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具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


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魔力球


 突き出した俺の拳を、祖父が上から叩き落とす。俺はその勢いを殺さないように、そのまま頭突きを試みる。


 しかし、祖父は横に一歩ずれて俺の攻撃を躱しつつ、そこから膝蹴りを繰り出してきた。一応、咄嗟に片腕を挟んで防御をしてみたものの、俺は簡単に弾き飛ばされてしまう。


「く、くそう、今のは入るかと思ったのに……」


 夏の祭りも無事終わり、“秋の半ば”を大分過ぎていた。俺は一日も休む事無く、今日も祖父と練武場での訓練に精を出している。


 祖父はたまに仕事や魔獣討伐でいない日もあるが、そういう時は、一人で教わった事を繰り返す訓練をしていた。


「ふむ、大分、上達したし、相変わらず思い切りもよいが、まだまだじゃな。そうじゃ、レオン、魔術には意念というものがあるが、武術にも使えるぞ?」

「意念?」

「うむ、魔術を行使する際、自分が思った通りの魔術にならなければ、意味がないじゃろう?」


 そういって、祖父は練武場の壁に向けて炎の矢を放った。壁に当たった火の魔術はボンッと弾け砕け散ってしまう。


「この様な単純な魔術も、意念を行いながら修練するわけじゃな。今のは単に魔力を火に変換し、矢の様に飛ばしただけじゃ。これに意念を加えると……」


 今度は放たれた火の矢が、白い壁に突き刺さってから消える。壁には小さな穴が開いていて、練武場の効果から、徐々に塞がりだすと穴は無くなってしまった。


「このように、意念とは魔術を自身の意のままに扱う為の()()みたいなものじゃが、これを武術に応用するわけじゃ」


 祖父は構えを取り、突きを繰り出す。


「こうやってただ突きを繰り出すだけでなく、突き出した拳に意念を乗せるのじゃ。人体とは不思議なものでな? 例えば、この突きで相手の防御を貫通するよう思い描きながら練習するじゃろ? すると、身体がそういう動きを可能にしようと補正しだすのじゃ。やがて、貫通力のある突きが放てるようになる。そうなると、相手は簡単に突きを払ったり、受け止めたりできんようになるわけじゃな」

「へぇ……」

「と、まぁこれは警備隊や魔獣討伐隊にも伝わる表の教えじゃから、戦闘を生業とする者ならば誰でも知っておる。レオンはよく独りで鍛錬しておるからな、意念を意識して行えば修行の効果も更に上がるじゃろう」


 前世であった、イメージトレーニングみたいなものだろうか? いや、あれは動かない状態でやるんだっけ?


「邸でこっそりやってるつもりなんだけど、分かるの?」

「分かるとも。動きが日々どんどんよくなっておる。ここでの修練だけでそうはならん。教える立場からすれば、あれもこれもと教え込みたくなるが……一気に詰め込んでも、その身に沁み込まなければ意味が無いからな」

「へぇ、分かる人には分かるってこと? それじゃあ、裏の教えってのは?」

「そうじゃのう、裏の教えの前に魔術訓練を始めねばならんが……レオン、お主、ディートとの座学に身が入っておらんらしいな?」

「うっ……どうしてか分かんないけど、教本を読んでると眠くなっちゃうんだよね……」

「ガハハハ、儂もそうじゃったわい。まるで、睡眠の魔術でもかけられているかのようじゃろう?」

「うん、そういう魔術ってあるの?」

「あるにはあるが……寝不足の者や物凄く体調の悪い者にしかかからん。どちらかというと、医療用の魔術じゃな。戦闘状態では興奮しておるし、身体強化で防御もしておるからな」

「じゃあ、夜泣きしている赤ん坊とかには使えないの?」

「ならん、ならん、魔力症も終わっておらん者に掛けると、抵抗力が無いから、そのまま眠り続けて衰弱死してしまうぞ? じゃから、試してみようなどと考えるな」

「え? そうなんだ? すごく危険なんだね?」

「うむ、元々、魔術は危険なものじゃ。とはいえ、魔術以外にも危険なものなど、この世にはいくらでもあるがな。どんなものでも、扱う者の心掛け次第じゃ」

「あ~そりゃそうだね。それで、魔術訓練はいつからやるの?」


 俺が問うと、祖父は顎をさすりながら考える様子を見せる。


「そうじゃのう……今はエリーが午前中に練武場(ここ)を使っておるじゃろ? 学園に通いだすと暫く午前中が空くから、その頃にでもと思っていたのじゃがな。それにレオンは武術と身体強化の才に長けておるから、教えておるだけで楽しいしな」

