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具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


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追跡


 帽子の男の移動速度はかなり速い。が、身体強化を使った俺とイーナほどではなかった。流石にイーナと一緒に追いかける、俺の存在もバレたかな?


「なんだ?」「きゃあっ」「うわっ」


 帽子の男は、通りを往く人を度々、突き飛ばし駆けていく。転んだ人を避けるため、俺は飛び越えたり、壁走りをしたりする。彼等を避けるのに手間取って、追いつくまで時間が掛かりそうだ。

 イーナも自分に向かってくる通行人は押し退けていた。


「ごめん、おじさん!」


 俺が少し太った中年男の肩に手を掛けて、飛び越えると、帽子の男は角を曲がる。俺達も角を曲がると、帽子の男は成人したて位の女性にぶつかり、彼女を避けるようにして走り去っていく。

 その拍子に、男の帽子が()()()()落ちた。


 俺とイーナは顔を見合わせ、女性の傍を通り過ぎた後、俺はイーナに指示を出す。


「イーナ、アイツを追って! 殺人犯だから生死は問わない!」

「了解しました!」


 男を追いかけていったイーナを見送り、俺は女性に振り返る。長い茶髪にダボっとした緑のシャツ、白のロングスカートの彼女は、男の帽子を拾い上げ、この場を去ろうとしていた。


「おねーさん、その帽子をどうするんだい?」

「え? なんのことでしょう?」

「トボけなくていいよ。あの殺人犯の仲間なんだろ?」

「さ、殺人犯!? い、今のが!?」

「下手な演技だなぁ。おねーさんはきっと、役者にはなれないね」

「……チッ、どこで、気付いたんだい?」

「気付くも何も、店から一番に飛び出してきたのは、アンタじゃないか」

「そうか、見られていたとはね……」


 彼女の足元から黒い霧が発生する。と、ほぼ同時にナイフを投げてきた。俺は身体強化で、ナイフの側面を叩いて落とす。


「アンタのそれは……」


 ロングスカートに隠れてよく見えないが、女の脚だけが、細長い何かの動物のように変化していた。


「マースカードの脚さ。どうだい美しいだろう? そして、美しさだけではなく、こんな風に実用的なのさ!」

「なっ!?」


 女はその場から、一息に建物の屋上まで飛び上がった。なんて跳躍力だ……変身しても、あれほどの跳躍力は得られないかもしれない。

 俺は建物に駆けながら、パルクールで女の後を追う。


 屋上に登った俺は、辺りを見回してみた。すると、脚だけ魔獣化した女はかなり先の建物から飛び降り、姿が見えなくなる。

 俺は屋根を駆け、スマホに改めて登録した魔力反応を見ながら、女の追跡を始めた。


 凄い速さだな。あっという間に、基本の魔力検知範囲を出てしまった。俺はスマホに魔力を送り込み、検知範囲を広げる。


 屋根の上で走り難いのもあるが、これ、平坦な道で、身体強化で全力の移動速度でも追いつけないな……変身するか? それとも、下に降りてバイクを具現化した方がいいだろうか?


