VS ケイオススライム 決着
「ふざけんな!一ヶ月プレイしてぶっちゃけα時代の方が良かったんじゃね?まあまだ序盤だし最初のボス戦に期待だなとか思ってた矢先!この仕打ち!時間と予算が足りなかったの?一ヶ月もあっただろうが!割と課金要素あったろうが!もういやだ、こんなボス見たくない僕もうおうち帰る!・・・まてよ、スライムは実は陽動でウサちゃんの方が本命という可能性が・・・?きっとそうだ。そうと決まれば街の正門前に」
一方的に捲くし立てながら平然とこの場を後にしようと下駄を履きかえる男に
慌てたのは周囲のプレイヤー達である。どんな人格破綻者であろうがこの場において少ない勝ちの芽を、希望をもたらしたのだ。はいさよならでは困る。
「なあハゼルさん!今から大魔法を撃つ間だけでいい!盾になってくれ!もうタンクがいないんだ」
「いやあ僕そういうの興味ないんで・・・」
と無慈悲に断ろうとした彼の左袖が、くい、と引かれた。
何かと思いそちらを見る、見てしまった。
今までないくらい間近で。懇願するような、僅かに潤んだ瞳を。
呪文の詠唱を中断するわけにもいかず、言葉でなくその瞳と表情で、真っ直ぐにこちらを見つめ
カテリーナその人が「いかないで」と訴えていた。
男は膝から崩れ落ちた。彼にとってそれほどの破壊力だった。
「・・・」
カテリーナ含め周りのプレイヤーはおろおろと様子を窺うが、どうやら『処理落ち』してしまったらしく、何の反応も示さない。
それを好機とみたのはスライムのみだった。不定形の体から明確な殺意と共に巨大な触腕を伸ばし、蹲る男に対し横薙ぎに振るう。
「危ない!」
男の周囲のプレイヤーは巻き添えを避けようと逃げをうつが、悲しいかな魔法職の移動速度などたかが知れていた。
ばつん。
触腕が男の傘に触れるやいなや、爆発し千切れとんだ。
「・・・そうだ、カテリーナちゃんが居るってだけでこのゲームをやる価値は十分あるじゃないか・・・はは、簡単な事だった。僕はここに何をしにきた?そうだよ」
再び正常に作動しはじめ・・・たのかはおおいに怪しいが男はゆっくりと立ち上がった。
爆発にはまるで気づかなかったようすで、笑顔を浮かべながら
「カテリーナちゃん!動画撮らせてください!」
彼を知らない者にとっては一連の奇行に唖然とするばかりだが、この一ヶ月で彼の人となりについてある程度理解の有る者は、この発言が『参加を承認する』旨を伝えているとわかるだろう。
そして詠唱は無事完了した。
HP 0/5790
『ケイオススライムを討伐しました』
『ケイオススライムの魔石を手に入れました』
『???が10上昇しました』