くに出てきていたことを考えれば、山で遭難した女性をかどわかす可能性は高い、と理沙は主張を続ける。

 それでも、とレイヴンは抵抗していたが、もしかしたらまだ村の女たちが生きているかもしれない。そうであれば早く助けたいという理沙の強い言葉を契機に、最後は渋々折れてくれた。


「大丈夫です。見事に掴まって、犯人の居場所をしっかり教えますから!」

「……」


 するとレイヴンは無言のまま、ぎゅっと腰紐をきつく締めた。着付けの大変さは昨日の花嫁衣装で体感していたが、その時よりもさらに力が強い気がする。


(……そもそも、レイヴンに着付けられているだけでも恥ずかしいのに……)


 襦袢を中に着ているので、レイヴンに直接素肌を見せることはない。だが着付けというものは、前に後ろにと何度も腕を回すため、体が密接することも多かった。意識すると逃げ出したくなるので、理沙は「作戦のため」と何度も言い聞かせ、必死に意識を他に押しやる。

 やがて着付けが終わると、御簾をくぐるようにして龍神様が姿を見せた。


「わあ……とても見事な……美しいお姿ですね」

「あ、ありがとうございます!」


 神様からの賛辞を前に、理沙は思わずえへへと照れ笑いを浮かべた。鏡がないので全身は見えないが、深い赤色の絹織物に前身頃には桔梗の刺繍。頭に幅の広い笠をかぶり、顔は麻布で隠されている。

 お忍びで山に迷い込んだ、お姫様スタイルの完成だ。

 しかしやる気満々の理沙に対し、レイヴンは先ほどから沈み込んでいる。


「……本当に、やるのですか」

「もちろんです! さらわれた女性たちの安否も気になりますし、早く助けてあげたいので!」

「……あなたという人は、まったく」


 するとレイヴンははあ、とため息を零すと、そっと理沙の前に歩み寄った。理沙の顔を覆い隠していた薄布を指でどけると、まっすぐに見つめてくる。


「危険だと判断した場合はすぐに撤退すること。無理をしないこと。……あなたは時々、とんでもないことをしでかす癖がある」

「は、はい!」

「それからこれを」


 そう言って手渡されたのは、銀で出来たかんざしだった。鋭い切っ先の反対側には青い宝石が飾られており、しゃりと細かな音を立てる鎖と蝶の飾りがついている。


「万一、逃げることが叶わなくなった時は、どこかにある『神体』を探して破壊しなさい」

「神体、ですか?」

「鏡や樹木、櫛、剣……どのような形をとっているかは分かりませんが、神格にはそれを媒体とする『神体』が必ずあります。それを失えば、その神格の力は一気に弱まるはずです」


 何か分からないものを探して、壊す。とんでもなく難しいことを指示されているような気がして、理沙は貰ったかんざしを髪に刺すと緊張に顔を強張らせた。


 するとその眉間にふに、と柔らかい何かが触れる。

 はてと理沙が視線を上げると、額にレイヴンが口づけているところだった。


(な⁉ な⁉ なんで⁉)


 理沙が驚きに目を見開いていると、ようやくレイヴンが顔を離した。理沙は続く言葉を失い、頭から湯気でも立てそうな勢いで顔を伏せる。

 だがレイヴンはさらりと言い放った。


「――これで、どこにいてもあなたの位置を探知出来ます。いいですか、くれぐれも深入りはしないように」

「……あ、そ、そういうことですね!」


 は? と首を傾げるレイヴンを前に、理沙は真っ赤になったまま必死にごまかした。心臓はまだ早鐘を打っており、理沙は深呼吸しながら気持ちを落ち着ける。


(び、びっくりしたあ……よく考えたら、滝に落ちた時もわたしを助けるためだし、レイヴンが何の意味もなく、キ……キスなんてするわけないよね……)


 理沙はようやく拳を握りしめると「行って来ます!」と鼻息荒く廊下へと向かった。







 その背中を見送っていたレイヴンに、龍神が「あの」と声をかける。


「どうしてあのようなことを?」

「どうして、とは」

「いえ、その……あなたは、()()()()()()()()()()()()()()()()、彼女に探知の力を使っているのに、どうして今更告げたのかと思いまして……」

「……」


 するとレイヴンはしばらく押し黙り、やがて静かに口を開いた。


「さすがに神格の方々には、ばれてしまいますね」

「す、すみません、余計なことを……」

「いえ、いいんです。……きっとこれすらも『神の与えた試練』なのでしょう」


 その言葉に、龍神は困惑したように首を傾げる。

 レイヴンはただ静かに、理沙の姿を目で追うばかりだった。




 

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