2023年6月分
№2695~2734
2695.
#twnovel 空き巣に入った空き家に、明らかに人の気配がある。実は居たのか、同業者と鉢合わせたか、それとも怖い話だろうか。物色の最中、その気配が姿を見せることはなかった。結局何も盗らず帰ろうとすると、玄関に『お土産』にように包みが置いてあった。踵を返し、線香をあげてから家を後にした。
*
2696.
#twnovel きっかけは就活の面接で「この水を一万円で私に買わせてください」と問われたことだった。答えられずに不合格となったのだが、その悔しさをバネに私は弾けた。「この水は私が清めた聖水である。特別に、一万円の寄付で恵みましょう」今や我が教徒となった面接官は、涙を流して喜んでくれた。
*
【文中に『汗』を入れて【知りたい】をイメージした140文字作文】
2697.
#twnovel 風邪を引くと、自分は良き同居人であったろうかと自省の念に駆られる。弱気になるからだろう。甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる相手への申し訳なさは、自分の弱さで「何か怪しい」という疑念に変わる。この汗は冷や汗だと見破られてはいないか。このスープには毒が入っているのかいないのか。
*
【「雪は懇々と降り駸々と積もる」で始まり「答えはイエスしか思い浮かばなかった」で終わるお話】
2698.
#twnovel「雪は懇々と降り駸々と積もる」まるで詩を詠むように「そんな日に生まれる双子の名前はコンコンとシンシンでどうかな」と問われたが、パンダじゃねえっつーの。大雪で来られない両家祖父母にそんな名前で紹介できるか。「嫌なら事故らず早く来てね」その答えはイエスしか思い浮かばなかった。
*
2699.
#twnovel 雪国に越してきて驚いたことの一つは、隣人から「お宅の塀に上ってもいいか」と許可を求められたこと。要は灯油タンク作業のためだったが、覗きたいのかと勘違いし「私でいいんですか」といい女感で回答し絶句されたのはまた引っ越すレベルの大恥だった。隣人と同居する今では笑い話である。
*
【#妖怪呟怖 お題「ル・カルコル」】
2700.
#呟怖
「現代のル・カルコルは昔のような牧歌的な怪獣じゃありません。怨念の化身です」巨大カタツムリ探しで渡仏してきた私に、現地ガイドはよく喋った。「日本の方ならご存知でしょう。お前の頭はどこにあるって歌。頭を探している相手を槍で突いて殺すんです。革命とギロチンが生んだ、怪物ですよ」
*
【「結婚したんだ」という台詞で始まり「濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた」で終わるお話】
2701.
#twnovel「結婚したんだ」こんなときに何を言い出すのかとぎょっとする。「現地で会ったばっかりの女に一目惚れしてさ。ひどい男だろ。もう戻りゃしないから、忘れちまえって、手紙に書いておいてくれ」その嘘だらけの手紙は誰宛てになのか、終ぞ聞けなかった。血に濡れた睫毛がゆっくりと下を向いた。
*
2702.『ゾーニング眼鏡』
#twnovel 色眼鏡で見るのはよくないと言われるが、「嫌なら見るな」が浸透した今では、誰もがゾーニング眼鏡をかけるようになった。嫌なものが見えなくなるため、みんな穏やかに暮らせている。ところで最近、妻や娘と会話するどころか視線が合うこともなくなった。俺のことが見えていないのだろうか。
*
2703.
しおしおと垂れる頭に落ちる首
明日は我が身か アルストロメリア
#twnovel
花首がポトリと落ちる瞬間を目撃した短歌。縁起悪いと思ったが、妻が「風流じゃん。短歌にしないと」と言うので詠んでみた。明日、無事に仕事を終えたらまた買って来ようか。花の名は妻が好きなアルストロメリアしか知らない。
*
2704.
#twnovel 作家になりたいと思った理由を尋ねたら「別になりたかったわけじゃない」と斜に構えた答えが返ってきた。「くだらないこと考えすぎて頭がいっぱいで仕事に支障が出たから、外に出して捨てなきゃいけなかった。定期的にやってたら、なってた」今は専業作家。本当は前職に未練があるのだろう。
*
2705.
