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#ノベルバー 連作140字小説『探偵と鍵』

#1-10 『月とかぼちゃ』


【1日目 お題「鍵」】


#novelber 事務所を掃除してたら「鍵」が出て来た。これ何の鍵だっけ。探偵やってるとこういう謎の鍵が増えて困る。前に、館のマスターキーを勝手に複製したやつか。それとも犯人を嵌めるためにくすねたやつか。ふと思い立ち、ロッカーの錠に突っ込んだら開いた。助手、いや元助手、返しに来てたのか。



【2日目 お題「屋上】


#novelber 俺が初めて鍵開けに成功したのは学生時代。挑んだのは立入禁止の「屋上」だった。目的は忍び込むことじゃなく、自分が用意した南京錠に付け替えて、誰も開けられなくすること。そうして学校から、人目につかない非行の場を奪った。このときの“解決”が、インチキ探偵となる温床だったと思う。



【3日目 お題「かぼちゃ」】


#novelber インチキ探偵のもとにはインチキな客が訪れる。今回の依頼人は「かぼちゃ」を被っていた。助手不在の人手不足を建前に断ろうとしたが、受けるまでここで踊り続けると脅されては首を縦に振るしかない。やたらキレがいいが「支払いもダンスで」とか言ったら…言っても、か…タダじゃ済まんぞ。



【4日目 お題「紙飛行機」】


#novelber 早朝、ハロウィンのゴミを片付けていたら、頭に「紙飛行機」が当たった。開くとポエムが書いてあり、まるで遺書のように思えた。気がかりだから調べてほしい。それが依頼の内容だった。かぼちゃ頭にしては行動がいちいち殊勝だ。もう取れよ、と言うと拒否された。それを報酬にしてやろうか。



【5日目 お題「秋灯」】


#novelber ポエムと紙飛行機を作りたくなる場所なんてビルの屋上の他にない。手当たり次第に鍵を開けて回ったが、誰か飛び降りたという話も、屋上で事切れている姿もなかった。ポエムにあった吸い寄せられるような「秋灯」も眼下にはなさそうだ。上かも、とかぼちゃが言った。澄んだ空気に映える、月。



【6日目 お題「どんぐり」】


#novelber「どんぐり」集めたことないですか。昔は宝物だったのに、背比べだなんて見下ろすだけで違いもわからなくなって。月から見たら人間もそうでしょうね。嘯くかぼちゃ。紙飛行機のポエムを書いたのはこいつだろう。俺は今も拾ってるぞ、食えるから。俺の戯言に、マジっすかとかぼちゃは言った。



【7日目 お題「引き潮」】


#novelber かぼちゃが改めて自己紹介した。普段から仮装を嗜み、街のゴミを拾っているらしい。感謝はされるが本業(?)の撮影に打ち込むとゴミはどうしたと毒づかれる。そんなある日、自分が遺書めいたポエムを書いた理由を整理したくて依頼した、と。出した答えは「引き潮」。引かれているのだ、月に。



【8日目 お題「金木犀」】


同じ、終わりもしない仕事なら

掃除より桂の樹を切り続けたい

甘い香で何もわからなくなって

秋灯に誘われ、一歩を踏み出し

ゴミと人が溢れるこの場所から

さよなら

#novelber

このポエムさあ、桂の樹って何?

俺の無粋な質問に、かぼちゃは、「金木犀」的なやつですと教えてくれた。なるほど甘い香。



【9日目 お題「神隠し」】


#novelber ゴミ拾いが一人、「神隠し」のように街から消えた。それで良かったと思う。応援と強要の区別がつかなくなっていた時点で、あいつの心は月に旅立っていたんだ。人がゴミにしか見えない状態じゃ続けられないだろう。仮装自体も辞めたらしいが、引き潮なら、また満ちる時もあるんじゃないかな。



【10日目 お題「水中花」】


#ノベルバー

かぼちゃを見習って事務所の掃除でもと、ロッカーの鍵を手に取る。元助手の忘れ物でもあるだろうか。くすんだ灰色の箱の中には、目にも鮮やかな「水中花」が一つ。インテリアにと気を利かせて置いていったわけでないのは、花に混ざって瓶詰にされたモノが物語っていた。今度は何の鍵だか。


