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具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


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ブルーメンタール侯爵


 この国の貴族は侯爵、伯爵、子爵、男爵という爵位によって分けられていて、それぞれが領を治めている。

 この爵位の違いによる差がよく分からなかった俺に、姉が随分と前に分かり易く現代日本風に例えてくれた。


 国王が日本でいうところの総理大臣だとすると、子爵、男爵は市長や区長にあたる。子爵、男爵の違いは大都会の市長と、田舎の市長の違いくらい。伯爵は、都知事や県知事などの市や区、つまりは子爵、男爵をまとめた長。


 そして、侯爵が日本では存在しないのだが、東北地方や近畿地方などの地方をまとめる代表者にあたる。

 侯爵領は中央にある王領を囲むようにして八方に分かれて、それぞれが領地を治めている。故に八大侯爵と呼ばれるのだ。ブルーメンタール家は確か東地方だったかな?


 勿論、日本とは政治形態や法律も違っているので全くこの通りではない。

 例えば、貴族は日本の市長や知事などとは比べられない程の権力を持っていて、住民の了解が得られなかったので、工事が取りやめになるなんて事はない。


 まぁ流石に明日から工事を始めるので、今日中に家を出ていけ、なんて無茶な事は言わないそうだ。住民も立ち退き反対なんて言う者はいなくて、そんな事をすれば街から放り出されるだけである。

 魔獣の跋扈する世界で街から追い出されてしまっては、流石に生き延びるのは辛いだろう。


 更に俺のいるグローサー子爵領などは平均的な子爵領よりも大きな領地だし、侯爵領や伯爵領に内包されている訳でもなく、独立している。こういう領もいくつか存在しているそうだ。


 ブルーメンタール侯爵家と名乗ったフリーデグントに母は席を立って、礼を取ろうとする。が、彼女はそれを止めさせた。


「よろしくってよ、フロレンティア様。不躾な真似をしているのは私の方なのですから。少し同席しても構わないかしら?」

「ええ、どうぞ。どのようなご用件でしょうか?」

「大した話ではありませんわ。私はフロレンティア様より二つ下の学年だったのですけれど、学園でアルブレヒト王子を……今は王太子殿下ですか。あの方を打ちのめしたでしょう? 噂には聞いていましたけれど、本当にそのような強い女性がいることに驚きとともに感心いたしまして……当時、私たちの間では憧れの的でしたのよ? ですから、一度お話をしてみたかったのです」

「フリーデグント様にそのように仰っていただけるのは光栄ですわ……ただ、その話は二年前にお会いした王太子殿下も避けているようでしたから、あまり広めないで頂けると……」

「あら、二年前にお会いしていらしたのですか? とはいえ、あれ程の衆人環視の中で行われた試合、私たちの世代で知らない者はいませんわよ?」

「お母様、グローサー子爵様に私を紹介して頂けないのですか?」


 そこにブルーメンタール侯爵の席で食事をとっていた少女がいつの間にか寄ってきていて声をかけてきた。彼女は肩先まである髪を内巻きにしていて、自身の母親より少し濃い青色の髪をしていた。  


「あら、カサンドラ、ごめんなさいね。フロレンティア様、この子はカサンドラです」

「初めまして、グローサー子爵様。カサンドラ・ブルーメンタールです」

「フロレンティア・グローサーです。この子は……」

「初めまして、レオンハルト・グローサーです」


 結局、席を立ち互いに礼を取って、軽い挨拶を交わす。

 俺達が着いているテーブルは丸いので、少し席をずらして移動しようとすると、従業員がやって来て席を整えてくれた。

 そうして、改めて紅茶などが運ばれてくる。


「お母様、この様に突然押し掛けるのは失礼ではなくて? お話がしたいのであれば、予めグローサー子爵様をお食事にお誘いすれば良かったのではないのでしょうか?」

「貴方はお堅いわね。あの教師なら無理もないのかしら……貴族の礼儀としてはそれが正しいわ。でもね、お互いよく知らない間柄だと、上位の貴族が下位の貴族を誘うのは命令になるのよ? 考えてもみなさい、貴方がいきなり面識もない王族から呼び出されたとしたら、少しは警戒をしないかしら? 警戒されてしまっては、楽しくお話することもできないでしょう? だから、こういうちょっとした切っ掛けを利用するのも社交術の一つなのよ?」

「そういうものですの?」


 カサンドラは首を傾げて、フリーデグントに聞き返す。やっぱり貴族って色々と面倒なんだなぁ……


「フフ、フリーデグント様のお誘いならいつでも歓迎いたします。カサンドラ嬢、難しく考える必要はないのですよ。相手に不快感を与えなければ、それで良いのですから。それでフリーデグント様、先程、仰った王族からの招待をこの子が受けてしまいまして……明日の王族の洗礼式に同席するよう、昨夜、王宮からの招待状を受け取っているのです」

「あら、では私たちと同じ日程ではないですか……侯爵家はうちからだけですが、確か王族からは二名いると聞いています。後は面倒な()()()からどれくらい来るかですわね……」


 初めて聞く爵位が出て来たな……どんな爵位なのだろう?