 悩んでいる間にも、距離を離されてしまう。迷っている暇はない。バイクだとこの時間帯は人通りが邪魔か……

 俺は駆けながらスマホのアイコンをタップし、変身する。そして、急いで女の飛び下りた辺りまで屋根を飛び移っていく。


 仮面に女の位置を表示し建物の屋根を駆けていると、差は少し縮まるが距離はまだまだある。恐らく女は魔獣化を解除し、こっちは走り難い屋根の上だからだろう。


 やがて、女の魔人が止まった。屋根から見えたその辺りは、派手な明かりの点いている繁華街のようだった。

 俺は変身を解いて屋根から跳び下り、女の魔人が向かった場所へ急ぐ。


「コラ、坊主! こんな所に子供が来るんじゃない!」


 その区域を進んで行こうとすると、バンダナをした髭面の男が俺の行く手を遮った。無視して女の魔人の所へ向かってもいいが……俺は立ち止まり、男に尋ねる。


「どうして?」

「ここは、大人だけが立ち入る区域だ。もう遅いから子供は家に帰んな」

「おかしいね? そんな法は無い筈だけど? 領民は税さえ納めていればどこに住んでも構わないって、決まりがあるのをおじさんは知らないの?」

「生意気なガキだな。その税だって、お前の親父やお袋が支払っているんだろう? だったら、大人の言うことは聞くモンだ」

「はぁ? 意味が分からないんだけど? 俺の父さんと母さんが税を払ってたら、どうして、おじさんの言うことを聞かなきゃなんないのさ?」

「ったく、いいか、世間には暗黙の了解ってモンがあってだな……子供は大人の言うことを聞くモンだ」

「止しな、ケヴィン」


 男の訳の分からない屁理屈を聞かされていると、その背後から声を掛る人物が現れる。その女は派手な紫の衣装で、肩にキラキラ光るファーをかけていた。

 そして、真っ赤な口紅と頬紅をさし、更にアイシャドウって言ったっけ? 瞼に青黒いものを塗っている。


 化粧をしているから余計に分からないが、四十代くらいだろうか? この世界で初めて見た、化粧をした女性に違和感を覚える。


「姐さん! しかし、ここに子供は……」

「その方は、グローサー家のレオンハルト様だ。アンタ如きが、気軽に口を利ける相手じゃないんだよ」

「ぐ、グローサー家!? ってことは、この坊主は、貴族様? オレァ、てっきり、どっかのボンボンが迷い込んだのかと……」

「命拾いしたね? アタシがいなけりゃ、アンタの命は無くなっていたよ?」

「ヒッ……」


 化粧女の脅しに、男は息を飲む。


「そんなことしやしないよ。オバサンは、どうして俺を知ってるの? 会ったことないよね?」

「オバ……ったく、別に厚化粧って訳でもないんだが……これでも、アタシはここの顔役なんですよ。グローサー家の情報は手に入れてるし、貴方様も、街中で見かけたことはあります」


 そう呟くと、彼女は姿勢を正し、改めて俺にお辞儀して話し出す。


「アタシは、この()()で商売する()たちの面倒を見ている、パウラと申します。坊ちゃん、何用でこんな所へ来たのか知りませんが、花街(ここ)は大人の社交場。謂わば、客に一夜の夢を与える場所なのですよ。子供の貴方には、まだ早いと思うんですがね? アタシたちも、領主様からお叱りを受けたくないので、できれば、ここは退いて頂きたいのですが?」


 花街? 確か、この前、祖父がヴィムを揶揄っていた時の――。繁華街の隠語だろうか?


「別に、店に用がある訳じゃない。とある女がここへ逃げ込んだから、追ってるだけさ。ここで引き返してもいいけど、アンタらが俺の邪魔をして、あの女を庇いだてするってんなら、領主へ報告しなけりゃなんない。そうなれば、警備隊による一斉捜査が始まって、商売どころじゃ無くなると思うけど?」

「……それは。……分かりました、ここは、アタシがついて行きましょう」

「え? オバサン、身体強化とかできんの?」

「そんな荒っぽいマネ、そこにいるケヴィンを始め、男衆に任せてあります。アタシは坊ちゃんの後について、ケヴィンの様なバカなマネをしそうな連中を牽制するつもりですよ」

「そう? なら、オジサンもついて来て。危険が迫ったら、そのオバサンを守ってあげて」

「あ、姐さん……?」


 男は戸惑ったように、化粧女を見る。


「この方の言う通りにおし。アンタはアタシを守りつつ、男衆に手を出さないよう指示するんだ。さ、行きましょうか」


 う~む、先を急ぎたいんだけどな……

 スマホで確認すると、女は殆ど移動していない。俺は化粧女達を連れて目的地へ向かう。


 この辺りは来た事が無かったのでよく知らなかったのだが、周囲の様子を見て何と無く察した。


 化粧をして少し露出の多い衣装で着飾った若い女性と、割と年のいった普通の男が腕を組んで歩いている。そして、二人で店の中に入っていくのだ。

 或いは、そんな感じの二人が、店から出てきて何処かへ立ち去る。


 恐らく、この辺りは日本で言うところの、水商売とか風俗関係のお店が集まっているのだろう。もしかすると、この世界で化粧をするのは、夜の商売の女性だけなのかもしれない。

 彼女達と同業に間違われないよう、一般女性は化粧をしないのだろう。


 祖父やグレータ達が花街の意味をうやむやにしてしまったのは、人前でする話ではなかったからか……


「なんだ、子供もいるじゃん?」


 俺の目の前を、数人の子供達が横切り、ワイワイ話しながら駆けていく。


「あれは、まだ、洗礼前の子たちです。これから施設に向かうのでしょう」

「施設?」

「ええ、あの子たちの面倒を見るべき親は、これから仕事ですので。まぁ、こっそり抜け出して、夜中に遊びに出る子もいますがね。そのため、ケヴィンのような男衆が、ここいらを見回っているのですよ」