「だったら、武術訓練を続けても構わないよ? 何としても爺ちゃんに一発入れたいし」

「ガハハッ、それじゃと、後、何年かかるか分からんな。ちと早いが、レオンが真面目に鍛錬をしている褒美として、魔術訓練を始めても良いのじゃが……」

「お、おお……?」

「もう少し、ディートとの座学に精を出すのならばな?」

「ええーっ!?」

「なんじゃ? 不服か?」

「だって……俺、属性魔術の適性がないみたいだし……勉強よりも、鍛錬する時間をいっぱい取らないといけないんじゃないのかなって……」


 俺の不安を払拭するように、祖父は笑顔を浮かべる。


「レオンよ、誰しも得手、不得手がある。先ずは魔術訓練を体験してみよ。それから苦手なものを克服するために努力を重ねるのか、得意なものに時間を費やすのか、それはレオン自身が良く考えて決めればよい」

「うん、分かった……じゃあ、父さんとの勉強も少し頑張ってみるよ。爺ちゃんもそうだったの?」

「まぁな、儂も師である親父に同じようなことを言われたわい。こう偉そうに理想論を口にしておるがな、儂が出来たかどうかは推して知るべし、じゃ」


 そういって、祖父はニッと口元を歪ませた。祖父ならば恐らく……ま、教える立場からすれば、手を抜けとかサボっていいなんていう訳ないか。


「そうなんだ。どうせ、学園でも勉強しなきゃいけないんだから、覚悟を決めるよ」

「フッ、そんな大げさなものではないがのう。さ、やるか」


 祖父の指示に従って、自然体になって身体強化を行う。その状態から身体強化で循環させているのとは別の魔力を指先へと集める。

 そして、目の前で人差し指を上に向けて、母がやったような小さな魔力の球を創り出そうとした。


 今までの訓練のおかげだろうか? 魔力球は簡単に創り出せた。しかし……


「あれ?」

「ふむ……」


 俺の魔力球は、母やマグダレーネがやっていた様な半透明の黒い物ではなく、マーブル模様で様々な色が混ざっていた。


「爺ちゃんこれって……?」

「恐らく、それがレオンの使う具現化魔術とやらの素になっている魔力なのじゃろう。これは他人には見せられんな……フローラがレオンには属性魔術の適性がないといっておったが、どうじゃレオン、その魔力を変質させて火や水にできそうか?」

「やってみるね、う~ん?」


 魔力の変質とか変換というものがよく分からない。どうしても、具現化に意識を持っていかれてしまう。


「爺ちゃん、具現化でやってみてもいい?」

「うん? 魔力が物質に変化するのではなかったのか? まぁよい、やってみよ」


 祖父の許可を得て、具現化で火の玉を創ってみる。具現化なら簡単に火に出来た。


「アチッ……!」


 指先が熱くなってきたので、俺は直ぐに具現化を解除し、パタパタと手を振った。


「熱いじゃと? 身体強化は出来ておるのに、耐えられんかったのか?」

「へ? そうだけど……? 爺ちゃんたちは違うの?」

「むぅ……よいか、レオン。通常、身体強化の状態で魔術を使っても、自身を傷付けたりはせん。何故そうなるのかは諸説あって判明しとらんが、大方の見解では自分自身の魔力じゃから、となっておる。勿論、身体強化を解けば、自傷行為は可能じゃがな」

「へぇ、それも身体強化を一番に覚える理由になってるんだね」

「まぁな。しかし、魔術行使の際、人は本能的に手や指先を魔力で覆ったりするがの……それよりもレオン、他の属性もできそうか?」

「えと、あとは氷と風と……」

「土、雷、水、じゃ」


 祖父に言われた通り、次々と属性球を創り出していく。なんとか具現化で全ての属性は創り出せた。

 しかし、母と違って火から雷への変化みたいなのはできず、一々消し去ってから創り出さなければならなかった。


「ふむ……一応、全属性ではあるのか」

「爺ちゃん、母さんみたいにできなかったんだけど、俺って才能ないのかな?」

「フローラは魔術の扱いに長けておるからな、属性の中途変化はある意味、奥義でもある。今はできなくて当然なのじゃが、レオンは具現化魔術でやったのあろう? 儂にはよく分からんが、具現化魔術と属性魔術では異なるのではないか?」

「あ、そうか……それにしても、母さんのあれって奥義だったんだね」

「魔獣でもそうじゃが、特に対人だと色々な属性魔術を使って来るじゃろう? 相手がこちらの使う属性に有利な場合、対応したり、その出鼻を挫いたりするものじゃな」

「へぇ?」

「とはいっても、レオンにはよく分からんじゃろう? 机上の空論ではあるが属性間には強弱がある。火は氷を溶かし、氷は風を隔て、風は土を削り、土は雷を散らし、雷は水を揮発させ、水は火を打ち消す、といった関係がある」