「公爵家? 母さん公爵家って?」

「ああ、子爵家では、そこまで教育している訳ではありませんのね。まぁ関わるのは、学園に通う頃でしょうから当然といえば当然ですか……レオンハルト、公爵家とは所謂、王族の親族ですわ。私たち領地持ちの貴族ほど権力がある訳ではありませんが、この国を運営する王宮の重要な役職や、王領にある街の代官なんかに就いている場合が多いですわね」

「フリーデグント様、面倒というのはなんですか?」

「公爵家は少し特殊でね。私たち貴族は本家直系の子だけが貴族になれるでしょう? ところが公爵家には後継ぎが存在せず、何某かの功績を残せなければ、公爵家を名乗り続けられないのです。その制度おかげで、幾つもの公爵家が新しく興っては没落していったの」

「それでは、その子たちは勉強熱心だとか、厳しい魔術訓練をしていたりする訳ですか?」

「それなら、どれだけ素晴らしいことか……他家の子に、こんなことを伝えるのはどうかとは思うのだけれど……」


 フリーデグントは母に視線を送ると、母は頷いた。


「彼らの多くは正しく努力をするより、他人を蹴落とすことに長けていたりするのよね。学園でもそうでしたが……私はエーベルヴァイン侯爵家から嫁いだ身ですが、ブルーメンタール家でも彼らの扱いには頭を悩ませていると聞きましたよ。ですから、この認識で間違っていないと思うわ」

「蹴落とすといっても、俺……じゃない、自分は唯の子爵になるだけですから、あまり関わり合いになりそうにないですね。領主にもなりませんから、婚姻相手としても向いていない筈ですし……」

「お母様、レオンハルト様は御自身の価値を分かっておられないようですわ。これは、私たちの明日の洗礼式に同行してもらった方がいいのでは?」

「そうねぇ……フロレンティア様、構わないかしら?」

「ええ、侯爵家の方々に迷惑でないのなら、こちらからお願いします」


 よく分からないうちに話が進んでいく。

 俺自身、まだ結婚とかはピンときていないが、将来は姉が領主になるので、その補佐に就くか、魔獣討伐隊にでも入るか、くらいにしか考えていない。

 そんな俺に何の価値があるというのだろう?


 母とフリーデグントの間で一緒に洗礼式に行くという約束が取り交わされ、昼食の席は終わった。


 食堂を出ると、さっき追い出された騎士と同じ服を着た男達が三人いた。宿の従業員がやって来て母に彼等が会いたがっていると告げると、母は俺とツェーザル含む数名の護衛を連れて彼等に向かって行く。


 彼等は母の前で跪くと胸に手を置き礼を取る。

 何を思っているのか、侯爵親子も護衛を伴ってついて来ていた。


「申し訳ありませんでした、グローサー子爵様。先程うちの隊の者が子爵様に無礼を働いたようで……心よりお詫びいたします」


 母は彼等を無視するようにその前を通り過ぎ、ロビーのソファがあるところへ行くと、侯爵親子に席を勧め自身も対面に腰かけた。

 俺は母の隣に立っていると、三人の中で年嵩のいった騎士が困ったような表情を浮かべ、母の側へ一人でやって来る。


「あ、あの子爵様……」

()()()()()()()()()()()()()()()()()……こちらはブルーメンタール侯爵家のフリーデグント様です。先ずは御挨拶を」

「こ、侯爵様でしたか……失礼いたしました。私は第四騎士団所属のキップと申します」


 母の言葉を聞いた騎士は、再び跪き礼を取る。


「あらあら、お優しいですわね、グローサー子爵。それで貴方たちはどういった要件なのかしら?」

「実はグローサー子爵様のご子息に伺いたいことがありまして……先程の騎士は第八騎士団より我が第四騎士団に移籍してきたのですが、どうも王都の騎士団に所属するのが栄転だと思っている節があるらしく、何と言いますか、その、少々扱いに困っておりまして……気分を害されているところにこの様な真似は、とても心苦しいのですが、どうか調査に協力していただきたく存じます」

「せっかく、グローサー子爵が気を使って無かったことにしようとしているというのに、蒸し返すなど無粋ですわね……それで、彼に訊きたいこととは?」

「ハッ、いえ、その……できれば、子爵家の方のみにお話を伺いたいのですが……」

「無駄よ、後で私が命じれば、グローサー子爵はその内容を伝えざるを得ないのだから。私たちの時間が貴方たちと同価値とでも思っているの?」

「しかし、王宮よりこの件については広めるなと下達されており、侯爵様といえど内容をバラす訳にはいかず、子爵様にも口を閉ざして頂きたいのです……」

「それは一般庶民に対してでしょう? まぁそこまで言われれば、王都で起きている魔獣化事件についてですか……貴族ならば幼子以外、誰もが知っていてよ? で、彼に何を尋ねるつもりなのかしら?」

