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ドラゴンのだまし討ち

作者: 富山晴京

「なあおい、この洞窟の奥に金銀財宝があるというのは本当なんだろうな?」

 俺の後からついてくる五人の男たちのうちの一人が尋ねた。

「本当さ!ここに入らずの洞窟なんていう名前がついていたのは、盗人を遠ざけておくための方便だったんだよ。おれが実際に洞窟の中に入ってこの目で宝を見たんだから間違いないね!」

 俺は言った。

「ふん、まあお金さえあれば俺は何でもいいんだがな」

「ついたぜ」

 俺は言った。そして前を指さした。

 指さしたその先にはあふれかえるばかりに置かれた黄金が地面に広がっていた。

「すげえ、すげえぜ本当にあったんだ!」

「おい、お前はそこで待ってろ!」

「黄金は俺たちが確かめる。お前は絶対に手を触れるなよ!」

 そう言って五人の男たちは駆け寄っていった。

「盗人どもめ」

 遠雷のような低く重く響く声が聞こえた。その直後、黄金の背後にあった壁と思われていたものが動き出した。

 動き出したそれはドラゴンだった。その目は黄金色をしており、へびのように抜け目がなかった。その体躯は巨岩のように大きかった。そのうろこは銅のように赤い色をしていた。

 俺はそれが動き出さないうちから、入ってきたところとは違うところへとこっそり逃げ込んでいた。そこはドラゴンも入り込めないような小さな通路だった。ちなみに俺たちの入ってきた通路は広々としていて、ドラゴンも余裕で通れた。

「ちくしょう、騙しやがったな!」

「あそこにあいつがいるぞ。あそこへ逃げ込め!」

 借金取りたちがこちらへと向かってきた。俺は腰からナイフを取り出した。そしてそのナイフを男たちの一人に投げつけた。

 ナイフは男の一人の腹に刺さった。それを見たほかの四人は足を止めた。

「何のために俺がここにいると思っている?お前たちを逃がさないためだよ。お前たちはドラゴンの炎に焼かれて死ね」

 男たちの悲鳴が洞窟に響いた。やがて悲鳴も静まったころ、俺はそっと洞窟から忍び出た。


 ドラゴンが動き出すのを見て、俺は岩の陰に隠れこんだ。その直後、岩の隣を高熱の炎が通り過ぎていった。

「どこにいる、ネズミめ」

 ドラゴンが腹に響くような声で言った。その声を聞くだけで膝から力が抜けそうになった。

 果たして俺はここから生きて帰れるのだろうか。ここは洞窟の中だから、隠れる場所には事欠かない。しかし出口から抜け出すのはおろか、出口を目にすることさえかなり難しい。

「ネズミの分際でこの俺の宝に手を出そうなどとは、小癪にもほどがあるわ!」

 ドラゴンはどうも勘違いしているようであるが、俺は別に宝には興味がない。俺がここに来たのは、逃げるためだ。

 俺はスコットという男から金を借りていた。初めは返すつもりでいたのだが、どうにも金を作れるめどが立たなかった。そうこうしているうちに、取り立ては厳しくなるしお金もないから暮らしていかれないという状況に陥った。そこで夜逃げをしたわけだ。ひとまず隠れる場所が必要だろうなどと思って、地元で有名な“入らずの洞窟”に隠れ住もうとした。そうしたら、こんなドラゴンと遭遇してしまったというわけだ。

「俺は宝に興味はない!何も取らずに立ち去るから、見逃してくれないか?」

「そんな嘘がこの俺に通用すると思うなよ!お前らちんけなネズミのちっちゃな頭で考えた策略なんぞ、俺にはお見通しなのだ。どうせこの後、仲間を呼んできて俺を再び襲うつもりなんだろう。ネズミが百匹や二百匹いたところでなんら不都合のある俺ではないが、しかしそんなことを許す俺でもない。だからここで死ね!」

 なんてついていないんだろう。借金取りから逃れたかと思えば、今度はドラゴンから命を狙われる始末だ。

 しかもこれは絶体絶命の危機だ。ドラゴンの目が黒いうちは、とてもじゃないが逃げ出せたものではない。

 もっともそれも、ドラゴンの意識が正常な時の話だ。たとえば怒り狂って大暴れしているときなんかに、小さなネズミをきっちりとらえることなんかできるだろうか?

 俺は小石を二つ拾った。そして一つをドラゴンの顎の下、逆鱗に向かって投げつけた。

 ドラゴンの逆鱗に石が当たった。するとドラゴンの動きがにわかに静まった。その直後、これまでとは比べ物にならない、落雷のような雄たけびを上げた。

 雄たけびが終わったその直後、俺はもう一つの石を投げた。石は向こう側の壁に当たって音を立てた。

 ドラゴンはその音のした方向へ向かっていった。その隙に俺は反対の小さな通路から逃げ出した。

 

 洞窟から出てきた俺はもう二度と中へ戻るつもりはなかった。別にドラゴンがいるからというわけではない。そもそも財宝なんかほしくなかったのだ。

 気に食わないやつが死んじまった今、俺は今までになくさわやかな気分になっていた。こんだけいい気分になれるのなら、お金なんかびた一文だっていりはしない。少なくとも今のところは。

 俺は満月で少しばかり明るくなった夜道を一人、歩いて行った。


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