next stage
『《時計仕掛けの黒兎》が討伐されました』
さすが鐚ちゃん仕事が速い。
僕の機動力だとウサギ相手に攻撃はかすりもしないから、こういう場面だと頼りきりにならざるを得ないんだよね。
それに僕は僕で今すっごく『分解』したくてたまらないものがある。新しいスキルが手に入るとすぐに試したくなる気持ち、わかるよね?
「わかりますよ、ええ。わかりますとも」
「わかってくれるか!+3!」
というわけで+3に【精密機械】スキルを発動した
・・・・あれ?構造がなにも理解できないぞ?
「スキルレベルがたりないとおもわれます。レベルをあげてでなおしてください。」
「うーん残念。まあ今のは冗談みたいなものだから、」
「まじのかおでしたが・・・」
「本命は別のだよ。」
実ははじまりの草原の端にマンホールみたいな金属製の蓋があるのを以前僕は見つけてたのだが。ちなみにこれ知ってるプレイヤーは割といるし、考察スレもいくつか立ったんだけどついぞ正体は解明されずじまいであった。
「・・・それがなにか?」
「いや今日の『口からプレゼント』を見て思いついたんだけど、あのマンホールもどっかに繋がってる『転送装置』なんじゃないかと。第二ステージの入り口ってやつ?」
「・・・まさかそれをぶんかいしようとしているのですかあなたは?」
「そのせいで緊急メンテナンスが開始されたり、アカウント消されたり・・・したら、ふへへ、僕は数日間爆笑し続けられる自信があるよ!それってとても幸せなことじゃない?ふへへへ!」
+3がなぜかどん引きしてるけど、まあいいや。
マンホールまでのんびり歩いてく間手持ち無沙汰だったのでさっきバラした知恵の輪を元通りに戻しておく。こういうのって外したあと元に戻せないと完全に理解したとは言えないんだよね。
・・・2秒ジャスト、まあまあのタイムかな。
『生産スキル【精密機械Lv.2】を取得しました。』
こういうアクションに仕込むとこがまたいやらしいよな。きっと次に会った時【精密機械Lv.1】のままだったらすげー馬鹿にするつもりだったんじゃないかアイツ。
なんてことを考えていたから、ってわけじゃないと思うが。
「思ったより大分早い到着だな。少し待ってもらえるか、もうすぐ解放し終える」
機械兵が例のマンホールの横に立っていた。首の後ろから電源ケーブルのような黒いチューブがのびており、それはマンホールの蓋にあいている穴につながっていた。あれプラグ穴だったのか。
何か作業中らしいから話かけずにおこう。僕はただ分解したいだけだし。
んじゃスキル発動しまーす!
『ポータル』:二箇所以上に設置する事で異なるポータル間を行き来できるようになる装置。
『【精密機械】スキル発動により秘匿情報が開示されました。』
___【精密機械Lv.10】で分解・作成が可能。
うーん残念、こっちもレベルが足りないっぽい。
「おい、今分解しようとしたな?」
首根っこを掴まれたので見上げると機械兵が呆れを多分に含んだ顔でこちらを見ていた。・・・望みは薄いが一応機械兵にもスキル発動。
あっ。
「ふへへ、つい出来心で!ごめん、『クロガネ』」
『【精密機械】スキル発動により秘匿情報が開示されました。』
___
クロガネ Lv.40
職業 機械国軍衛生兵 第一実験場管理者
いやまさか名前が判明するとはおもわなかった。あと本職。
作業が終わったらしいクロガネは接続を切ると、僕を引きずりながらポータルから距離をとった。
金属の蓋が消失し、真っ暗な穴から金色の塔がせり出して来た。現実世界のオベリスクに似たオブジェだ。オブジェは光を放ち始め、やがて天まで届く光の柱を形成した。これならどのプレイヤーもこの場所に気づいて集まってくるだろう。
『ポータル《第二実験場》が解放されました』
クロガネは僕を地面に放ると踵を返してポータルに向かって歩き出した。早速『第二実験場』とやらに行くらしい。
「+3は連れていかないのかい?」
「せっかく切除したバグをまた統合するわけないだろ。まったく、何処の野良AIか知らないが他所様のシステムを乗っ取るとは」
「のらじゃないです。ちょっとあそびにきただけでのっとるつもりもないです」
言い訳はもう結構、とばかりに左手を軽く振るとクロガネは光の柱の中に消えていった。
「なあ+3、次の舞台は『第二実験場』という場所らしいね」
「そうですね、たのしみです」
「・・・『第一』実験場ってどこなんだろうな」
「わかりきったことをききますね」
僕達は第一実験場の草原で互いに顔を見合わせた。横では光の柱がきらきらと輝いている。
光が照らす+3の顔はこちらをみて笑っている。どういう類の笑顔かは知らないが、
「機械兵が人類をどういう目で見てるのかわかったよ」