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具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


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失礼な騎士


「お帰りなさいませ、フロレンティア様」

「ええ、今戻りました。イーナ、貴方たちは交代で食事を済ませてきなさい。私とレオは叔父様のところで済ませてきたから。レオは私と来なさい」


 母に命じられて、待機していたイーナとユッテ達は数人の討伐隊員を残して広間から出ていく。俺は母に続いて個室に入り、扉を閉めると母に頭をゴンと叩かれた。


「いてっ」

「全く、貴方は……心配させるのだから……」

「ご、ごめんなさい、でも、全然心配していなかったような……?」

「当然でしょう? ここは王都なのよ? 私たちは弱みを見せる訳にはいかないの、たとえ叔父様といえどもね」

「そういうものなんだ……ホントにごめんなさい」


 母は室内のテーブルに置かれた小さな鞄を探り、そこから薄い木の板を取り出すとソファに座った。


「ま、いいわ。叔父様はマグダレーネ様の名を出すだけで上手く誤魔化せたからいいとして……確かレオはニクラスたちの前で、短剣を用いて魔獣化した男に応じたのよね? その短剣はどうしたの? どこで手に入れたのかしら?」

「……これのこと?」


 ここまでくると、秘密のままにしておくのは難しいか……俺は母の目の前で鉈の様な短剣を具現化してみせた。


「それは……! もしかして、どこかから“引き寄せ”ているの?」

「引き寄せ? 違うよ、これは俺の魔力で出来ているんだけど……」

「これが魔力で……? 少し貸してもらえる?」

「うん」


 俺は刀身を手にして、柄を母に向けて手渡す。母は短剣を色々な角度から眺めやり、刀身の側面を指で叩いたりして吟味しだした。


 そして、部屋の隅に置いてある籠の中からリンゴを一つ取り出すと、宙に放り投げる。短剣を一閃させたかと思うと、もう片方の手で落ちてきたリンゴを受け取った。テーブルの上に置くとリンゴは綺麗に真っ二つに割れてしまう。


「すげぇ、母さん、それってどうやるの?」

「貴方だってお父様の下で訓練していればできるようになるわ。ま、こんなの唯の曲芸よ。敵対者も考えて行動するのだから、動けないリンゴが切れたって大した意味はないわ」


 そういって母は袖をまくり、短剣をその細い腕に当てようとした。慌てて俺は具現化を解除する。


「あら?」

「何やってんだよ、母さん! 危ないだろ!?」

「大丈夫よ、いいからもう一度やりなさい」

「ええ?」


 母に言われ再び短剣を具現化すると、奪われるように取り上げられた。そして短剣を腕に当てると、スッと引く。

 赤く線が走り、ほんの少し血が流れる。傷付いた腕を見て俺は心配になるが、母は平気そうにしていた。


「ふぅん、成る程ね……なら、こうだと?」


 再度、母は短剣を腕にあてる。今度は何か引っかかるようにして短剣が動く。肌に赤い跡がつくが、血は流れなかった。


「ふむふむ……なら、フッ!」


 何かに頷いた母が気合を入れるようにすると、その身体にうっすらと淡い水色のオーラ? の様なもので包まれる。

 そうして三度(みたび)、短剣で自身の腕を傷つけようとする……が、ギギギ、と何かが引っかかるような音がして、今度は全く傷付かなかった。


「中々のものね……もういいわよ」


 フッと淡いオーラのようなものが消えた母に短剣を返され、俺は具現化を解除した。


 母は傷付いている箇所にそっと手で触れる。少ししてから、流れた血を布で拭うと傷が付いていなかったかのように綺麗に消えてしまった。

 そうしてソファに座り直し、先ほど取り出した薄い木の板を開く。どうやら何かのファイルが挟まっているようで目を通し始めた。


「う~ん、変わった短剣だから、流石に合いそうなのが無いわね」

「母さん、何をやっているのか、さっぱりなんだけど……?」

「うん? ああ、その短剣に合う鞘が無いかと思ってね……魔獣討伐隊の所有している分も含めて目録を確認してみたのだけれど……ちょっと合いそうなのがないのよね」

「鞘? どうして鞘なんか必要なの?」

「予想なのだけど、恐らく騎士団が事情を訊きに来ると思うのよね。その時、レオの答え方次第では使用した武器の提示を求められるわよ? その能力を秘密にするのなら、あらかじめ用意しておかないと不審がられてしまうでしょう?」

「ふぅん、そういうことなら……」


 俺は鉈の様な短剣に革の鞘が付いているところを思い浮かべ、少し時間を掛けて改めて具現化を行う。母は目を丸くして驚いていた。


「これで、どう?」

「……レオ、貴方……まぁ、いいわ。それはどのくらいの時間、維持できるの? 明日の朝から用意したまま頑張れそう?」

「うん、今からこのまま残していても全然平気だよ? ただ、俺から離れ過ぎると消えちゃうけど」

「そう……そういえばエリーの破格の魔力に皆、注目しているけれど、レオも常人と比べて遥かに多い魔力量がある筈なのよね。成る程、マグダレーネ様が気に入る訳だわ。……エリーも何か特異な能力を持っているのかしらね?」


 なかなか鋭い……とはいえ姉の場合は膨大な魔力量だからな……俺やマグダレーネと違ってバレる事はないだろう。

 いや、バレても多くの人に受け入れてもらい易い、が正しいのかな?