「ふぅん……」


 多分、それだけではないだろう。化粧女の後をついてくる男からは、何か暴力的な匂いを感じ取ったからだ。客ともめる店や店員を守る為に、時には荒っぽい事もするのだろう。


 彼等が魔獣女と組んでいるのなら……との考えもよぎったのだが、何と無く、そうではないような気がする。


 俺の姿を見て訝しげな表情を浮かべる者は何人もいた。しかし、化粧女と子分の男のおかげか、特に何か言ってくる事も無かった。


 そして、一軒の建物の前に辿り着く。そこは、たくさんの店が建ち並ぶ、狭い通りからだいぶ奥に入った位置にあった。

 古めかしい石造りの建物は三階建てで、真ん中に階段があり、階層ごとに左右にそれぞれ、幾つかの部屋に分かれている。


 俺はスマホで、魔獣女の位置を特定した。女は三階の左から二番目の部屋にいるようだ。俺はその部屋を指差し、化粧女に尋ねる。


「オバサン、あそこの部屋にいるのはどんな人なのか知ってる?」

「いえ、流石にそこまでは……」

「あ~、あそこはサスキア婆さんの部屋ですぜ? ここ数日、表に顔を見せないんで、今度、皆で様子を見に行こうか、なんて話していたんですが……」

「ああ、あの婆さんかい。あの人には若い頃、アタシも世話になったんだ。何か精のつくモンでも持ってアタシも見舞いに……」

「そのお婆さんの家族は? もしかして、独り暮らし?」

「ああ、少し変わった婆さんでな。娘夫婦が一緒に暮らそうって提案しているんだが、一人の方が気楽だ、なんて言って、周りの心配をよそに気ままに暮らしてるんだよ」


 独り暮らしの老人の部屋に、女魔人……恐らく、その老人はもう……


「オジサン、今から俺がそのお婆さんの部屋に向かうから、今すぐオバサンを連れて、この場を去って。その後、仲間の人を使ってもいいから、警備隊にここへ来るよう報告を。俺の名を使っていいからさ」

「それは一体どういう……?」

「この辺り一帯でこれから戦闘が起こる。できれば、人を寄せ付けないで欲しいんだよ」

「なら、オレが手を貸して……」

「悪いけど、オジサンじゃあ、足手まといで邪魔でしかないよ。それとも、武装した警備隊十人を相手にしても、余裕で勝てるっていうのなら、俺も手を貸してほしいけどさ」

「さ、流石にそれは……」

「なら、言う通りにして。これは貴族としての命令だよ。歯向かうってんのなら……」

「――分かりました。行くよ、ケヴィン。この方は本当に、ここへ遊びに来た訳じゃないようだ。アンタは男衆を集めて、住人の避難を始めな。子供とは言え、貴族の方がこう仰ってるんだ。アタシたちは粛々と、その命に従うしかないだろうさ」

「あ、姐さん……」


 姉ならもっと上手く説得できただろうが、俺では貴族の権力を示さなければならなかった。二人は足早にこの場を去る。

 正直なところ、変身を使わないで、あの二人を助けられる自信はない……


 俺はそっと階段に足を掛け、三階まで上がっていく。狭い通路には、壺や何かを育てている植木鉢などがあった。

 その部屋のドアノブを捻ってみるが、鍵が掛かっているのか、開かなかった。


「ハッ!」


 俺は半歩下がって、通魔撃の掌底を、そのドアノブに打ち付けた。ドアノブはひしゃげ、ギィっとドアが少し開く。


 出来た隙間から顔を覗かせると、そこへ何かが飛んできた。俺はドアの影に身を隠す。

 ガァンと扉に何かが当たった音を聞き、鉈の様な短剣を具現化して、一気に扉を開け部屋の中へ入り込んだ。


 再び飛んできた、黒い物を短剣で弾き飛ばす。


「ムッ?」


 すると、ジャランと部屋の奥にいた人物の元へ引き戻された。あの武器は……鎖打棒(くさりうちぼう)と呼ばれる物か。


 その部屋は独り暮らし用の部屋らしく、短い廊下の先にそれ程広くない、物がごちゃごちゃと置いてある部屋があった。

 緑のシャツを着た女は、狭い部屋の半分を埋めているようなテーブルの奥にいる。


「いい反応するね? 撒いた筈なんだが、どうして、ここにいると分かったんだい?」

「お前らみたいなのは、プンプン臭うんだよ」

「そうかい!」


 女が、棒の先から鎖で繋がった分銅を投げてくる。俺は短剣で分銅を弾きつつ、逆の手に具現化した棒手裏剣を投げつけた。女は前にあるテーブルを蹴倒すと、棒手裏剣がそこへ突き刺さる。


 女は引き戻した分銅を手に取らず、背後のテラス戸のガラスを割った。そして、そこから外へ逃げ出そうとする。


 俺はその背中へ再び棒手裏剣を投げつけた。が、女は振り向きながら手にした棒で弾き、ベランダの手摺りに手を掛け外へ飛び降りていく。

 また逃げるのかどうかは分からないが、少なくともあの武器は狭い室内より、ある程度の空間が必要だ。


 追いかけようと俺もベランダへ出ると、そこへ幾つもの魔力弾が飛んできた。




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