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その1「めざせイエス」

 僕らがなぜ新興宗教をつくるのかというと、理由はお金と女の子である。


 いや、もちろん、みんなの幸せも目指してる。

 でも幸せには、お金と女の子は絶対必要だと思うのだ。


「腹が……へった」


 ぽかぽかの晴れた日。大田区の住宅街はずれの公園ベンチ。

 僕は飢えていた。

 現代日本でふつう人は飢えない。だけど僕はふつうの人間ではない。

 ホームレスだ。

 だから宗教で稼ぐと決めた。

 だって新興宗教の教祖は儲かる。女の子にモテる。悟っててなんか幸せそう。

 じつに完璧な理屈である。


 ……本当にそうだろうか?


「いや、やはりお布施だけで稼ぐ作戦は無理があったかもしれない」

「むりがあったかー」

 と、隣で僕と同じく飢えているロリっ子が返事をした。

 こいつの名前は新洞リル。

 水色の髪、水色の瞳、水色のワンピースを着た、教祖だ。そう教祖だ。教祖なだけあって、僕以上に頭がおかしい。どのへんがおかしいかというと、住所どころか日本国籍すら持ってないあたりか。外見は北欧っぽいが日本語しか話せないので超謎だ。

 国籍年齢不詳、性別たぶん女という正体不明系女子。

 実年齢は知らないけど、教祖だし悟ってるし小5ロリに違いない。

 たぶん天敵は警察と入国管理局である。


「お布施だけで生活して、みんなに『宗教ってすごい!』って思わせたいのにー」

 正体不明の小5ロリが、不審なことをつぶやいた。

「それは『お笑い芸人の懸賞金生活すごい!』と同じニュアンスだが」

「いい。お笑いと宗教は、イエス様とゼウス様ぐらい、にてる」

 バチカン法王が聞いたら怒りのあまり卒倒しそうなセリフである。

「あ! まさき、あそこに新鮮な信者候補さんをはっけん!」

 と、リルがタタっとベンチを飛び出した。

 ちなみにまさきとは僕のことだ。野々村正樹。

 リルは舌足らずなのでひらがなにしか聞こえない。

「マジか。お金持ってそうか?」

 僕がアラブの石油王またはビットコイン長者を期待して行く手を見ると、そこには赤いランドセルを背負ったかわいいリボン少女が立っていた。いかにもロリコンに誘拐されそうな外見だ。


 最悪である。


「ねえねえ、わたしのしあわせのために信者になってください!」

「は……はいっ?」

 まずい。事案化3秒前。

「てい、ハートブレイクショット!」

「はぐふう!?」

 僕は倒れたリルを肩にかつぐと誘拐未遂を受けたリボン少女に会釈する。

「ごめんね警察だけは勘弁してね怪しいものじゃないからね」

「え……ええー?」


 リボン少女が混乱している隙にベンチに戻った。

 リルもすぐ復活。こいつの肉体能力はわりと人間を超えてたりする。

「うー、はなす、はなす! せっかく、このみの子だったのにー!」

 リルはロリコンである。

 本人がロリっ子のくせに小学生が大好きなのだ。抱きついてキスしたりする。

 そんなにロリが好きなら鏡にでもキスすればいいのに。


「だまれペドロリアン。捕まりたいのか」

「ぺどろりあん……おいしそう……ごくり」

「ああいう子は最近みんな防犯ブザー持ってるんだぞ。もっとターゲットを選べ」

「なんと。せちがらい。こんな世の中にだれがしたー!」

「おもに僕とかリルみたいなやつだなー」

 

 またベンチに座って僕とリルは青空を仰ぐ。

 まったく、世の中はせちがらい。

 宗教を立ち上げて、教祖に神秘的な少5ロリ・リルを据えたまではよかったのに。

 現状、信者は僕一人。日本一の弱小教団だ。

 これでは飢えて死んでしまう。

 信仰だけでは腹はふくれないのだ。

 なんとしても――新しい信者さんを、確保しなければ。


「よいかんがえがある!」

「小学校に潜入する案なら却下だぞ」

「うー、こんどはちがう。近所の高校にする」

「ふむ。ならばよし」


 高校生は確かにねらいめだと僕も思っていた。大学受験のストレスにまみれた女子高生を宗教で救うのである。それに女子高生って援助交際とかでお金を持ってそう(偏見)。そのうえ頭がハッピーで宗教に走りやすそう(暴論)。


「さっそく潜入用に制服を手に入れよう」

「ふふん、じつはもうある」

 リルがとくいげな顔でセーラー服と男もの学生服を取り出した。

「マジか。えらいぞリル」

 こういうときは入手方法を聞かないでおくのが長生きするコツだ。

 教祖らしく奇跡を起こしたと考えておこう。リルの場合マジで奇跡かもしれないし。

「えへへー。もっとほめる。ほめる」

 リルによしよしとする。猫みたいにゴロゴロと鳴きはじめた。

 ロリコンなら歓喜するしぐさだが、あいにく僕はロリコンではない。

 具体的には、女子高生とか大好きだ。

 特におっぱいの大きいおとなしい子とか超大好きだ。

「よしさっそく潜入だ。じょしこ……もとい、信者をたくさん集めるぞ!」

「あつめるぞー!」

 二人でガッツポーズしてから公園のトイレで制服に着替えた。

 向かうは徒歩5分の高校である。

「信者あつめきょうそうだー!」

 スキップするように歩きだすリルと僕だった。


 宗教でみんなを幸せにしつつ、自分たちも幸せになる。

 僕とリルは本気でそうするつもりだし、できると信じている。

 信じるものは救われる。

 幸せめざして、がんばって宗教をつくっていこう。


「いざゆかーん! めざせイエス!」

「それ教会の近くでは絶対言うなよ」

1~3話を本日掲載し、その後、毎日1話ずつ投稿する予定です。

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