「そ、そうでしたか……警邏隊から報告がありまして、昨日、ルクサス地区にて魔獣化事件があったのですが、その場にいたのがグローサー子爵家のご子息だと情報を得まして、事件解決の為、もう少し詳細を得られないかと思い、こうしてお伺いした訳です」

「そう、それであのような騎士を連れて来たのですか? 洗礼前の子とはいえ彼も貴族としての教育を受けているのですよ? 私、初めてでしてよ? 自らクビになりたがる騎士に会うのは。どういった腹積もりなのかしら?」

「い、いえ、決して貴族様に逆らう意思はなく……」


 なかなか、手厳しいな……とはいえ、貴族が一介の騎士にナメられる訳にはいかない。そんな例を作ってしまえば、他の貴族にも迷惑が掛かるし、更に他家からも責められる。

 母も知り合いだったとはいえ、他家の貴族がいる手前、冷たくあしらうしかなかった筈だ。


 騎士のおじさんはしどろもどろになって言い訳を始めていた。

 あの馴れ馴れしい騎士は、宿の従業員からグローサー子爵家より出向いているのが母だと知ると、自分に任せろ、といって仲間が止める間もなく押し入ってしまったそうだ。


 彼は最近、他領に派遣されている騎士団から人員不足になった王都の騎士団に廻されて、浮かれていたらしい。


 ニクラスもいずれはこういう風に、上と下に挟まれて苦労するような立場になるのだろうか? と、そんな風に他人の心配をしていると、フリーデグントは俺に話を振ってきた。


「では、レオンハルト、貴方は何を見たのかしら?」

「あ、あの侯爵様、質問は我々が……い、いえ何でもありません……」


 フリーデグントは騎士を一睨みすると、彼を黙らせてしまった。


「昨日、親戚の子とその友人とで街を歩いていると、呻いている男性がいました。男は蹲ると、身体中の色々な個所が膨らんだりへこんだりした後、首が異様に長く伸びたのです。危険を感じたので自分は二人が逃げ切れる時間を稼いだ後、その場を離脱しました」

「まぁ、よく無事でしたわね。流石はグローサー子爵家といったところですか。これで満足かしら?」

「あ、いえ、その話は、第二騎士団に所属しているグローサー大隊長のご子息より伺っておりまして……警邏隊の話ではその首の長くなった男は見ておらず、彼等が駆け付けた時には、岩の様に魔獣化した人物と、黒い肌に銀の鎧の様な物をまとった魔獣化した人物がいたとのことです。魔獣化した二人が何時からいたのか、何処から来たのか、どんな様子だったのか、そういう話を伺いに来たのですが……」

「その二人は見ていませんね。力になれず申し訳ありません」

「レオ、そこは“申し訳ありません”ではなく、“残念でしたね”くらいでいいのよ? 目上の者でないのならば無暗に謝るものではないわ」

「あ、はい」

「フフ、お互い子供の教育には苦労しますわね」


 それを聞いたフリーデグントの隣に座っていたカサンドラは肩を竦め、つまらなそうに呟いた。


「グローサー子爵様、結局、彼らの処分はどういたしますの? 今後の参考の為にもお聞かせ願いたいですわ」

「カサンドラ様、騎士団員の処分は王、或いは王宮の管轄ですよ。あの場にいた私たちの誰かが報告するかどうかだけですね。今回、私は辞退しておきますけれど、どなたかが報告するのであれば爵位に関係なく引き留めは致しませんわ」

「あら、どうしてですの? 締めるべきところは締めなければ、彼らに貴族の威厳を示せませんわ。やはり、お知り合いだからでしょうか?」

「いいえ、今、王都では魔獣化事件などというものが起こっているでしょう? 彼の様な者でも多少は民の盾になるかもしれません」

「成る程……でも、それでは……」

「そうね、グローサー子爵が遠慮するというのなら、報告は私……ブルーメンタール家からしておきましょう。では、そちらも要件が終わったようですし、退場してもらいましょうか。私たちは明日の洗礼式について話し合うことがありますので」

「は……ハッ、協力、感謝いたします」


 年嵩のいった騎士は再び礼を取って、仲間と共に宿を去る。昨夜、母と共に色々と想定していた事がブルーメンタール侯爵家の登場で無駄になってしまった。


 肩を落としながら宿を去って行く騎士達を見ながら、俺は姉を攫いに来た男の言葉を思い出していた。


『――オレたちゃ別に貴族なんぞ、怖かねぇんだぜ?』


 強すぎる権力を持つ貴族に反抗するため、魔獣化組織なんてものが生まれたのだろうか?




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