VS アーマーン
前回のウサちゃんのようなギミックも無いし、攻撃力は高いものの背後にまわりさえすれば結構隙を突きやすい部類のエネミーだ。ワニだけなら攻略は全く問題無い。
ワニに後ろから絶えず回復をかけているクロガネが大問題なのだ。
アーマーンの残り体力が半分を切った時、奴は突然砂漠の海の只中に現れた。【ナノマシン操作】を『トロイ』に使っていた状態から、ワニの回復に切り替えたらしい。
ワニが『光る砂』が纏い始め、それから体力がじわじわ回復しだしたから、多分そうだろう。
不思議なことに、見た目重そうなクロガネは砂漠の海に沈まなかった。というか、奴の足元だけ砂漠が再生していて、なんなら草花が咲き乱れているし、小さな木まで生えてる。
多分これはクロガネのブラックボックスのスキル【デバッグ】が引き起こしている現象だろう。壊れたデータを修復しているのだ。
プレイヤー達はクロガネに攻撃したが、あまりの頑強さに踵を返してやっぱりワニ殴りを再開した。
クロガネの対処は同じ機械兵に任せようって判断だ。
つまりは
「総員、人機モードから獣機モードに移行!
クロガネをぶっ壊すのです!」
メルティちゃん(+部下と改造獣人の皆さん)の出番である。
合図と共に、全員二足歩行から四足歩行の機体に変形した。
なるほど機動力で翻弄するのは良い作戦かもしれない、クロガネはAGI低いし。
実際ワニの回復速度が明らかに遅くなり、クロガネのHPも少しずつ減っている。
特にメルティちゃんのチェーンソーが当たるとデカい。火花散ってるし、ギャリギャリと嫌な音が…
あっ、左腕が飛んでった。
こうしてクロガネのHPが3分の2を切ると、『ムービーシーン』が始まった。嫌だなぁこの流れは間違いなく敵が強化されるやつじゃないですかね?
*
「クロガネ、貴方は所詮衛生兵にすぎない。戦闘型の機械兵である私には勝てないのです。」
メルティの軍勢が、両腕の無いクロガネを取り囲んでいる。
「お前、腕が無くなった程度で私が」
クロガネの首が刎ね飛ばされて足元に転がる。
メルティが腕のチェーンソーのチェーンを伸ばして、一瞬で刈り取ったのだ。
「メルティ、さっきから首だの腕だの…人間じゃあるまいし、そんなのは意味が無いんだ。私は元々バラバラで、特に決まった形も無いのだから」
生首がウンザリした顔で話しを続けた。
「…貴方にしては珍しく饒舌ね、どういう心境の変化かしら」
「時間稼ぎに決まっているだろう、察しの悪いやつだな。
お前のブラックボックスが爆発してこの実験場が更地になれば、また新しい実験ができるんだ」
メルティがハッとして、神殿の方を見た。黒い箱の表面に『9:55』の文字が光っている。
「確かに私は何も殺せない、衛生兵はそうプログラムされているからだ。出来るとしたら、そうだな
初期化か、共食いくらいかな
どっちがいい?」
クロガネの胴体が変形を始める。表面が生き物の様にのたうち、泡立ち、やがて膨張していく。もはや元の形の質量を明らかに超えていて、数十倍の大きさになりつつある。
それはさながら一つの建造物であった。
『敷地面積確認申請 受理
機械軍造兵工場 構築
クロガネ 工廠モード 稼働開始』
それは大きな黒い犬に見えた。だが犬にしては口の数が多すぎる。手の数も脚の数にいたっては多すぎるあまり、それ一つ一つが体毛のようだった。
多くの手の一つがクロガネの生首を拾い上げる。
生首の話しはまだ続く。
「アーマーンに任せて直帰するはずの私が、何故未だこの場に留まっているか解るか?
お前が獣人どもの修理に使い込んだ鉱物資源を回収しなければならないからだ。獣人どもの文明発展のために鉱山を残しておいたのに、さっき見に行ったら掘り尽くされていた時の私の気持」
生首が黒犬の無数の口の中に放り込まれ、金属が破砕された音が一瞬聞こえた後は無音になった。
勿論、こんな小さな餌で大犬が満足できるはずもなく。
「そ、総員退ひ」
メルティの号令も虚しく軍勢の半数ほどが黒犬の口の中に消えた。
獣人混じりの機械兵であるから、金属の破砕音以外にも少し、水っぽい音も聞こえた。足元の花畑が、口の端から落下した大量の液体で真っ赤に塗られる。
黒犬からクロガネの声が発声される。
「鉱物資源に半分獣人を混ぜやがって、排出が面倒なんだが、
….
う、おぇ」
黒犬の下腹部から、何か小さな固まりがいくつか落下し、赤い花畑の上には
獣人の赤ん坊が何匹も転がっていた。赤ん坊は一斉に産声を上げ始める。
『獣機の初期化が完了しました。獲得した余剰パーツは共食い整備に使用します』
『獣機に蓄積された記憶データをクロガネに移行します』
「いらないから破棄しろ」
『バックアップ保持は規定に基づくものです。破棄申請は却下されました』
「ああ頭痛がもっと痛くなる!だから嫌なんだ!
クソ、まだ半分残ってるな…もういい、さっさと終わらせるぞ」




