表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/222

蠢く者たち


「――の旦那、こんなものが本当に……?」

「ああ、王国騎士ですら圧倒できる力を手に出来る筈だ」

「しかし、噂じゃ魔獣になった直後、正気を失って暴れ回るだけだったそうじゃねーか?」

「そういって腰が引けているお前たちの為に、相当数の実験を繰り返してきたのだ。今度のコイツは理性が残る様に改良されている」

「あ、アニキ……」

「フッ、あの組織が壊滅した後、相当悔しがっていたと思うが、お前たちを世話してくれた組織への想いはその程度だったのか? ならば、恥も外聞も投げ捨て、カタギとして細々と生きていけばいい。あの世でお前たちのオヤジは、育て方を間違えたと嘆いているかもしれんがな」

「ふ、ふざけるな! オレたちゃ義理堅(ぎりがてぇ)んだ。受けた恩は必ず返す! 例え相手が貴族だろうが王族だろうがな! 以前のブツじゃ相手を見極めるオツムも無かったから、断っていただけだろうが! オレたちをナメんじゃねーぞ! 貸せ!」

「フッ、では、その覚悟を見せてもらいたいものだな。勿論、言葉だけではなく態度でな」

「ああ、見ていろよ! んぐっ……グ、グウウ……」


 音声だけなので詳しい状況は分からないが、恐らく灰ローブの人物が魔獣化するための何かを男達に渡したのだろう。

 アイツ等はこんな風にして人をかどわかし、“魔人”を増やしているのか……


「あ、アニキ! 顔が、いや身体中が……だ、大丈夫ですかい?」

「グウウ……あ、ああ……ブレフト、オタカル、コイツはすげえぞ……力が溢れて来る様だ、お前たちも早く使え」

「で、でも……」

「オタカル、オレはやるぞ、おやっさんの仇を取るんだ! ウグッ、ぐううがああ……」

「ブレフト……チッ、しょうがねぇ……オレも覚悟を決めるか……グッ、ぐがあああ……」


 う、う~ん……引き返してイーナ達を呼んでくるか……流石に“魔人”三体、灰色ローブの人物を合わせて、四対一になるのはきついだろう。

 そっと引き返そうとしたところ、再び話声が聞こえてくる。魔獣化が完了したのか?


「素晴らしい、お前たちの覚悟の程、しかと見せてもらったよ。もう間もなく仲間からの合図がある筈だ。その時がお前たちの出番になる」

「合図? そりゃいったい……」

「なに、とても分かり易い合図だ。今、この劇場に王族が二人来ている。お前たちの役目は合図があり次第、観客席に飛び込み会場を混乱に陥れることだ。頃合いを見計らって脱出するといいだろう」

「脱出するっつってもよぉ、この姿じゃあ直にバレちまうぜ? どうやって元に戻るんだい?」

「それはお前たちが無事、任務を終えてから……」


 そこまでで切り上げて、俺はカサンドラのいる部屋へと戻る為、音がしない様に階段を駆け上がっていった。また、お姫様は狙われているのか……


 そっと金属の扉を開け、部屋へ戻ろうと通路を駆けていると、イーナが通路に出ていた。


「レオンハルト様! 何処へ行っていたのです? 心配しましたよ?」

「イーナ、丁度いいところに、実は……」


 先程聞いた、魔獣化組織の一味だと思われる奴等の会話を伝える。


「フロレンティア様が仰っていた、“魔人”ですか……取り敢えず、部屋に戻りましょう」

「でも……」

「先ずはロジーたちと合流しなければ、話はそれからです」


 部屋の前まで戻り、イーナが二人の魔獣討伐隊員を通路へ呼び出す。そうして、俺が話した内容を簡潔にまとめて二人に伝える。


「……という訳なの。カティアはレオンハルト様とカサンドラ様たちと一緒に待っていて」

「それじゃ、イーナはどうするつもりなの?」


 仲間の女性討伐隊員に問われ、イーナは不敵な笑みを浮かべる。


「勿論、うちに、グローサー領に手を出したツケを払わせてやるわ」

「ったく、アンタは……イーナの強さは知っているけれど、それでも気を付けるのよ? マグダレーネ様が言っていたけど、決して侮ってはいけないって……」

「んなの分かっているわよ。じゃあ、レオンハルト様をお願いね」

「ちょっと待って」


 俺は二人で行こうとしたイーナ達を呼び止めた。


「なんです、レオンハルト様?」

「三人で行った方がいい。付き合いは短いけど、三人でよく一緒に行動しているから、三人で組んでいるのは知ってるしさ。二人より三人の方がより複雑な連携を取れると思うんだ。俺のことは心配しなくていいよ」

