おニューの傘と未知との遭遇
やあ、どうもハゼルです。ただいまVRゲーム『Toybox Online meta-β(通称TOmβ)』をプレイ中です。
『お墓』なんて縁起でもない通称だと思うでしょ?
このゲーム制作チームの主任だか何だかがゲーム開発中の事故でお亡くなりになっているらしいから
的外れってわけでもないんだよね。その後は副主任がゲームを完成に漕ぎ着け、
「主任がいたのならこのゲームはより素晴らしい作品になったのに」とお悔やみの言葉を述べている。
なんだかきな臭いゲームだけども、人気を博した前作『Toybox Online α』の正式な続編でもあるし、プレイヤー人口は数千万人に及ぶ盛況ぶりである。それはさておき。
はじまりの街『パンドラ』でNPC(運営側のAI)におニューの傘を自慢しようと、ギルドハウスから逃げ・・・
飛び出したはいいもの、『疾風の下駄』が思った以上に疾風すぎた。気づいたら街の城門の外だった。
途中誰かにぶつかった気がしないでもないけど、僕はちゃんと歩道を歩いていたはずだから僕は悪くないだろう。
アイテム欄からマップを選んで現在地を確認する。なんとはじまりの草原『缶蹴り草原』の端、もう少しで『ドリンキングバード湿地帯』に突入するところだった。あっぶね。僕のレベルはまだ15、非戦闘職で湿地帯をソロ攻略なんて無謀にも程がある。少し言い訳をさせてもらうと、このゲーム自体先月稼動し始めたばかりで、一番このゲームを進めているいわゆる『攻略組』はおよそレベル20。僕のレベルがそんなに低くないとご理解いただけただろうか?
よし、街に帰ろう。でもギルメンどもの頭が冷える時間が欲しいからゆっくり帰ろう。怖いとか思ってない。
『疾風の下駄』装備を外そうとして、ふと視界に異様なものが映る。
まず、人影が見えた。そこまでは普通だ、フィールド上には僕以外にも他プレイヤーがいるのだから。
しかし、随分と変わった装備だ。一見黒い鎧を装備している『ダークナイト』職のプレイヤー
に見えるが、鎧を着込んでいるというにはその体躯は異様に細かったのだ。金属の防具を纏っているというより、むしろ体が金属で出来ているような・・・そこまで思考を巡らせて、僕は街のNPC達の間でまことしやかに語られるとある伝承を思い出した。この世界の何処かに存在する『機械兵の国』の話だ。
*
その国にはブリキでできた兵隊達が住まい、それらを従えるのは機械の神である。
彼らに寿命は存在せず、我らが生まれるより遥か昔に機械の神に産み落とされ、この世界の礎を築いた。
我らに世界の管理を任せると兵隊達は何処かに去り、機械の神は眠りについた。
しかし我らの成した業は彼らの意向に沿うものでは無かった。
彼らはいつの日か火を噴く筒を携えて、我ら魔法文明に生きるもの達を駆逐し、新たな文明を築くであろう。