ちょっと通りますよ
「って、あれ?さっきより人数減ってない?」
具体的に言うと『アヴァロン』二人とうちのギルド『笑顔の絶えない職場』の鐚ちゃん含め数人しかいない。十人くらいが消えた。
「あんたが無事ならもう用は無いだろ。それより『スライムの薄皮とダークラビットの耳軟骨からロボを造った』なんて聞いたもんだから、我先にと材料を狩りにいったんじゃないの」
僕自身はそんな事一言も言ってないんだけどなあ!
「ところで、その・・・」
鐚ちゃんがめずらしく歯切れ悪い様子で口火を切った。なんかもじもじしている。
「その、ロボット、触ってみてもいいか?」
彼女は意外と可愛いものが好きなのだった。とはいえ・・・
「僕に許可を求められても困る。飼い主じゃあるまいし」
「だって製作者の所有物じゃないのか?このアイテム」
あー、そういう認識になっちゃうよね。でもそれじゃダメだ。『中のロボ』は人権を望んでいる。
この先の事を考えると、事情を全部教えておくべきか。幸いここには信頼の置ける我がギルメンたちと
『アヴァロン』しか居ない。『アヴァロン』には嘘についての説明もしないと。
「うん、じゃ皆さん、とりあえずこちらの動画をご覧ください!」
前半は『アヴァロンVS機械兵』、残りは『ハゼルさんの突撃!勝利者インタビュー』となっております。
「すみませんでしたぁぁぁ!!」
「・・・悪かった」
カテリーナさんは機械兵(小)に向かって土下座し始めた。ヴィル君も小声で謝罪を口にする。
「どうしてこのひとたちはあやまっているのでしょうか」
「そりゃキミ、プレイヤーがプレイヤーに攻撃する行為は決して褒められるものじゃないからね。
これを『PK』と言うんだ。しかし美少女の土下座って結構グッとくるね!」
「黙れ変態。ていうかお前さぁ・・・
やっぱり作ったの傘だけじゃねーか!!」
ひとしきり鐚ちゃんにボコられた後、僕らははじまりの街への帰路を歩いた。
「『中のロボ』が確かに居るのに、システム上はアイテム扱いなんて不思議ですね・・・」
「やっぱり全部ストレージに入れてから門を通ったほうがいいんじゃないか?」
今機械兵は3/4が僕のストレージの中に隠れている。ちなみに1/4は僕の肩に引っ付いている。地味に重い
「いや、僕としてはこいつが一人で街に出入りできるようになるのが理想だからね。いつまでも人の目を避け続けるなんてできないし・・・やっぱり人と関わらなきゃ、こいつは『家にひとり』のままだ」
「ハゼルは無駄に顔広いからな。ハゼルの『持ち物』だって認識させりゃあ、邪険に扱ったりはしないだろ。」
NPC及び他プレイヤーにはこの機械兵(小)を僕の『アイテム』だと思わせる方針に決まった。
僕は先ほどの動画を前半のみ掲示板にアップロードしておく。そうすれば
機械兵(大)≠機械兵(小)と他プレイヤーは判断するだろう。『パージ』なんてスキル知らないから。
街で一定期間僕がこいつを連れまわして歩いてれば、多分NPCは勝手に『飼い主』と
『ちょっと変わったペット』と判断する。なぜって『猛獣使い』『従魔使い』職やらプレイヤーどもが珍しいペットを連れ歩いている光景は街中でもはや見慣れたものだからね。
ま、こんな風にあれこれ考えても
「結局門番が通してくれなきゃ始まりもしないんだけどねー」
「そんなあ」
「そんときはうちのギルドでかくまってやるよ!」
鐚ちゃんはすっかり虜であった。可愛いは正義って言うよね。
「そこの白いの!止まれ!」
機械兵じゃなくて僕が門番に止められた。解せぬ。
「人を撥ねとばしておいて謝罪もないのか貴様は!」
なんだか全く覚えの無いいちゃもんをつけられたが、機械兵から注意がそれたなら好都合か。
「いやすっごい急ぎの用事がありまして!まじすんまっせんでした!」
「・・・ところでお前の肩に乗ってる奴、なんかあの機械兵に似ている気がするんだが」
うげっ!まずい!
「そりゃ、真似して作ってみたんですから当然ですよ。
僕の新作を今日は一刻もはやく試運転するためにさっきは猛スピードで街の外までダッシュしまして、
気持ちがはやっちゃって、たとえ人を二、三人撥ねようが全く記憶に残らないほどですよ!
見てくださいこの再現率!
小さいながらも特徴を捉えつつ、かつ一切の無駄を省き洗練されたこのフォルム!
持ち歩きに便利なサイズに縮めるためにいかに小さな部品をさらに小さく極小の・・・」
「わかった通れ」