「しかし、我らの任務はレオンハルト様の護衛です。放棄する訳には……」

「イーナたちの実力は俺には分からないけどさ、二対四より三対四の状況の方が絶対に有利な筈だし……俺の予測だけど、相手の内、三人は魔獣化したてで十分に実力を発揮できるとは思えない。でも、きっと灰色ローブの奴も魔獣化するだろうし、どれだけの実力があるかは分からないんだ。あの時、マグちゃんでさえ不意打ちを行って一対一の状況に持って行った。未知の相手だから用心していたんだと思う。イーナたちには世話になっているから、絶対、無事に帰ってきて欲しい。だから十分すぎる程の安全策を取って欲しいんだ」

「イーナ、マグダレーネ様の実力は知っているでしょう? 私とロジーがその三人を抑えておくから、貴方は灰ローブの人物に専念するのが良いのかもしれないわ」

「レオンハルト様……分かりました、必ず無事に戻ってきます。ですからレオンハルト様もカサンドラ様と一緒に居てください」

「うん、分かってる」


 そうしてイーナ達、三人組と別れた俺は、観劇用の部屋に入ると、カサンドラの護衛の一人を部屋の外へ呼び出した。


「何でしょうか?」


 少し訝しそうな表情の彼に俺は告げる。


「これから劇場内で何か混乱が起きるらしい。俺の護衛に、調査を兼ねて阻害しに行ってもらったけど何が起こるか分からないから、十分に気を付けて欲しい」

「は、はぁ? 勿論、カサンドラ様のために護衛として全力を尽くす所存ではありますが……混乱とは一体どの様な?」

「それは、俺にも分からない……けど、きっと魔獣化事件に関わっている奴らが動いてる筈なんだ。他領の者が言っている戯言だと思ってくれても構わない。それでも、ブルーメンタール侯爵家の護衛たちの間でこんな情報があったと、共有しておいて欲しいんだ」

「魔獣化事件……いえ、レオンハルト様を疑っている訳ではありませんし、そういう情報は有難いです。よろしければ、カサンドラ様に直接、報告なさっては如何でしょうか?」

「いや、俺は王族……王女殿下や王子殿下に伝えてくるよ。奴らの狙いは王族だからね。できれば観劇をやめて、劇場を去ってくれればいいけど、無理だとしてもこの情報を護衛に伝えるだけでも効果はあるだろうしさ」

「ふむ……しかし、王族がどちらにいらっしゃるのかお分かりなのですか?」

「うん、ちょっとしたコツがあるんだ。じゃあ後は任せたよ」

「は、はぁ……」


 そうして、俺はブルーメンタール侯爵家の護衛と別れ、その場を走り去る。

 まだ、時間に猶予はあるだろうか? アイツ等は、もう間もなく仲間から合図がある、と言っていたが……


 階段を降りながら、お姫様達と別れた辺りを目指して、駆けながらスマホを具現化する。


「お姫様……あ、いや、レオノーラ姫の位置情報を……」


 スマホに問いかけた時だった。スライド式のドアを開けて黒ずくめの人物が二人、恐らくトイレであろう場所から出てくるところだった。


 あれは城で俺を襲ってきた奴と同じ……!

 俺は駆けていた速度を上げ、一人の頭に飛び膝蹴りを喰らわす。


「ガッ……」


 あ、しまった! 

 やってしまってから気付いたが、もしかすると、劇場の関係者……裏方の仕事をしている人かも? という考えが脳裏をよぎる。


 しかし……

 もう一人は倒れた仲間と俺を見ると、俺に向かって短剣を抜き襲い掛かってきた。


 突き出してきた短剣をしゃがんで躱し、足に魔力を込めて足払いを繰り出す。体勢を崩し、こちらへ倒れかけた黒ずくめの身体目掛けて、手をついて逆立ちになるようになりながら、その腹を蹴り上げた。


「グアッ」


 最初に膝蹴りを食らわせた奴は、ピクリとも動かない。多分、気絶しているだけで死んではいない、と思う……確信は持てないが。問題なのはもう一人の、腹を蹴り上げた奴で、ミミズのようにのたうちながら唸り続けている。


 マンガやアニメでは、首筋に手刀を入れて気絶させたりするが、あんなに上手く出来そうにない。コイツ等は今回の事件での手掛かりになるだろうから、死なせたくはないのだ。


 どうしたものか、とほんの僅かな時間、逡巡していると、バン! とトイレの扉が開いて新たな人物が現れた。


「チッ、なんだ? 不意打ちをかける側が、逆にかけられているじゃねーか……貴族のガキごときにやられるなんざ、ホント、()()()()()()()奴らだぜ。だから、オレはこんな奴らを仲間にするのは嫌だったんだ」


 灰色のローブを着てフード部分を外している男は、病的なほどに頬がこけていて、ダークブラウンの前髪を目に掛かるまで垂らし、妙に鼻の長い男だった。


 チラリと見えただけだが、トイレの奥に倒れた人達が居るのが分かった。劇場の係員か観客の誰かだろうか?


