なんということをしてくれたのでしょう
「+3ありがとう!助かったよ。ていうかその棺桶は投擲武器なの?」
「【盾術】スキル『天罰』ですね」
罰が下るべきはこいつなんじゃないかな。
そんな罰当たりな攻撃を喰らったウサ公といえば、前足が折れたことで一歩も動けなくなっていた。
ケイオスラビット 【出血状態】
あ、これは僕の傘のせいだね。継続ダメージが入るので、黒い雨を相殺することは出来てるな。
しかし機械兵は遠距離攻撃の手段があったのか。ということは、
「・・・もしかして僕、囮になる必要なかったり?」
「・・・・・・ふふっ」
「嘲りに満ちた笑いやめて!」
まじで腕折り損である。
「こうかんどは、あがったとおもいますよ・・・ふふ」
僕はそういうゲームしにきてないからな!
「ところでお前達、『声』の指令を無視して行動してるけど、いいの?」
まちをほろぼすもまもるも、ひとのわざ、じゃなかったか。
+3はきょとんとしている。
「わたしたち、まちをほろぼしても、まもってもいませんよ」
「いや、ウサ公に攻撃したろ。あれは街を、守るため・・・じゃないのか?」
「あのままでは、みぐるしいので。『ちょうきょう』がいるのです」
そのとき、ばきん、と神経を逆撫でするような音がした。
ケイオスラビットの背骨が機械兵の棺桶の殴打によりへし折れた。
どう、と倒れ伏すケイオスラビット。回復手段を絶たれ、もう二度と起き上がることも・・・
ケイオスラビット HP 1/5790
・・・何だこの残り体力。わざと残したみたいじゃないか?
動かぬ巨大ウサギの背の上に機械兵はぽつんと立っていた。
今更だが+3が居なくても元の姿に戻れるのか・・・と思ったが右腕が無くなっていた。+3は右腕担当だったようだ。奴は戦いは終わったとばかりに、左腕を使い棺桶をベルトのようなもので自らの背中に固定した。
おい、まだHP1残って・・・まさか、まさか。
*
なぜHP1になったケイオスラビットにプレイヤーは攻撃しなかったのか?
攻撃できなかったのである。
HP1になった瞬間、『ムービーシーン』、次のイベントが挿入されてしまったのだ。いかなるプレイヤーもムービーシーンに行動することは不可能である。ゲームシステムには逆らえないのだ。
ムービーは以下のような内容である。
微動だにしなかった機械兵がびくり、と体を震わせた。人が体の内の痛みにたえるような仕草だった。苦痛から逃れるように背を反らす、そして。
機械兵の胴体が縦に亀裂を走らせながら裂け、肋骨がとびだした。正確には肋骨のような金属片が胴の亀裂を押し広げるように、花が咲く如く開いた。機械兵は左腕でその肋骨の一本をおもむろに引き抜いた。引き抜き終えると同時に胴の亀裂は逆再生の映像を見ているかのように、元の傷一つ無い体に戻っていく。残されたのは左手の中でキラリと輝く肋骨のみであった。
機械兵はそれを振り上げ、その切っ先は躊躇い無くケイオスラビットの背に突き刺さり・・・うずもれ、埋まり、見えなくなった。
機械兵は仕事は終えたとばかりにウサギの背から飛び降り、地面に着地するとスタスタとその場を後にする。背後のケイオスラビットの雄たけびも、その体が金属音をたてながら『機械』と化していくようすも、機械兵にとっては最後まで見届ける必要もない。当然の結果であったから、振り向きもしなかった。