#twnovel「作家になりたい」十年来の付き合いだが、そんな決意表明を聞いたのは初めてだった。どういったきっかけで。「今の仕事に疲れた」あるある。「顔も知らない他人の人生を背負うのはもう嫌だ。空想だけで生きていきたい」そういえば、こいつの職業を知らない。ネットだけの付き合いだったから。
*
2706.
脱出不可能な中庭に住み着いたカルガモ親子の処遇をめぐり、無理に追い出すかそっとしておくかで住民が対立。議論が続いたが、その間に雛鳥はカラスに襲われ全滅。自然の摂理。住民は和解し、鍋を囲み虚しさを分かち合った。
#twnovel
「…で、その鍋は?」
「鴨鍋。雛がいなくなった親に用は無いし」
*
《ショートコント飯店》
2707.『公共の福祉』
#twnovel「大将、酒のメニューにある『公共の福祉』って何。ストロングでゼロなやつ?」「概念的には合ってる。すいすい飲めて簡単に酔える。それによって言論の自由を制限する」「なんらほれ、ば、ばぁかにしれんのら」「そんだけ呂律が回ってなけりゃ何言ってるかわかんねえよな。好きなだけ愚痴れ」
*
2708.
#twnovel ハンバーガーの写真を撮るのには如何せん照れが出る。包み紙を開けて撮るべきなのだろうが、そこまでするほど上手く撮れないし、と遠慮してしまう。「いいんじゃないかな。人それぞれ、撮ってアップする目的があるし」そう言うアナタはなぜ包み紙を開けるんです?「深夜の飯テロ目的」邪悪。
*
2709.
#twnovel「そういや会社の敷地内で孵化しちゃったカルガモ、どうなったの」「どうもしてません。野鳥だし。今のところ害はないから、駆除するまでもないかと」「そういや『かわいそうだから若手社員でお引越しさせよう!休日にボランティアで!』って言ってた課長は?」「有害だったので駆除しました」
*
2710.
#twnovel たまに出入りしていた蕎麦屋が『コロナが明けるまでお休みします』と看板を出したのは、流行の初期。その後転勤がありご無沙汰していたが、そろそろ再開しているかなと足を伸ばす。看板は出たままで、明らかに朽ち始めていた。二度とここの蕎麦を食うことはないんだなと、理解してしまった。
*
2711.『書斎カー』
#twnovel「キャンピングカーブームにあやかって販売している『書斎カー』です。本棚と執筆デスクを基本装備しています」「車の中でも書きたいって作家さんがいるんですね!」「いえ。普通のカンヅメだと作家が逃亡を図るので、走行中の車ならそんな気も起こさないだろうと考える編集者さんに人気です」
*
2712.
#twnovel「推しの肉を食べないか」というやべー誘いを受けた。迷ったが、高い参加費を払い、しゃぶしゃぶ鍋を囲む。正直美味しくないが「食用に育てられてないから」という説明には説得力があった。本当に、最近亡くなったあの競走馬なのか真偽は不明だが、新しいビジネスの誕生に立ち会った気がした。
*
2713.
#twnovel 車のエアコンがイカれて車内が全然冷えない。たまらず、普段なら用事のない地元のサービスエリアに降りてしまった。名物ですと言われなくても知っている冷たいラーメンで水分補給。車に戻りたくなさすぎて、このまま併設のビジネスホテルにチェックインしようかと無駄な出費を検討する初夏。
*
2714.『音漏れ参戦』
#twnovel 音漏れ参戦するファンに公式が下した裁定は「場外とはいえ聞いてるんだから金払え」であった。代金を受け取ると、公式は「やっぱりいらない」と突き返し、「これは次回公演のチケットの優先券。このお金で買って、今度は場内で聞いてね」と神対応。恩情の優先券は、無事に倍額で転売された。
*
【twnvday2023/6/14 お題「泡」】
2715.
ビールは二度注ぎに限る。固くなった泡でグラスに蓋をするように仕上げるのが一番美味い。テレビの受け売りだが。コロナが明け、飲み会が復活し、この注ぎ方を披露する機会がやってきた。いざ「ダメだよ、ラベルが見えるように注がなきゃ~。どーれ私がやってやろう!」
#twnvday
ビールは手酌に限る。
*
【「誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか」で始まり「そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ」で終わるお話】
2716.
