Oracle:01
「ようやく街に入れたな」
機械兵の話が正しければ、街に入った時点で『謎の声』から次の命令が下されるらしいのだが・・・
「・・・・・・・・・は?」
「?おい、大丈夫かい」
しばし呆然とした様子の機械兵だったが、やがてこちらに顔を向けた。それは困惑に満ちていた
「めいれいのいみがわかりません・・・おかしいですこんなの」
「何て言われたんだ?一言一句違わず教えてくれ」
その時だった。
『1号がアイテムストレージから取り出されました』
『2号がアイテムストレージから取り出されました』
『V3がアイテムストレージから取り出されました』
僕のアイテムストレージから『三つのアイテム』が突然消失した。
まわりを見渡しても奴らの姿はどこにも無かった。
「『データとして』消えたってことか・・・?なあ、あいつら三体がどっか行ったっぽいんだが」
「でしたら、わたしとはちがうめいれいがだされたのでしょう」
どうやら4号は他三体に下された命令については把握してないようだ。
でもそれっておかしくないか?元は同じ一つの体だったのに。
「それより、はぜるさん。まちは『せーふえりあ』だときいているのですが」
「ああ。この街で戦闘行為は基本行えない。したら衛兵に捕まる。
『決闘』だけなら出来るがね」
「・・・ああ、『けっとう』すればいいんですね!
『はじまりのまちにきたるわざわいにそなえよ。ただしまちをほろぼすもまもるも、ひとのわざ』
なんていわれたから『せーふえりあ』でどうたたかえというのだと・・・」
その場に居た全員が静止した。
これは。もしや。ついに・・・『物語』が、動くのか。
視線をまわりに彷徨わせて、ふと、カテリーナちゃんと目が合う。
彼女も覚悟を決めたように、一つ頷いてみせた。
「始まるんですね、『都市防衛戦』が・・・!」
*
「しかし、スライムの薄皮とダークラビットの耳軟骨なんかで本当にロボが作れるもんかね?」
「お前、ここまで集めておいて今更それ言うのかよ」
「いやさっきまでテンション高めで気づかんかったが、だんだん冷静になってきてよ」
「ハゼルさんがそう言ってたっつったじゃんお前」
「いや本人はそう言ってなかったが」
ここは街から少し離れた、はじまりの草原。
根拠の無い噂はあっという間に広まり、噂に煽られたロボ好きプレイヤー数十名が、
血眼になって哀れなダークラビットとスライムを虐殺していた。
レアドロップアイテムにしか興味が無いとはいえ、通常ドロップアイテムである兎肉や謎の粘液
が血溜まりに打ち棄てられている光景はなんとも異様であった。
熱狂したプレイヤー達は気づかなかった。その血溜まりからどす黒い瘴気が立ちのぼっていることに。
「なあ、なんか急に暗くなってきてないか?」
「まだ夜になるような時間じゃないのに・・・」
「空見てみろよ。でっかい雲に覆われてる」
そのうちぽつ、ぽつと雨粒が落ちてきて、やがて本降りの雨となった。
顔にかかる雨をうっとおしそうに袖で拭う、と
袖が真っ黒になっていた。
「なんだよ、これ・・・黒い雨?」
「おい、魔物の様子がおかしいぞ」
スライムにも雨は等しく降り注ぎ、墨を水に溶かしたようにじわりと黒く染まっていき・・・
ダークラビットの漆黒の肢体はさらに暗く、全ての光を吸収するような闇を内包した。そして
『これよりフィールドボス戦を開始します。現時点を持って、はじまりの街パンドラの
セーフエリア指定が解除されました。ボス討伐が完了するまでこの設定は変更されません。』
無慈悲極まりないアナウンスが全てのプレイヤーの耳に届く。