 *


#11-20 『病院と犯人』


【11日目 お題「からりと」】


#ノベルバー

小春日和の穏やかさを蹴散らす「からりと」晴れたクソ夏日、俺は車の中で蒸されていた。水中花に入っていたのは車の鍵。いつも元助手がハンドルを握っていたから預けっぱなしになっていた。これからは運転に慣れないと。そして、冷房の入れ方も覚えないと。オーディオ操作は完璧なんだが。



【12日目 お題「坂道」】


#ノベルバー

俺の探偵人生の中でも最大級のピンチだった。こうして入院で済んだのが不思議なくらいだ。ブレーキから足を離し、車が後退するより先に、アクセルを踏み込む。冷静に言葉にしたのが逆効果、イップスを発症し、車は「坂道」を下った。坂道発進は強敵だったぜ。聞いてるか、隣のベッドの人。



【13日目 お題「うろこ雲」】


#ノベルバー

隣の人が寝てしまったので、ぼんやり窓を眺めて時が過ぎるのを待った。空には「うろこ雲」が見える。きっと雨が降る。これじゃ今夜の一大イベントも台無しだろう。それはともかく、ベッドを抜け出し行動を開始する。俺が入院したのは目的があってのことだ。骨がアレしたのは誤算だ。痛い。



【14日目 お題「裏腹」】


#ノベルバー

新型ウイルスの流行以来、病院は見舞い程度じゃ立ち入れない場所になってしまった。だから患者になった。訪れた先で事件に遭遇するのが普通の探偵なら、俺は「裏腹」。犯人側のやり口だよな。だがそうでもしないと、元助手が車のトランクに放り込んで行った、この病室の鍵は使えないんだ。



【15日目 お題「おやつ」】


#ノベルバー

見舞いの品にでもと思って「おやつ」を持参したが、奴の口は呼吸器で塞がれていた。飴玉一つ押し込んでやるだけで危険な状態になるだろう。あるいは鍵を開放しておくだけで次の日には死んでいるかも。それだけ恨みを買っている。俺からも。因縁の事件の犯人を前に、俺は壁際に座り込んだ。



【16日目 お題「水の」】


#ノベルバー

こいつは元助手の命を狙った。その元助手がここに導いたのは、俺にトドメをさせと言っているのではないか。「水の」流れのように、思考が底へと落ちていく。それを雨音に重ねていた。底が満たされるのを待つ。ふと、雨が止んでいるのに気づく。窓の外、闇の中に、俺は光を見ることになる。



【17日目 お題「流星群」】


#ノベルバー

うろこ雲を見たときは気にしていたのに、こうして目にするまで忘れていた。今日は「流星群」が降る日だ。ぼんやりしている間に晴れていたのか。しばらく眺めて、病室を出る。今夜、探偵は休業だ。依頼は全て流れ星が持って行っちまうだろう。持参したおやつは自分の口に入れた。金平糖。



【18日目 お題「旬」】


#ノベルバー

退院した。誰が迎えに来るでも、事務所で待っているでもないので自分で退院祝いを調達する。今が「旬」の柿。かじってみるまで甘いか渋いかわからないところが探偵に相応しいじゃないか。俺はビターエンドばかりだがね。渋抜きをしろ、ていうか買え、と爺に叱られるのも探偵の仕事の内だ。



【19日目 お題「クリーニング屋」】


#ノベルバー

当事務所において「クリーニング屋」に通うのは元助手の役目だったので、コートを預けっぱなしになっていることに気付かなかった。引き取り、予感と共にポケットに手を突っ込むと、思ったとおり新たな鍵が。この鍵には覚えがある。失くしたと、明確に認識していたモノだ。元助手のヤツめ。



【20日目 お題「祭りのあと」】


#ノベルバー

事務所には留守にする旨の張り紙をした。向かうのは孤島の館。「祭りのあと」たる場所。かつて殺人事件が起きるはずが、俺が関係者全員を無差別に監禁したことにより何も起こることなく終わった場所。元助手はそこにいる。使うことになるであろうポケットの鍵を弄りながら、俺は船に乗る。


