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具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


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口裂け


 それから、数日が経った。巡り合わせが悪いのか、祖父からの宿題の回答を示す前に、祖父は魔獣討伐へと出かけてしまう。

 俺は姉との調査があるので、祖父の魔獣討伐についていけない。


「フッ、そんな顔をするな、魔獣討伐なんぞ何時でもできる。今しか出来ないことを体験しておくのも重要じゃぞ?」


 俺が残念がっていると、祖父はそんな風にいって邸を去ってしまった。


 そうして、俺と姉は、今夜もディッテンベルガーの本店で張り込みである。


 それまでの間、俺とマーサとの攻防は続き、昼食には必ずブラウクラウトを出される日が続いていた。そろそろ、何らかの決着をつけないと、このまま習慣化されてしまいそうで怖い。


 母に何とかして欲しいと頼んでみたのだが、逆に犯人を捕まえるか、姉が諦めるまでは続けよう、などと言いだしてしまい、犯人を捕まえなければならない理由が一つ増えたのだ。


「早く犯人を見つけないと、お昼が嫌になりそうだよ」

「不健康な食生活を送るよりもいいじゃないの。平民の中には、朝夕の二食で済ませる人もいるそうよ?」

「姉さんはブラウクラウト、平気だっけ?」

「あんなもの、好きな人はそういないでしょ。レオが嫌がるから、余計に出されるんじゃないの? 私の食事には、滅多に出てこないもの」


 俺は、監視用とは別に用意したタブレットを弄っている姉を見つめる。ううむ、姉の身長は平均的なのだろうか?

 比較対象がいないので、よく分からない。順調に成長しているから、母やマーサは姉にブラウクラウトを出さないのかな?


「なに? どうしたのよ?」

「いや、なんでもない……それより、俺の新しい装備品ってどんなの?」

「うん? まだ、犯人も捕まえていないのに、デザインなんてする訳ないでしょ」

「じゃあ、今は何を描き込んでるのさ?」

「これよ、これ」

「クルマ?」


 姉が俺に見せてきたタブレットの画面には、自動車が描かれていた。バイクの時は紙とペンだったからか、言っては悪いが雑だった。

 ところが今、タブレットに描かれたものは、内装やロゴマークまで、別の画像まで作って事細かに描かれている。


「そう、フェアレディ、っていうスポーツカーよ。カッコいいでしょ?」

「ふぅん……」

「反応が鈍いわねぇ……男の子ならこういうの好きじゃないの?」

「どっちかっていうと、バイクの方が好きかな?」

「ハァ……ったく、相変わらずの変身バカね。ま、アンタはそうよね……」

「どうせなら、車体は赤くした方がカッコいいんじゃない?」

「バカね、この黄色の方がカッコかわいいでしょうが」

「まぁ、色を何にしようが姉さんの勝手だけどさ。そんな無駄なものを、具現化するつもりはないよ?」

「ちょっ!? どうしてよ!? これさえあれば、馬や馬車に頼らずとも遠出できるじゃないの? このゲーミングチェアみたいに、私の魔力を使えるようにすれば、レオは疲れないんだし!」

「そのクルマってさ、オンロード仕様じゃないの? アスファルトなんてない、この世界でどうやって運転するのさ?」

「うぐっ……レオの癖にそこに気づくとは……そうなのよねぇ、タイヤを変えても車高が低いから現実的じゃないのよね……でも、もう一度、乗りたいのよ。お願い、具現化してちょうだい!」


 姉が俺に懇願してくるなんて珍しい。余程、前世で思い入れのあるクルマだったのだろうか?

 とはいえ、一目見た瞬間に、すごく面倒くさそうと感じたのは確かだ。


「そんなものよりも、今は犯人を捕まえることに集中しようよ。クルマの話は、また時間のある時にでも……」

「そんなものって何よ! 大体、今はたっぷり時間が余っているじゃないの!」

「その前に、俺の装備品を……うん?」


 姉と不毛な言い争いをしていると、タブレットからピピピピッと電子音が鳴る。姉と二人で、急いでタブレットを覗き込む。

 分割された画面の一つに、背が低く長い灰色の髪をした人物が、店の入り口で何かやっているのが映し出されていた。


「レオ、行くわよ!」

「うん……」


 急ぐためか、姉はこの前、俺がやったように窓から飛び降りる。俺もそれに続いた。


 男か女か分からないが、犯人は俺達と同じような子供だった。あのマフラー男は、関係ないのだろうか?


 姉は運動が苦手だと思っていたが、身体強化を使いこなし走っている。そりゃそうか、学園の武闘会で優勝できるのだ。きっと毎日、母から厳しい訓練を受けているおかげだろう。


 姉が足を止めた先に、その店はあった。短い石段の先にある、両開きの扉の片方がほんの少し開いている。

 犯人は正面から鍵を開けて、堂々と侵入していたのか?