「どこで感づいたのか知らんが、その勘の良さが仇になったな。貴族とはいえ見られたからには容赦はせん。いや、貴族だからこそ、か……」

「勘がどうとかいう以前の問題だぜ? 黒ずくめで顔まで隠している奴が、突然、目の前に現れたら、蹴り飛ばされても文句は言えないと思うが?」

「ハッ、ちげぇねぇ……気配察知を遮断する衣装だとか言っていたが、あの怪しい恰好を見られていたんじゃあ、確かに意味がないよ……なっ!」


 突然、鼻男が手を振り上げると、空気を歪ませて細長い刃の様な魔術が飛んでくる。


「チッ」


 咄嗟に躱すが、軽く肩口をかすめる。そのまま次々と鼻男は風魔術を放ってきた。

 俺は駆け出して跳び上がり、壁を蹴って体勢を変え、天井を蹴り、反対側の壁へ跳ぶといった複雑な動きで鼻男に近づいていく。


 鼻男は幾度も風魔術を放ってくるが、俺の動きについてこれないのか、その悉くを外していた。

 地面を蹴って、クルッと身体を回転して天井を蹴り、落下しながら鉈のような短剣を具現化して、鼻男の腕を斬りつける。


「グッ! この……!」


 鼻男は近距離で風魔術を放ちながら、後方へ跳び下がろうとした。俺は短剣で風魔術を打ち払うと、鼻男へ追い縋り、更にその太もも辺りを斬りつけた。が、少し浅いか……?


 追い打ちをかけようと鉈の様な短剣を突き出そうとするが、鼻男の足元から強烈な風が巻き起こり、俺の身体が少し浮き上がって狙いを逸らされてしまう。

 そこへ、鼻男が両腕を突き出し、風魔術を放つ。


「クッ」


 両腕を交差して風魔術を防ぐ。が、吹き飛ばされた上に、服の袖が破れてしまう。


「流石に貴族とあっていい服を着てるな……短剣も風変りだが、こちらの身体強化が効かないほどの業物だ。だが、それよりも脅威なのが、貴族のくせに変則的な動き……それに加え、お前、オレの魔術が()()()()()()?」


 風の魔術は空気の様な物を撃ち出すとあって透明なのだが、空間が歪んで見えるので慣れてしまえば避けるのは容易だ。

 とはいえ、昔、祖父が語っていたように、暗闇だと見極めるのが難しいだろう。


 ただ、この貴族風の衣装には魔紋が縫い付けられているので、威力が弱いとされている風魔術では、生半可な腕前だと傷を付ける事さえ厳しい筈だ。


「この服の値段は知らないが、その薄汚いローブとは比べ物にならないほど高価なんだぜ? オッサンに弁償できるのかい?」

「フン、オレも好き好んでこのローブを着ている訳ではないのだがな、ならば……」


 鼻男は手を開いて両腕を下げた。すると、こちらに向けた掌から魔術が起こる。

 それは先程まで使っていた一部の空気が歪んで飛んでくる刃の様な風魔術ではなく、通路全体に及ぶような強烈な突風だった。 


「むぅ」


 俺は顔を腕で覆い、隙間から鼻男を覗く。流石に俺の体重が軽すぎて、前に進む事もままならない……

 時間にして数秒だろうか、俺が次の手立てを考えていると、鼻男はローブのポケットから例の試験管の様な物を取り出した。


「お前の命を奪って、踏み倒させてもらおうか!」


 試験管の中身を飲み干すと、鼻男の周りを黒い霧が覆うのと同時に風の魔術が止む。俺は苦無を具現化して投げつけてみた。が、予想通り、黒い魔力弾が飛んで来て撃ち落とされる。


 黒い霧が晴れると、中から現れたのはダークブラウンの毛に覆われて、長い鼻と耳、鋭い牙を持つ狼男だった。


「大人のオレはガキと遊ぶ時間がないんでな……サッサと終わらせるぞ?」

「つれないオッサンだな。それで、アンタらの狙いは王子か? それとも王女?」

「……お前の様なガキが……オレの姿を見ても眉一つ動かさないところを見ると……フン、やはり裏切り者がいたか。どこまで知っている?」

「素直に答えるとでも?」

「だろうな……まぁ、今ここで、お前の口を塞いでしまえばいいだけの話だ」


 そういうと、狼男は胸元で止めていた留め金を外し灰色のローブの前をはだける。そして、魔獣化した男は、俺に向けて魔術を放ってくるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