 *


#21-30 『助手と館』


【21日目 お題「缶詰」】


#ノベルバー

うちの探偵事務所には「缶詰」のストックが山ほどある。この館でも、集まった関係者を監禁して養うために大活躍した。その関係者の一人が、事件をやり過ごした後も犯人に狙われてると訴え押しかけて来た。その日から、俺はそいつを事務所に軟禁し、暇だからと言ってそいつは助手になった。



【22日目 お題「泣き笑い」】


#ノベルバー

最後に見た助手の顔は「泣き笑い」だった。クリーニング屋への遣いに出したときに襲撃してきた犯人を、返り討ちにし、返り血を浴び、涙を流しながら微笑んでいた。俺が閉じ込めるのに失敗した初めての事件。これでもう安全だからと言い、項垂れる俺のもとを離れ、そいつは元助手となった。



【23日目 お題「レシピ」】


#ノベルバー

飽きが来ないよう、缶詰の「レシピ」はだいぶ抑えてある。館のとき、元助手はその食事をやけに喜んでいた。ロクなもの食ってなかったのかと思うほど。作り甲斐はあったので悪い気はせず、だから気付かないフリをしていた。倍食ったとしても、人数の計算が合わないほど減りが早いものかと。



【24日目 お題「月虹」】


#ノベルバー

館での監禁は大人数で、長丁場になった。なので調査や人物の把握を完璧に出来ていた確信はない。途中から一人増えたくらい気付かない。ということにした。この島は霧深く「月虹」がよく現れる。見れば幸せになれるというからそんな気分になったのかもしれない。元助手の、アイツのために。



【25日目 お題「ステッキ」】


#ノベルバー

館には、俺が鍵を失くして開かずの間となってしまった部屋がある。とは言っても元から扉が重く、差し込んだ「ステッキ」をてこに使ってこじ開けた部屋だ。中に誰もいないことを検め、再び閉じた後、鍵は消えたままだった。クリーニング屋に預けていた、コートのポケットから出てくるまで。



【26日目 お題「対価」】


#ノベルバー

メシの「対価」だと言って、元助手は運転手や遣いを進んでやった。だが本当のところは、偶然とはいえあの部屋から出してやったことへの恩返しではなかったか。俺のコートを着て出歩いた元助手を狙った犯人の、本当の標的は俺ではなかったか。それを引き受けるのが、本当の対価だったのか。



【27日目 お題「ほろほろ」】


#ノベルバー

計画が緻密であるほど、鍵が開かないなんて些細なトラブルで全ては「ほろほろ」と崩れ去る。そうしてトリックを仕掛ける機を逸し、憑き物が落ちたように諦めるか、台無しにしたインチキ探偵に殺意を抱くか。元助手を襲ったあの犯人は後者の手合いだ。ただ、館とは別の事件の容疑者だった。



【28日目 お題「隙間」】


#ノベルバー

事件をやり過ごして無かったことにする解決方法をとっているから、結局、犯人は誰だったのだろうと、依頼と依頼の「隙間」の時間に思うことがよくある。館の事件もそうだ。この件については被害者すら見当がつかなかった。嘘だ。たぶん、元助手が、そのどっちかなんだろうとは思っていた。



【29日目 お題「地下一階」】


#ノベルバー

館の「地下一階」。俺が失くした、いや、元助手が盗んでいった鍵の部屋はここにある。この部屋にいたのは何者だったのか。殺されるのを待つだけの被害者か、巌窟王めいた犯人か。どっちだっていい。ここまで鍵を辿って来た理由はただ一つ。俺は、元助手に会いたかった。錠に鍵を差し込む。



【30日目 お題「はなむけ」】


#ノベルバー

開かなかった。やられた。錠の方のすり替え。俺のよくやる手口だ。思い切り悔しがり、転げ回って笑った。それが殺しも殺されもせずに、これからもどこかで生きていくアイツへの「はなむけ」だと思った。こうして俺の手にはまた使えない鍵が残った。探偵やってるとこういう鍵が増えて困る。

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