 姉はそっと歩みを進めると、石段の前で立ち止まった。そして、俺に背を向けたまま、片手を上げ、ハンドサインで中へ行けと指示を出す。


 俺はそっと忍び足で、店の中へ入っていく。薄暗い店の中で、誰かがガタゴトとやっている音が聞こえてくる。そちらへ目を向けると、ソイツと目が合った。

 ハッとしたソイツは一目散に、ダダダと駆け出し、窓ガラスを割って外へ飛び出していく。


 俺も追いかけようと、慌てて駆け出す。しかし、割れた窓から外へ身を乗り出すと、ソイツは魔力の土でグルグル巻きにされ、ジタバタともがいていた。


「く、クソッ! は、はなせ!」

「バーカ、子供だろうが、盗人を逃す訳ないでしょうが」

「お前も、子供じゃないか!」

「子供は子供でも、私はこの領の貴族よ。()()()で好き勝手やってくれるじゃないの」

「貴族だって!? お前みたいなガキが? 気品のカケラも無いじゃないか!」

「貴族が気品さや優雅さだけで、生きている訳ないでしょう? これからアンタには……チッ!」


 そこに、いくつもの黒い魔力の矢が降り注ぐ。姉は手を上に掲げ、黒い魔力壁を創り出し防ぐが……


「ギャアァッ! いたい、いたい!」


 矢は長髪の子供をも巻き込んだ。しかし、そのせいで姉の土魔術が崩れ、子供はそこから転げ落ちる。

 逃げようとする子供に、反応した姉が手を翳すと、上空からマフラー男が跳び降りてきて、姉の前に立ち塞がった。


「退きなさい!」

「嫌だといったら?」

「死ぬだけよ!」


 俺は割れた窓に足を掛け、そこから一息で、マフラー男に向けて跳び蹴りで躍りかかる。男は大きく跳び下がった。


「姉さん、コイツの相手はしておくから、追って!」

「任せたわ!」

「行かせるか!……チィッ!」


 男が姉の行く手を遮ろうとしたのを、俺が回り込んで邪魔をする。


「街の噂で貴族が動き出したのは、知っていたんだがな……こうも早くバレるとは思いもしなかったよ」

「諦めて、警備隊にまで出頭するんなら、俺も手が掛からなくて楽なんだけど?」

「フン、貴族の処罰が怖くて、犯罪なんかやってられるかよ」


 男が片手をあげ俺に魔術を使おうとする。それを見た俺は咄嗟に駆けだし、前蹴りを放つ。

 反応した男が避けようと横へ跳ぶ。

 俺は()()()()()()()()()()、男に張りつくように追従する。

 着地したところを、通魔撃で、魔術を使おうとしていた男の腕を打ち払った。


「グアッ!」


 俺は、痛みで瞬間的に動きが止まったであろう、男の脇腹へ肘打ちを繰り出す。男はゴロゴロと転がっていくが……。

 勘のいい奴だ。あの一瞬で、脇腹への肘打ちを、自ら後方へ跳んでダメージを減らした。


 今のは難しいところだな……突きや掌底なら跳んでいく男に、深手を負わせられただろうが、男が跳ばなかった場合、打撃点がずれてしまう。

 男が膝をつきながら立ち上がる。


「ツゥ……なんて打撃だ。こっちの身体強化を簡単に超えてきやがる……子供とはいえ、やっぱ、貴族を相手に無手は無策過ぎたか……」


 そう呟く男は、口元のマフラーへ手をやる。そして、その地面まで届きそうなオレンジ色の長いマフラーを取り外す。


「お、お前、その顔は……」

「フゥ、この口元を見られたからには、覚悟を決めたってことさ。貴族殺しのな……!」


 男の口は耳元まで裂けていて、犬歯が獣の牙の様に飛び出していた。


「まさか、魔人? 王都で暗躍してる、魔獣化組織の一員か?」

「ほう? 魔獣化を知っているのか……まぁ、あの組織を、オレは抜けたつもりだがな。おかげで、このありさまさ」

「抜けた? 何かヘマやったのか?」

「フッ、魔物の生け捕りなんていうバカげた指示に、嫌気が差しただけだ……」


 もしかするとコイツはこの前の、魔物の調査に来ていた魔獣化組織の生き残りか?


 男は左手でマフラーを操り、自身の姿を隠すようにグネグネと動かし始める。なんだろう?

 俺は具現化魔術で指先から、黒い魔力弾を飛ばした。


 魔力弾は男のマフラーに阻まれ、簡単に散ってしまう。あのマフラーは魔術に対する防御か?