#twnovel 誰かに会いたいと思うなんていつぶりだろうか。その「誰か」にあてはない。俺は名を成すはずで、そのときが来れば誰もが再び寄って来る。だから今は連絡先など交換しないのが「粋」なのだ。だから誰にも訊かなかったが訊いてくる奴もいなかったな、と、そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ。
*
【文中に『掠め』を入れて【悔しい】をイメージした140文字作文】
2717.
#twnovel トンビに油揚げをさらわれる。よく言う諺だが、油揚げってそこまで惜しいものだろうか。そう言うと「揚げたてでパリパリ、七味を振って完璧に仕上げた油揚げを今まさに酒のアテにしようとした瞬間、腹を空かせたアホに掠め取られたら?」と喩えられ一瞬で理解した。悪かった。俺がトンビだ。
*
2718.『どろぼう』
#twnovel うちに入った泥棒はな、独りでやってる小さな飲み屋だってのに、売上もレシピも、客も店も俺の腕も全部持っていっちまいやがった。おやじがそう愚痴ると常連客は皆、そりゃ店を譲っただけだろ、と笑う。あの晩、本当に泥棒が入ったことを知っているのは、おやじと、店を譲り受けた俺だけだ。
*
2719.『在宅ワーク』
#twnovel 再配達の多さが問題だとニュースで知り「受取代行」というサービスを始めた。家主不在の荷物を、常に自宅に居る俺がドライバーから預かる中間業者。引っ切り無しに業者と客が来るのでちょっとの外出もできず、従業員を雇って交代制のシフトを組む。こんなしっかり働くつもりはなかったのに。
*
2720.『燕の巣』
#呟怖
地域おこしで移住してきて早々、家に燕が巣を作った。「燕は幸運の印。燕のいる家は火事にならないよ」とご近所さんは言ってくれたが、迷信に過ぎないので撤去する。翌日、家は燃えた。ご近所さんから「だから言ったのに…出て行った方がいい」と忠告。この集落で燕の巣がない家を、見ていない。
*
【「もうずっと前から消えてしまいたかった」で始まり「炭酸の強いラムネは涙の味がした」で終わるお話】
2721.
#twnovel もうずっと前から消えてしまいたかった、それこそ、人魚姫のように泡となって軽やかにサ、目の前でそんな消え方されたら相手も忘れられなくなるでしょ。そんな軽口を、ヤケ酒ならぬヤケラムネの合間合間に。重い想いは言葉にすれば消えていくと思っていた。炭酸の強いラムネは涙の味がした。
*
【文中に『夕暮れ』を入れて【対抗心】をイメージした140文字作文】
2722.
#twnovel わざわざ遠回りで家路についたのは、夕陽を拝むためだった。夕陽は悩みに効くと聞き、さてどうだと眺めたものの、さして心が洗われるようなこともなく夕暮れを迎えた。間もなく黄昏れ時。このままでは逢った相手が魔物だろうが突っかかってしまいそうな気持ちを燻らせ、次の気晴らしを探す。
*
【#妖怪呟怖 お題「さざえ鬼」】
2723.
#呟怖
ある漁師が大きな栄螺を水揚げした。聞き耳を立てると、どうも栄螺の中から女の声がする。まるで誘うように色っぽい。下心に負け、栄螺の中に棒を突っ込むと、握り返してくる感触。あとは壺焼きを美味しく食すように、棒で中身を引きずり出す。現れたのは縮み上がるような鬼の手であったそうな。
*
2724.