「さぁ? それよりも、さっき短剣で自分の腕を傷つけていたのは何?」

「あれは、単にその短剣がどの程度のものなのかと思ってね。軽い身体強化だと全く防げないけど、強い身体強化でも完全に防げる訳でもない。魔紋を刻んでいる訳でもないのに、魔法効果を発揮するのは、やはり魔力で出来ているからかしら?」

「魔法効果? この短剣は、ただ魔導銀を参考にしているだけなんだけど? 魔導銀は魔力を通す金属なんでしょ?」

「……魔力を通すからといって、魔導銀だけで身体強化を破る訳ないでしょ?」

「え? そうなの?」

「まぁレオは、まだ魔術に関して学んでいる訳じゃないから、分からないのも無理はないわね……う~ん、オットー先生なら、その短剣をどういう風に考察するのか訊いてみたいわねぇ……」

「さっき会ったお爺さん?」

「ええ、あの方は学園で魔術学を教えていたの。私はあの方の下で魔術学を専攻していたのよ。どういう風に魔術を組み合わせればより効果的になるかとか、新しい魔術を創り出せないかとか……オットー先生はそういう研究をしていらしたのよ。もし私が次期領主という立場をでなければ、今頃、魔術研究に勤しんでいたのかもしれないわねぇ……」

「へぇ……」

「そんな話、今はいいわ、それよりも……」


 そうして、割と夜遅い時間まで俺は母と話し合うのだった。




 翌日、宿の一階で食堂の奥にある部屋にて昼食をとる。

 これは窓というのか壁というのか……とにかく大きなガラス戸の向こうに見える景色は、人の手によって造られた自然といった感じで、見事な庭園が広がっていた。


 母によると、夜になればライトアップがなされて、昼と夜では違った印象を受けるのだそうだ。

 そんな凝った景色を見ながら、母とともにキノコが多く乗ったピザを食べていると、宿の従業員が側にやって来た。


「お食事中のところ、失礼いたします。只今、騎士団の方たちがみえて子爵様に面会したいと申しておりますが……」

「そう、ではロビーにでも待たせておきなさい。食事を終えたら会いましょう」

「承りました。どうぞ、ごゆっくりなさってください」


 宿の従業員が去り、食事を再開していると背後が騒がしくなる。


「困ります、騎士様。こちらは当宿に宿泊されているお客様のみ利用可能となっております」

「構わん、別に食事に来たのではないのだからな。私は調査のために来ているのだ」

「いえ、そういう話ではなく……」

「お、いるではないか、フロレンティア、私だ、同窓のオーラフ・コロだ。久しいな」


 後ろを振り返ると、青と白を基調とした服を着ている茶髪の若い男が従業員と揉めていた。彼は手を振りながらズカズカと俺達の着いているテーブル席に歩み寄ってくる。

 母はそちらに目をやると、ナプキンで口元を拭い、そっと目を逸らした。


「どうした、フロレンティア? 私だ、覚えていないのか? 学園で……」

「騎士オーラフ、これ以上、私及び、騎士団への恥の上塗りは止しなさい。同窓の(よしみ)として忠告してあげるわ」

「何を言っている、フロレンティア? 私は調査のためにだな……」


 そういって、男は俺達が着いているテーブルの椅子を引き座ろうとする。そこを従業員が彼の肩を押さえ再び声を掛けた。


「お止し下さい、騎士様。こちらはグローサー子爵様がお取りになった席です。呼ばれてもいないのに、勝手にこの様な振る舞いをされては……」

「ええい、止せ、私はフロレンティアに用があるのだ!」

「騎士オーラフ、私の爵位を知っているのかしら?」

「知っているさ、子爵だろう? グローサー子爵家と言えば有名ではないか」

「そう、で、貴方の爵位は?」

「私か? 私は……騎士爵ではあるが……」

「そうなの? それ以外の爵位は? もしかすると騎士爵のみかしら? だとすると、何時から王都では一介の騎士が、爵位ある貴族に対して不敬を働いても構わないとなったの? いくら私が王都から遠く離れた田舎の貴族とはいえ、そのような変更があったのなら王宮から通達がなされる筈なのだけれど?」