 次に男は、逆の手で氷の矢の魔術を放ってくる。俺は軽く避けるが、男は次々と矢を放ってきて、俺の接近を許さない。


「くっ……」

「身体強化は一流だが、魔術はまだ習い始めか? なら、こういうのはどうだ!?」


 男は一度に、三本、四本、と複数の氷の矢を放ってくる。俺は建物の壁を蹴ったりして、位置を変えていくが、思ったように男に近づけない。

 そして、ついに肩口に矢を受けてしまい、俺は石畳の上に転がった。


「あぐっ」

「ククク、やはり、身体強化ばかりの奴はこうして、遠距離からの攻撃が効果的だな」


 男は警戒しているのか、マフラーを揺らしたままだ。そこから、俺に向けて、掌を掲げ魔力を溜める。

 くそう、俺に近付いて、止めを刺しには来ないか……祖父の言っていた、虚実の妙を分かったような気がしたが、まだまだ、実戦レベルではないらしい。


「フン!」


 男の掌から、氷柱の様な大きな氷の塊が撃ち出された。俺は咄嗟に手をついて跳び上がり、氷柱の上に立って、そのまま、ブーツの底を滑らせる。


「なにっ!?」


 驚きの表情を浮かべる男に向けて、祖父が使っていた火炎放射のような魔術を、具現化で真似て放つ。更に、逆の手に鉈の様な短剣を具現化し、男に跳び掛る。


「くっ!」


 男はマフラーを振り廻し、俺の魔術を防ぐ。


 祖父との訓練で分かったのだが、俺が属性魔術を真似ても、ホントの属性魔術ほどの威力は出せない。理由は色々あるだろうが、結局、具現化魔術は魔力の物質化に適しているのだ。


 だから、俺の使う属性に見せかけた魔術は、相手を打ち倒すためのものじゃない。相手に近付くための手段になる。


「ハッ!」


 火炎放射とマフラーで、俺の姿が良く見えなくなったであろう、男の肩を、宙返りしながら短剣で切り裂く。


「グアアッ!」


 男の背後に回った俺は、着地した反動をつけるようにして、通魔撃の掌底を、男の背中に叩き込む。

 転がっていく男を追い、その背中を踏みつけ、男が持つマフラーの腕へ短剣を突き刺し、地面に縫い付けた。


「グゥウウウ……オレの魔術に当たって、ダメージを受けた訳じゃないのか……」

「一本ずつ矢を飛ばしていた時は、俺を殺そうとする意念がちゃんと込められてたけどな? 三本、四本とばら撒くことに気を取られたのか、込められる意念がそぞろになってたのさ」

「くぅ……イネン、だと? 貴族のみに伝わる、極意か?」


 うん? 意念は魔術訓練の際に、師から教えられるものじゃないのだろうか? ま、いいか、今はコイツを抑え込んでおかなくては……俺は、短剣で地面に縫い付けていない逆の腕を踏みつける。


「知らないのなら、それでいいさ。これで、魔獣化する為の薬も飲めないだろ? このまま、警備隊が来るまで、この状態で我慢してもらうぜ?」

「……あの薬の存在を知っているのか。……残念だが、オレはもう、あの薬を持っていない」

「そうか。だからと言って、戒めを解く気は無いさ。お前の指示で、あの子に盗みを働かせていたのか?」

「オレの指示ではない……あの子の意思で、あの子が勝手にやったのだ……まぁ、貴重な食料を分けてもらってはいたがな……」

「あの子に、責任の全てを擦り付けるつもりか?」

「オレ如きが、“才覚者”であるあの子に、何といって言うことを聞かせるというのだ……」

「才覚者? あの子が?」

「ククク……お前の姉だったか? オレに関わっているよりも、自分の姉の助けにでも、行った方がいいんじゃないのか?」

「ふん、お前こそ、この領にいて、エリザベート・グローサーの名を聞いたことはないのか?」

「なに……?」


 その時、ドオォーンという不穏な爆発音のようなものが遠くから聞こえてくる。


 きっと姉だろうが、別の意味で少し不安だ……姉はたまに癇癪を起すからなぁ。むしゃくしゃして、街を破壊した。でも反省はしていない、なんて言い出しそうだ。


 それから程なくして、複数の警備隊を引き連れた姉が現れた。


「レオン様! ご無事でしたか!」


 その中から、ネーポムクが駆けてくる。その時、腕を踏みつけている男がもがきだした。


「無駄なあがきはよせ」


 俺は警告を促すが、男はもがくのをやめない。


「フッ、貴族の坊ちゃんよ、オレは薬を持っていないと言ったがな……」


 男の身体を黒い霧のような魔力が覆い始める。


「なッ……!? チッ!」


 俺は急いで、男の頭を狙って拳を突き出そうとした。が、男の全身から発した、衝撃波のようなものに弾き飛ばされてしまう。


「魔獣化できないとは言ってないぜ?」


 黒い影が蠢きながら立ち上がり、そんな一言を呟く。




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