#twnovel その博奕打ちは何度も丁に張り、勝ち続けた。確率論の埒外にある存在としか思えない。畏怖の気持ちを素直に伝えると、博奕打ちは笑って「そりゃ、続けて打てばの話でやんしょ。あっしは賽が回る都度死んでるんで、常にまっさらで打てるんでさぁ」死に戻りチート…ってコト?「そうじゃねえ」
*
2725.『消しゴムマジック』
#twnovel 勝手に自撮りを始めては僕の写り込みに激怒していた彼女。てっきり消しゴムマジックとやらで僕を消していたかと思ったら、その失敗写真はパソコンにわざわざフォルダを作って保存してあった。遺品整理のタイミングでそんなことがわかるなんて。現実から消してやるのは早まったかもしれない。
*
2726.『海をなめるな』
#twnovel じいさんは海辺の街に住んでいるが漁師ではない。それでも子どもの頃から「海をなめるな」としつこく言われてきた。きっと、昔は海の男だったけど、何か辛い出来事があって辞めたんじゃないかな。思い切って聞いたら「いや、海水マジしょっぱいからなめない方がいいよアレ」だってさ。真理。
*
2727.
#twnovel さくらんぼの収穫は県民総出の一大イベントであり、この時期ばかりは入院患者ですら一時退院すると冗談めいて言われる。この時期にしか顔を見せない親類縁者もいる。収穫のあと、彼らは何処へ帰っていくのか。墓の下かもしれんな。そんな冗談をかわし、じゃあ墓参りかと明日の予定が決まる。
*
【書き終り:「失望が顔に出ていたのだろう。」】
2728.
#twnovel 全然顔に出ないよね、と、昔からよく言われる。私にだけは本当の顔を見せてよ、と、つい最近言われた。だから正直に「辛い、辛い」と零すのを我慢しなくなり、本当の顔を見せた相手は去って行った。相手が私への失望を隠さなかったように、私も、その裏切りへの失望が顔に出ていたのだろう。
*
【文中に『ティッシュ』を入れて【嬉しい】をイメージした140文字作文】
2729.
#twnovel 鼻がぐずぐずしているときに、ちょうど街頭のティッシュ配りに出くわした。やれやれ助かったと近づいていくと、そいつはティッシュを引っ込め「…いくら出す?」と足下を見てきた。へ、へへ…まさかこんなところで、需要と供給をとっさに見出すような気骨のある商売人に出会えるなんてよ…!
*
2730.
#twnovel「あの…ここに来ればアレがあるって聞いて」「アレって何だい。知らんよ」「…DVDです」「ふむ?」「普通じゃ見られないやつがあるんですよね?」「何をお望みだい」「サブスクで配信停止になったやつ」「なるほど…レンタルビデオ屋にもまだ需要はあるってことか。カードはお持ちですか?」
*
【書き終り:「漂う匂いにお腹がぐぅ、と鳴った。」】
2731.
#twnovel 最近、明け方には目が覚めてしまうので本を読んでいる。開けた窓から、スズメの鳴き声が聞こえる頃になると「もう何もしたくない」という思いが強くなる。このまま消えてしまえないだろうか。本を閉じてうじうじしていると、隣家は朝食を作り始めたようだ。漂う匂いにお腹がぐぅ、と鳴った。
*
【書き終り:「場の空気が張り詰めた。」】
2732.『素人質問で恐縮ですが』
#twnovel 学長のイタズラ好きは教授陣の間では有名で、学生の修論発表にもしれっと顔を出し「素人質問で恐縮ですが」をやる。アイスブレイクが目的らしい。質問を受けた学生は緊張が解れた様子で、口を開いた。「ハァーッ(クソデカ溜息)ホントに素人レベルの質問ですねえ!」場の空気が張り詰めた。
*
【書き終り:「白と静寂の世界だ。」】
2733.『洗濯の日』
#twnovel コインランドリーで洗濯物を回している間、持ち込んだ本を読む。ついつい没頭してしまって洗濯が終わったことに気づかないこともあったが、今日は、最後まで読み終わっても洗濯機は止まっていなかった。パンクした洗濯機から漏れ出した泡が床に、外に、天まで溢れていた。白と静寂の世界だ。
*
《ショートコント飯店》
2734.『雲隠れうどん』
#twnovel「大将、この『雲隠れうどん』って何」「つゆなしのうどんに、半熟玉子を落とす。白身を散らすように箸でかき混ぜれば」「なるほど、白い雲に紛れる月のようになる、と」「映えるだろ」「地味だよ。なあ、大将。あそこの席に座ってた人、最近見ないね」「雲のように、流れていったんだろうよ」




