私をはじまりの街につれてって
「それにしてもこの紅茶、美味しいねぇ!どこの茶葉?」
「『さんがつうさぎ』なるものをころしたら、おちていました」
新発見アイテムには鑑定、これが僕のポリシー。
『三月兎印の茶葉』:『三月兎』のドロップアイテム。一缶で364日間のお茶会を続行可能。
どこかでお茶会を開けなくて困っている御仁がいるんだろうなあ。
「VRゲームでは最初に『チュートリアル』と『アバター作成』があると聞いていたのだが・・・」
機械兵はこの草原に来るまでの経緯を語り始めた。
「ゲーム機の起動と共に薄暗い洞穴で目を覚ました。その時にはもうこの姿だった」
この時点でもう僕らと違う。普通は真っ白な背景の空間で『チュートリアル』をうけ、
『アバター作成』を行うのだ。そして完了次第『はじまりの街』に転送される。
「ロボがゲームをプレイする事を想定してなくてバグったか、
あるいは種族『機械人形』に固定される、とか?」
バグなら運営に問い合わせするべきか。でもあの運営基本的に放任主義だからな。この世界もほぼAIに丸投げして自動生成したなんて噂がある。バグも致命的なものでなければ黙殺されるのがオチだろう。
「にんげんの『あばたー』をつくって、ねんがんの『じんけん』をてにいれられるとおもったのに」
この世界でも人権は得られないようです。ロボの悲しき宿命だった。
「とりあえずほらあなをでようとして、くろいはこにつまずきました」
「・・・なんでその棺桶を持ち歩こうと思ったの?」
「・・・かんおけ?」
もしかしてただの箱だと思っていたのか?
「『箱』を粗末にしてはならないと主は常々口にしていた。中古品を販売する時に無いと困るらしい。
絶対に捨ててはならないと・・・」
「それは製品パッケージじゃなくて、ヒトの死体を入れる箱だよ。棺桶っていう」
「にんげんようぱっけーじですね」
こいつに倫理観など無いのだった。もう追求するまい。
「うごかなくなったひとがはいっているんですね。でもたまにこえがしますよ?」
この話題もう止めない?怖い。
「『魔石を捧げよ』『経験を積むのだ』等、注文してくる。私はてっきりこれが『チュートリアル』
のアナウンスだと思っていたのだが」
「僕の知ってるチュートリアルと違う・・・」
「まあ他に明確な指針もないし、しばらくはこの声に従うことにしたのだ」
これ大丈夫かなあ・・・
「ある日こんな声が聞こえた。『はじまりの街に入れ』と」
しかし機械兵が街に入れてもらえるはずもなく。
「もんばんというかたは、とてもつよかったのです」
強行突破もままならず、即時撤退したのだった。
「レベルが高ければひれ伏して通してくれるのではないかと思い、この草原にてレベル上げに励んでいたのだ。あれからレベルは20程上がったから、次は成功するだろう」
恫喝目的で健気にレベル上げをしていたのか・・・努力の方向が明後日にいっちゃってませんかね?
しかしこの短期間で20もレベルをあげるとは、相当入り浸ってないと不可能だろう。
それこそログアウトせず不眠不休で。
基本VRゲームでは現実の食事や睡眠、排泄に影響を及ぼさないよう、
ログイン時間に制限が設けられている。それが過ぎると『強制ログアウト』をくらうことになる。
・・・はずなのだが、ロボには作動しないシステムなのだろうか?
しかし、このままだとマズい気がするな。別に次のアタックの失敗を懸念しているわけではない。
門番は基本守りに徹するものだから、機械兵は失敗してもまた撤退するだけだ。
ただ、これを繰り返せばいずれこいつのレベルは手に負えないほど上がり、
いつか必ず『成功してしまう』だろう。討伐は不可能だと今回証明されたことであるし。
むしろ『成功してしまった』パターンが一番マズいのだ。
門番や街の人間(NPC)はプレイヤーと違って・・・死んでも蘇生しない。
門番は確実に、そして機械兵を撃退しようとした人々は間違いなく殺される。
さっきの戦闘をみればわかる。こいつは絶対に躊躇しない。
故に『敵対者』として街に入ることを、僕は看過できない。
僕のような生産職にとって、全ての人間は大事なお客様なのだから。
「君、街に入った後は、どうするつもり?」
「さあ?しじがありませんので」
「後々の事を考えると、相手をレベルで屈服させて反感を買うと、次の命令の遂行に支障をきたす可能性は無いかな?・・・たとえば『街の人と仲良くしよう』、とか」
「・・・無いとは言い切れないな」
「でしょー?穏便にすませようじゃない!とりあえず街に入ればいいんだろう?」
「そんな方法が?」
「君は機械だろう?分解してパーツにして運び込めばいいのさ!」