「ええと、火は氷を……? 机上の空論って?」

「今は無理に覚えずともよい。儂が机上の空論と言っておるのは、同じ魔力量でそれぞれの属性魔術がぶつかり合った時にそうなるという話でな。確かに属性間に優劣はあるが、魔術に込める魔力量次第では簡単に覆せる。それと、仮に儂自身に火の適正しかなかった場合、氷魔術の使い手しか相手にしない、なんてことは出来んじゃろう? 学園ではこういった話を、御大層にしていたりするのじゃがな」

「ふぅん、試験に出たりするのかな? それで、具現化じゃなくて、魔力の属性変換を出来るようになった方がいいんだよね?」

「それはそうじゃろう……が、その前に、具現化でこういう黒い魔力球はできそうか?」

「やってみるね」


 祖父が指先に作り出した魔力球を見ながら、黒い魔力球を創り出す。色を変えるだけなら簡単だ。 


「ふむ、では、こんな風に飛ばせるか?」


 祖父は指先を練武場の壁に向けると、黒い魔力弾を飛ばした。魔力弾は壁にぶつかると霧散してしまう。俺も祖父のマネをしてみるのだが……


「あ、あれ? 指先から離れない……」

「むぅ?」

「爺ちゃん、ちょっとズルしていい?」

「ズル? 何をするのか分からんが……まぁ、よかろう」


 俺は逆の手にスマホを具現化すると、疑問を口にする。


「この魔力球が飛ばないんだけど、どうしてかな?」

「解。創り出した魔力球に、目標へ向けて飛ばすという想念が足りていません」

「あ、そうか!」

「なんじゃ? 例の喋る魔導具か?」


 俺は魔力球とスマホを消し去って、改めて魔力球を創り直し、祖父の様に壁に指を向けて魔力球を飛ばす。ちゃんと、壁にぶつかると弾けて消えた。


「お、できた」

「ふむ、今のが具現化魔術の教本というわけか。喋るとは便利じゃのう……それよりレオンよ、わざわざ創り直さねばならんのか?」

「ううん、上書きすればいいだけなんだけど、そうすると余計に魔力を使うんだよ」

「そうか……ふむ……」


 祖父は腕を組んで何か考え込み始める。俺は不安になってきて、祖父に尋ねてみた。


「やっぱり、属性変換が出来ないといけないのかな?」

「まぁ、待て、まだ、始めたばかりじゃ。覚えられるなら覚えた方が良いが、そこまで悲嘆に暮れることも無い。具現化で誤魔化せそうじゃからな。順番が逆になってしまったが先ずは、魔力球を飛ばすところからやろう。おかしな色であったが、あの魔力球は具現化ではないのじゃろう?」

「うん、俺自身の魔力のはず……ただ、今まで具現化魔術しか使ってなかったからよく分かんないけど」

「そうか、取り敢えずは……」


 祖父は練武場の壁の前に、土の魔術でポールを創り出す。上に大きな輪っかが出来ていて、バスケットボール位の穴があり、練武場の白い壁が見える。


「今度、ちゃんとした的を用意するが、こいつで代用じゃ。今日は魔術訓練の予定では無かったのでな。始めはこのくらいの距離から、魔力球を飛ばし穴に通す。それから徐々に穴を小さくしたり、距離を取ったりしていくわけじゃ。どれだけ威力のある魔術が使えようとも、狙ったところへ魔術を放てねば意味が無いからな」

「成る程、まずはやってみるね」


 俺は五歩くらいの距離を取り、指先に変な色の魔力球を創り出す。そして、的に向けて魔力球を放つのだが……ふよふよと飛んでいく魔力球は的へ辿り着く前に消えてしまった。


「あれ?」

「ふむ、レオンよ、もっと魔力を込めてみよ」

「う、うん」


 次に倍くらいの魔力を込めてみて、魔力球を放ってみる。やはり、頼りなくふよふよと飛んでいく。今度は的まで届いたが、穴を通らず枠に当たってしまった。


「思ったように飛ばないなぁ……」

「始めはそんなモンじゃ。やっている内に込めるべき魔力量とか、調整などが理解できるようになってくる」

「成る程、速度が出ないのはどうして?」

「まだ、込めるべき魔力量が少ないのと、射出する時の魔力量が足らん」

「そうなんだ……う~ん……」

「どうした?」

「いや、具現化魔術と違うから、なにかおかしな感じがするんだよ」

「そうか、経験が邪魔になることもあるのじゃな……」


 具現化魔術ならこれ位の魔力量でいける筈、という感覚がどうしても俺を戸惑わせる。

 それでも俺は、祖父にアドバイスをもらいながら、変わった色の魔力球を飛ばす訓練を続けていった。




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