おや?機械兵のようすが・・・
奇襲(笑)の号令は機械兵の耳にもしっかり届いたようだ。
ダークラビットを魔石に変える『作業』を止めて、伏せていた顔をこちらに向ける。とはいえ頭部は騎士の兜のような金属で覆われていたので、
顔らしい顔は見えない。ただ、兜の隙間の暗闇に赤く光る『目』は確かにこちらを
見ていた。そして、ダークラビットと、今にも襲い掛からんとしている相手とを交互に見やり・・・
『作業』に戻っていった。
「はぁ!?」
「このロボ、舐めたマネを・・・!」
切り込み隊長アート君の怒りの一撃が炸裂する。
攻撃力の高い戦闘職『サムライ』のスキル『釣瓶落とし』は一定の確立で相手を即死させる効果がある。
もっとも『アヴァロン』の平均レベルは20、相手とのレベル差は10程度あるから、即死はまず発生しないだろう。しかし即死にならなくとも威力は凄まじく、僕が喰らったら一撃で死ぬだろう。やっぱ即死じゃん。
そんな攻撃が機械兵の首に直撃したが、表示されているHPは一割も削れていなかった。
そして攻撃した拍子に、偶然刀が兜のフェイスガードを弾いたのか、
兜の下の『人の顔』が露わになった。
その顔は恐怖と苦痛に満ち、怯えきった声で、こう言った。
「ひとごろし」
「・・・!」
この言葉に、ひるまない人間がいるだろうか?
真実味に溢れた表情で、声音で。
演技で。
「わたしとおなじ、」
機械兵はさっきの出来事が無かったかのように今は笑顔で、棺桶を、
完全に隙を見せたアート君めがけて横薙ぎに振りぬいた。
機械兵は偶然などではなく、人として当たり前の感情につけ込むべく、意図的に顔を見せたのだった。
人間と同じか、或いはそれ以上の性質の悪さだ。
第一犠牲者は綺麗な放物線を描いて飛んでいき、
・・・僕は指示通り、かっこよく散っていったアート君を撮影した。
(いい画が撮れたぜ)と親指を立ててグッドサインを送っておく。
(違う、そうじゃない)と彼の目線が訴えていた気がしたのは僕の考えすぎだろう。
HPは0、戦闘不能でアート君ははじまりの街に転送されていった。
アート君亡き今、現場に残されたのは彼の愛刀、『菊一文字』だけだった。
デスペナルティでよりによって一番大事な武器を落とすとは・・・
機械兵はというと、ちょっと変だった。
アート君が刀を残して忽然と消えたことにとても驚いたようすで、
今は探るように落ちた刀を指先でつついている。
この反応は・・・僕は一つの可能性に思い至ったが、確証が無いので黙っておく。
ちょうど『ローグ』職のモルガナさんが一人で奇襲をかけようとしているし。
このどさくさに紛れて上手く『隠密』状態に持ち込めたようだ、背後に回りこんだ
モルガナさんに機械兵は全く気がついていない。というかまだ刀を弄っている。
モルガナさんはもちろん無言で、風の速さで距離をつめる。
機械兵の首を後ろから右腕で抱え、左手のナイフで肩の接合部を狙う。
確かに機械の一番脆いであろう部分だし、首を絞められ身動きが取れず、防げないだろう。
首が180度回りでもすれば、この体勢から反転して逃れられるだろうけど。
・・・あっ(察し)
機械兵は首以外を反転させると、モルガナさんに蹴りをいれて引き剥がした。
真後ろを向いたままの首を体の向きに合わせて戻しつつ、言った。
「それ、わたしもならいました。たしかこうやって」
倒れたモルガナさんに同じお返しをしようとしているようだ。
「こう!・・・あれ?」
が、ちょっと力をいれすぎたらしい。モルガナさんの首が捻じ切れた。