「いや、そのような変更はなされてないが、私たちは先程、フロレンティアが言ったように同窓の……」

「そこまでにしておきなさい、お若いの」


 そこに一人の紳士風の老人が現れる。彼とは今朝、互いに軽く挨拶をしただけで、ベルムバッハ伯爵と名を知っているだけの間柄だ。


「ここは公式の場では無いとはいえ、宿泊客のみが利用できるという公然の場。立場をわきまえなさい」

「どなたかは存じませんが、私には騎士団としての調査があるのです。邪魔をしないでもらいたい」

「もう止しなさい、騎士オーラフ。私だけなら同窓の(よしみ)として不問に出来もしたけれど、伯爵様を巻き込んでしまっては、取り返しのつかないことになるわよ?」

「しかし、私は王都の安全を守るため……」


 更に少し離れた席で食事を摂っていた女性が、ガタッと音を立てて立ち上がりこちらに歩み寄ってきた。

 薄く青い髪を巻き上げたこの女性とはまだ挨拶も交わしていないので、名前も爵位も分からない。


「貴方、少し不快ですわ。この様に騒ぎ立てて……さっさと立ち去りなさいな。それとも、一介の騎士である貴方の様な方が、ここにいる全員の食事代を肩代わりするとでもいうのかしら? ざっと見積もっても金貨十枚はするわよ?」

「ハッ、たかが昼食代でそんなにする訳ないだろう?」

「ここまでとは……ここは食事もそうですけれど、この落ち着きのある空間を提供することも料金に含まれているのよ? そんなことも知らないだなんて、貴方の上司はどういう教育をしているのかしら? 噂では聞いていたけれど、近頃の騎士は質が落ちているという話は本当のようね。嘆かわしいことだわ」

「いや、私は任務を忠実に行おうと……」

「だから、ここの従業員から聞いたのではなくて? グローサー子爵が食事を終えるまでロビーで待て、と。別に貴方に合わないと言っている訳でもないでしょうに……何をそんなに焦っているのかしら?」


 なんだか面倒な事になってきたなぁ……

 この宿に泊まっている貴族は、俺達を含め五組しかいない。周りをそっと見てみると、食事をとっていた貴族の連中はこちらに注目していた。


 ここは貴族が食事をとる場所となっている。それぞれの護衛や使用人は、この部屋の手前の大きな食堂で食事をとる事になっているので、この場にはいない。

 護衛や使用人を側に付けなくても、貴族が食事を提供される事を許している。それだけ、この宿は貴族に信頼されているという訳だ。


 俺と同じく洗礼式を受けるであろう子供達は、何が起きているだろう? と不思議そうな表情だが、大人達は眉をしかめ不快感を表していた。


「周りを見てみなさい。数少ないとはいえグローサー子爵女史が、君が不敬を働いた、と訴えれば、我らはその証言を正しかったと報告することもできるのだよ? この場にいる子供たちも数日で洗礼式を終え、正式な貴族になれば数は単純に倍です。ここまで言って意味が解らないのであれば、然るべき手段に出るしかないですね」

「わ、私はただ、王都で起きている事件の手掛かりを少しでも掴めないかと……フ、フロレンティア……」


 伯爵に説き伏せられた騎士は情けない顔をして、母に救いを求める。


「なら、今はこの場を去りなさい。訴えるかどうかは後で決めます」

「だ、だが……」

「往生際が悪いわねぇ……貴方、こちらの騎士はお帰りだそうよ?」

「は、はい。さ、騎士様こちらです」


 従業員に連れられて、騎士はこの場を去った。母は別の従業員を手招きすると、彼女に告げる。


「皆様にかけた迷惑料として、グローサー家がこの場を持ちます。計上をうちに付けておいてくれるかしら?」

「い、いえ、手前どもの落ち度でございます。ここは皆様への料金を割り引かせて頂かなければ……」

「私たちからすればどちらも同じことだし、はした金額だけれど、ここはグローサー家の面子を立ててあげなさいな。貴方たちもその方が助かるでしょう?」

「は、はい。では子爵様のご厚意に甘えさせて頂きます。この度は誠に申し訳ありませんでした」


 そういって従業員は深々と頭を下げて食堂を出ていき、老伯爵も自分の席に戻る。しかし、薄く青い髪をした女性は微笑みを浮かべその場に留まっていた。


「ほんの少しだけ、お時間をいただけるかしら、フロレンティア様?」

「え、ええ……」

「あ、私は個人的にフロレンティア様を知っているのだけれど、フロレンティア様は私のことを知らないわよね。私はブルーメンタール侯爵家のフリーデグントですわ」


 彼女はこの国で八大侯爵と呼ばれ、貴族の中でも最も権力があるとされる、侯爵家の人物だった。




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